焼き奉行
「シュウ兄ィ、そろそろお昼ご飯の準備を、
始めた方が良いんじゃないのかな?」
休憩を終え、再び作業へと戻って居たシュウは、
暫く作業を続けた後、弟のケンに、そう声を掛けられた。
「おう!もう、そんな時間か、
仕事に集中してると時間の感覚が鈍くなるよな、
日本に居た頃はスマホのアラームがあったんで、
時間になれば直ぐに分かったけど、
こっちに来てからは、
余り時間とかを気にする必要とか少なくなったからな」
「トレウスの家にあるコンセントで、
充電は出来るんだから、
シュウ兄ィもスマホを持つ様にすれば良いのに・・・」
ケンが、時計代わりにしているスマホを、
作業服の胸ポケットから取り出しながら、そう告げる
「電話やネットが使えないのに、
時計やアラームとしての機能だけで持ち歩くんじゃ、
肩が凝る分、損してるみたいな気分になるんだよ」
「まあ、シュウ兄ィの言いたい事も分かるけどね、
こっちの世界の人達は、
日本の人達の様に、時間に縛られた生活もしてないしね」
「ああ、俺も、その点は羨ましい限りだな、
日本に居た頃は、折角、仕事の興が乗って来た時に限って、
決められた時間に取る事が決められてる、
一服の時間や、飯の時間に邪魔されてたからな、
日本でも、こっちみたいに仕事の切りが良いとこまでとか、
自分が納得行く段階まで進んでから、
休憩や食事の時間が取れれば良いのにな・・・」
「それじゃ、現場を管理する人とかが大変でしょ?
作業員が皆、まちまちの時間で休憩や食事をしてたら、
現場を管理している人達が休む時間が無くなっちゃうじゃん」
「まあ、そうだな、
言うなれば『管理社会の弊害』ってヤツなんだろうな」
「それで、重大な災害事故とかが減るなら、
一概には『弊害』とは言えないんじゃ無いのかな?」
「俺は、大概の災害事故ってヤツは自己責任だと考えてるからな、
そりゃ確かに、現場の危険な状態を放って置いて、
それが原因で起きる事故とかも中にはあるけど、
大多数の場合は、事故の遭った本人の不注意から
起きる事が多いんだぜ、
どれだけ現場の安全環境に気を配って居ても、
結局は、現場で働いている作業員本人の
安全意識がシッカリしてないと事故が起こるって事さ・・・」
「う~ん、まあ、
それは、そうなんだろうね」
「シュウ様、調理台や食材、調味料などは運んで置きましたが、
焼き台などは、どちらに御座いますのでしょうか?」
「兄ちゃんたち、はやくハコんでヤきはじめようぜ!」
シュウとケンが、地下の作業場からスロープを上がって来ると、
いち早く準備を始めていたラビ子とウサ太が、そう声を掛けて来た。
「ああ、焼き台だったら、
加工場の横にある物置の中に入ってるのを前に見たから、
俺も一緒に行って運んじまおうぜ、
他にも、焼き台用の網や鉄板、
バーベキュー用の、テーブルや長イスなんかも一緒にあったから、
リヤカーでも使って一遍に運んじまおう」
「うん、僕も手伝うよ」
「はい、畏まりました。」
「オレも、てつだうぜ!兄ちゃんたち」
「うわ~、初めて嗅ぐ香りだけど、
なにか食欲をそそる良い匂いがしているね、シュウ」
「以前に嗅いだ覚えが有る『ピロンの街』名物の
『ヤキニクのタレ』なる調味料を思い起こさせる、
芳醇な芳香ですな・・・」
シュウ達が、焼き台などを運んでセッティングを施し、
炭火を興してから、カットした野菜や、
タレに浸けこんで置いた肉などを焼き始めると、
その香りに誘われる様にして、
ピョロピョ~ロとバトリャ~の2人がやって来た。
「おう!ピョロ君とバトリャ~さん、
直ぐに焼けるから、そっちのテーブルの席に着いててくれるか?
バーベキュー道の作法だと、
メインの焼き係は、主催主が務めるもんだと決まってるからな、
いつもなら、調理の担当はラビ子なんだけど、
今日に限っては、俺が料理長的なポストになるんで宜しくな!」
シュウが、独自のバーベキュー理論を展開しながら、そう告げた。