飽食の国
「スープの話をしてたら、
何だか腹が減って来たな」
ラビ子から、過去に母親が営む食堂に出没したという、
スープが熱いとクレームを付けて来た客の話を聞いたシュウが、
自らのお腹をポンポンと軽く叩きながら告げる
「そう言えば、そろそろ昼食の時間ですね」
「シュウ兄ちゃん、オレもハラへったな」
「よっしゃ、そんじゃケンにも声を掛けて、
昼めしにするとするか!」
「はい、畏まりました。シュウ様」
「兄ちゃん、ひるメシは、
またカレーを食べに行くのか?」
やや期待を込めた様な表情で、ウサ太がシュウに尋ねる
「いや、カレーは今夜の晩飯の楽しみに取って置いて、
昼は、トレウス内で済ませる事にしようぜ」
シュウ達兄弟が所有する、この世界で、
たった一台しか存在しないと思われる『亜空間トレーラー・ハウス』
通称『トレウス』の荷台に広がる謎空間内の住宅にて、
本日の昼食を食べようとシュウが宣言する、
シュウらが昔、日本にて暮らして居た純和風住宅を模した、
その家の台所には、前日、料理に使用した食材が、
次の日には元通りに新鮮な状態で納まっているという、
便利な冷蔵庫『風』の機器が備え付けられているので、
いつでも気が向いた時に、食事が楽しめるのであった。
「畏まりました。
では、私が調理をさせて頂きますね」
「ショッキのセッティングなんかは、
オレにマカせてくれよな!」
「ああ、頼むぜラビ子、ウサ太、
何しろ、俺とケンだけで旅してた頃は、
食材を適当な大きさに切って、
塩か、塩コショウか、カレー粉で味を付けたら、
焼くか、炒めるか、煮るだけで、
盛り付けも、どんぶり飯の上にオカズを乗せるだけだったからな、
2人のお蔭で、使い道が分からなかった調味料類や食器類が、
日の目を見られる様になったぜ」
「いえいえ、私も、あれ程に多彩な種類の、
調味料や香辛料を使わせて頂けて楽しいです。
今は亡き母が見たら、泣いて悔しがると思いますわ」
「兄ちゃんタチん家のショッキダナって、
サラだけじゃなくて、
オワンにもタクサンのシュルイがあってオモシロいんだよな」
「まあ、俺やケンが生まれ育った日本って国は、
食に関する拘りがハンパじゃ無い人が多かったからな、
その分、食に関する色んな分野で、
国内各地は元より、それこそ世界中から、
色んな物や知識が流れ込んで流通してたんだよ」
「それは凄いですね、調理を嗜む人には夢の様な国です。」
「それって、カレーみたいな、
オレがイチドも食べたことがないような、
オイシイりょうりがタクサンあるってことだろ?
ホントうらやましいぜ!兄ちゃんたちのくにって・・・」
「確かに、美味い料理や店は多かったけど、
その分、競争が激しくてな、
常に新しい味を研究するとか、
他では真似が出来ない味を追求しないと生き残れないからな、
食べるだけの俺達にゃ良い国だったけど、
料理関係の仕事をする人達に取っては、厳しい国だったと思うぞ」




