摺(す)り合わせ
「・・・で今現在に至るって訳さ」
サスケは、この世界シエラザードへと召喚されてから、
今の、国王の座へと至る道程を簡略化してシュウ達に語り聞かせたのであった。
「ホント、波乱万丈の過去があったんですね」
「勝手に呼び出されて、そんな酷い目に遭わせるなんて、
陛下も飛んだ災難でしたね」
「まあ、そのお蔭でジュリー達を嫁に出来たんだから、
幸せを掴む為の試練だったって所だな」
「『災い転じて服焦がす』ってヤツですね」
「ジュリー、それじゃ転じてないだろ、
それを言うなら『災い転じて福となす』だぞ」
「そうそう、ソレです!」
「ジュリーさんは、日本の諺に詳しいんですね」
「うん、僕もそう思った。」
「ああ、前に俺が、ちょっと聞かせたら興味を持ってな、
お蔭で自家製の諺辞典を作るハメになったよ」
「ハハハ、それは大変でしたね」
「確かに日本人でも諺が好きだって人が沢山居ましたもんね」
「私とすれば、まさしく『棚からボタンエビ』ってとこだな」
「棚から生臭い匂いが漂ってきそうだなソレ!
ジュリー、それを言うなら『棚から牡丹餅』だぞ」
「お~、そうでしたか!」
「それで陛下、
俺達、こっちの世界に来たばかりで、右も左も分からない状況なんで、
この世界の常識とかを教えて頂けませんか?」
「お願いします。」
「おう!全然オッケーだぜ、何事にも備えは大事だからな」
「ああ、『備えあればカレーめし』って言うからな」
「そうそう、災害時には食料が大事・・・って違うだろ!
い、いや、確かに食料は大事なんだが、
ジュリー、それを言うなら『備えあれば憂いなし』だ」
「う~む、諺の世界は奥が深いな・・・」
という事で、シュウとケンは、
サスケとジュリーから、シエラザードの一般常識や貨幣価値、
現在の他国間の情勢などを教わったのであった。
「今、憶えて置けば良い事は、
大体こんなとこかな・・・そうだ!
コレを渡しておくから、何か困った事があったら連絡して来いよ」
サスケは『魔倉』から、
昔の折り畳めないタイプの携帯電話の様な物を取り出すと、
シュウへと手渡した。
「コレって、もしかして通信が出来る魔導具ですか?」
「一昔前のケータイみたいだね」
「ああ、俺が造った『魔導通信機』っていう魔導具なんだが、
あらかじめ登録して置けば、この大陸内なら通信が可能なんだよ」
「へ~、陛下が造られたんですか・・・
動力は、やっぱり魔力なんですか?」
「ああ、中の魔石に魔力が蓄えられて1年ぐらいは持つぞ、
表示板のMPゲージがゼロになったら魔力切れだから、
街の魔導具屋でチャージして貰ってくれよな」
「魔力を自動で吸い上げる仕様には出来なかったんですか?」
自分達の『亜空トレウス』を思い浮かべながらケンが尋ねる
「弟くん、俺達を基準に考えちゃダメだろ、
日本から来た俺達は膨大な魔力を授かってるから、
多少なら自動で吸われても大した事はないが、
元々、こっちの世界で暮らして居る人達の中には、
大して魔力を持っていない人が結構な数居るんだよ、
そんな人から自動で吸い上げたら、魔力切れでひっくり返っちゃうだろ?」
「あ~そうか、シュウ兄ィも言ってたけど、
僕達の魔力量って多いんでしたね、
それは、気が付かずに失礼しました。」
「いや、こっちの世界に、まだ慣れて無いんだから、
それは、しょうがないだろ、
それはそうと、さっきから気になってたんだが、
弟くんが腰に差してるソレは木刀なのか?
魔力の流れからいって、何かしらの魔法が付与されてるみたいだけど・・・」
「ええ、僕は子供の頃から剣道をやってたんで、
『建築魔法』の練習がてら何本か造ってみたんですよ、
魔法の付与はシュウ兄ィが掛けてくれた『状態保存』ですね」
「へ~、その木刀が、お前たちのチート能力で造った物なのか、
『状態保存』付きなら戦闘訓練の時に使い勝手が良さそうだな、
何本か造ったなら、俺にも譲って貰えんかな?」
「ええ、良いですよ」
ケンは、村の駐車場に停めてある『亜空トレウス』へと戻ると、
出来の良さそうな木刀を5本ほど手に取って戻って来た。
「こっちに来たばかりじゃ、お金も持って無いんだろ?
1本1000ギルで買わせて貰うよ」
サスケが『魔倉』から、黄色見を帯びた銀貨らしき物を5枚取り出して、
シュウへと手渡した。
「ええ、ありがとう御座います。」
シュウは銀貨を受け取りながら、サスケに礼を言った。
(魔法を付与したとは言え、所詮は木刀だからな、
さっきの話でサスケさんが、こっちの物価は安いって言ってたから、
良い値段で引き取ってくれたんだろう・・・)
その時、コンコン!というノックの音の後で、
家の入り口のドアが開き
「陛下、ただ今戻りました。
アソコを長くして、お待ち頂いた事と思われますが、
申し訳御座いませんでした。」と言いながら、
ビンビン茸などを採取しに行っていたタカムーラが入って来ると
「おう!お帰り、面倒掛けて悪かったな」
サスケが、タカムーラの下ネタをスルーしながら、
そう言い出迎えた。