過去バナ2
「しかし、ギル・マス達が学生時代って言ったら、
結構な前の話しになりますよね?
それなのに、未だにドングリーノさんは根に持っているんですか?」
想像するだに、数十年の年月にも渡り、
建築業ギルドのマスターであるメークソを恨み続けているという、
商業ギルドのマスター、ドングリーノに疑問を感じたシュウは、
そう尋ねてみる
「うむ、あれから既に50年もの歳月が過ぎて居るが、
未だに独身のアヤツを見る限り、
ディートリットット嬢の事を忘れられないでいるは事実であろうが、
アヤツが、ワシの事を今も恨み続けて居るのは、
ワシの伴侶となった嫁の事が起因しても居るんじゃろうな」
「ギル・マスの奥さんがですか?」
「うむ、先程も話したとは思うが、
ワシは、ドワーフに向くと言われて居る鍛冶の才能に恵まれなんだな、
それではと、過去の勇者が伝えたと言われる、
釘や金具を使わずに建物を建てるという技法を学んでいた時期があってな」
「おおっ!ギル・マス、宮大工みたいな技術を学んでたんですね?」
「むっ、シュウも、
あの技法の事を知って居るのか?」
「ええ、俺も弟も、専門に学んだっていう訳ではありませんが、
技術向上の為の一環として、師匠の親父に仕込まれましたね・・・」
「ほぉ・・・そうなのか、
お主らの父親は、良い師匠でもあった様だな」
「こと仕事に関しては、鬼でしたけどね」
「うむ、師匠という物は、そうで無くてはいかんな、
それで、話の方を元に戻すが、
ワシが、その技法を学んで居る時に、
当時、ワシが師事して居った師匠の元に、
ある依頼が舞い込んで来おってな」
「ギル・マスの師匠にって事は、
釘や金具を使わない建物の依頼って事ですよね?」
「うむ、その通りじゃ、
その依頼と申すのは、一般に金属の臭いを嫌う者が多いと言われる、
エルフ族らが隠れ住んどる『エルフの里』よりの、
住居の建築依頼じゃな」
「えっ?もしかして、その隠れ里って・・・」
「うむ、お主の想像した通りに、
その里とは、ディードリットット嬢の故郷である
『ロドス村』じゃったんじゃよ」
「へ~、そりゃ凄い偶然ですね」
「うむ、村からの依頼は、
既存の建物の、完全な木造のみへの建て替えという事で、
その棟数は、合計で30棟程もの数に上ってな、
師匠と、その弟子であるワシら、
そして、もう既に独立しておった兄弟子らを総動員しても、
全てが完成するまでに、5年もの歳月を必要とする大工事じゃったよ」
「建物の造りを考えれば、それでも随分と早かったですよね?」
「うむ、独立して居られた兄弟子らも、
みな揃って凄腕で居られたからな、
手子として使われて居ったワシらも、良い勉強になったよ」
「分かります。
良い職人の技術ってものは、
近くに居て見るだけでも、良い勉強になりますからね」
「うむ、そういう事じゃな、
そして、そのロドス村にて住居建築にあたっていたワシに、
一つの出会いが訪れたんじゃ、
その出会いと申すのは他でも無い、
後のワシの嫁となる、ディードリットット嬢の妹に当たる
『ディードリットットット』との出会いじゃ!」
メークソが、何かを期待するかの様な視線をシュウへと送りながら、
そう、大きな声で告げた。
「いやいや、ギル・マスは何かを期待しているみたいですけど、
もう俺、ツッコミませんからね・・・」




