職人芸
「ミケルンさん、俺が貴女の店を訪れた証として、
コレをプレゼントしますから、
時々見ては、俺の事を思い出してくれませんか?」
シュウは、魔導リュックの中から取り出した何かを、
ミケルンの方へと差し出しながら、そう告げた。
「あら、木像ですか?
シュウさんが、プレゼントして下さると仰るなら、
ありがたく頂きますが・・・ええっ!?
もしかして、この木像って私がモデルなんですか!?」
ミケルンは、シュウから手渡された木像を見て、
その像が、自分に瓜二つなのに気付いて、驚きの声を上げた。
「ええ、ミケルンさんの許可なく勝手に作ったのは、
ホント申し訳無いんだけど、
貴女をモデルにして、作らせてもらったんだ」
「モデルにするのは構わないんですけど、
何時の間に、これ程に精密な像を作られたんですか?」
「何時の間にって、ミケルンさんが、
ラビ子達の品物選びに付き合っててくれた間だけど・・・」
「ええっ!?それって、いいとこ2~30分の間だけですよ?
本当に、そんな短い時間で、これ程の逸品を作られたって言うんですか!?」
「いえいえ、プレゼントしといて、こう言っちゃ何ですけど、
その像は、逸品って呼ばれる程の出来栄えじゃ無いですよ?
洋服とかの立体感が今一だし、
細かい部分とかの鑢掛けなんかも甘いですからね」
「そんな事無いですよ、ウチの店でも木像とか、
木彫りの人形などを商品として取り扱っていますけど、
それらの品と比べましても、勝るとも劣る事は無いと思います!」
「そこまで、ミケルンさんに褒めて貰えたら嬉しいですね、
俺もケンも、この手の、木を加工するスキルに恵まれていますから、
この位の木像でしたら、手早く作る事が出来るんですよ」
「シュウさんとケン君の、ご職業が大工さんというのは伺っていたんですけど、
勇者の隠れ蓑として、仮に名乗っていらっしゃったんでは無いんですね・・・」
「ええ、俺とケンは、正真正銘の職業大工ですよ」
「副業で家具造りとかもするけどね」
「はい、これ程の、凄い腕前を御見せ頂いたら、
疑うべくも御座いませんね」
「それから、ついでにリラクゼーション効果を持った魔法も付与しといたんで、
身近な場所に飾って頂いた方が良いと思いますよ」
「えっ!?その上、魔法の付与まで御出来になるんですか!?
本当に、大工としても、王族とか上級貴族の方とかに、
召し抱えられるレベルの才能をお持ちなんですね」
「勧誘とか面倒なんで、余り大っぴらにする心算は無いんですけどね」
「僕達の目的の妨げとかに、絶対なりそうだもんね」
「そうなんですか・・・
それと、何か、この像って良い匂いがしませんか?」
「ああ、その香りは素材の匂いなんですよ、
前に仕事の材料を手に入れる為に、ケンと一緒に、
森にトレント狩りに行ったんですけど、
その時、仕留めたトレント達の中に、
偶々、エルダートレントの亜種で、『パフューム・トレント』ってのが、
混ざってたんですよ」
「見た目は、他のエルダーと変わんなかったよね」
「パ、パヒューム・トレントですって~!?」
「あれ?ミケルンさん、知ってるんですか?」
「もしかして、割と有名な素材なのかな?」




