第7話 「家庭教師」
3歳になってから……否、刻印を手にいれてからは魔術の練習に明け暮れた。
起きて最初は風魔法の制御、寝る前には水魔法を浮かせて集中力の強化に勤めた。
なぜ、ここまで必死に鍛練に勤めているか……それは、転生前の地震で彼女を失ったことに起因する。
仕方ないことだと割りきることができたのならそれまでなのだろうが、何もできなかった自分を許すことができないのだ。
転生前、もしかすると助けられたのかもしれない、もっと早く気付けたかもしれないいという気持ちがないとは言えないのだ。
だからこそこの世界で生きているうちは後悔が少しでも残らないように今努力するのだ。
そんな日々は続き、4歳になる頃にはさすがに鍛練しているのがばれてしまいグレンから剣術を習うことになった。
5歳になり、筋力や魔力はおろか、魔力制御能力や能力の効果もわかってくるようになってきた。
5歳の誕生日、それはレイにとって運命の日となった。
※ ※ ※ ※ ※
「誕生日おめでとう。レイ」
ガシガシと、頭を撫でるグレンの言葉に、レイは誕生日だということを思い出した。
《救世主》による予告や《魔力感知》での下準備にも気づくことが出来なかったのは、5歳になるまでに得た能力、《結界》と《背徳者》によるものだろう。
前者は、その時のとおり結界を張ることで魔術的感知を受け付けない代わりにこちらも魔法を使うことの出来ないというものだ。
後者は、自身から発する音や匂いを消す代わりに筋力が低下する能力だ。
一見関係の無い能力に見えるのだが、その二つは共通点があった。
それは、互いに諸刃の剣になりうるという事だ。
《結界》は自身を相手の魔術から守るが、身体能力に頼るしかなくなり、目視による発見はされてしまう。
《背徳者》は相手から発見されにくくなるが、魔法に頼るしかなくなり、魔力感知にかかってしまう。
さて、話をもどしてその二つがどうして予告と下準備に気付かなかった原因なのかというと。
《救世主》が《背徳者》の解析をかけているため他に手が回っていなかったこと。
そして、レイ自身が《結界》を使って能力の開発を行っていたからだ。
詳しくはまた後日説明することにしよう。
さて、5歳の誕生日だ。
その日は、レイに家庭教師がつく事になっていた。
※ ※ ※ ※ ※
「はじめまして、わたくし、本日よりこちらに仕える事になりましたリドヴィアと申します。
さて、唐突ではありますがわたくしが魔術を教えるというのはそちらの護衛の方でしょうか?」
リドヴィアは、シルフィにそう告げた。
リドヴィアは本で見たとおりなら魔人種のうちエルフィン族と呼ばれるものだろう。
身長は約150センチと低く、髪は青みがかった緑というべきだろう。
そして魔人種と証明されているのが1つ。
それが額にある角だ。
ちなみに、護衛というのはアイズのことを指していたのであろう。
目がそちらを向いていた。
「こちらこそはじめまして。あなたがギルドより送られたリドヴィアさんですね
依頼書は拝見されたかと思いますが、こちらが魔術を教えて欲しい子です」
アイズは一歩前に出て、レイを前に押した。
「はじめまして。レイフィール・ヴァイスハーゼと申します。魔術刻印は風または水との話です」
挨拶替わりに風と水の魔術を最大限加減して発動させた。
「《ウィンド》《アクアボール》」
そよ風が吹き、直径10センチほどの水玉を出した。
ちなみに、数ある本の中から分かったことだが、《雷》という刻印は存在しないとされているので、ここで明かすのも野暮というものだろう。
「無詠唱魔術!?
いえ、そこには驚きしかありませんがスキルにはそういうものもあると聞きますし、それ以前にこの魔力量は大したことありませんね」
一瞬だけ驚いた様子だったが、すぐに気を取り直して反論を返した。
だがいいことを聞いたのは確かだ。
スキルで無詠唱ができるという事は更なる汎用的スキルがあってもおかしくない。
「いるんですよね〜自分の子供が多少珍しいスキルを持っていた程度で天才だと思い込んですぐにギルドに依頼を出す親バカが…。
まさか、かのチームの主力夫婦がこのような方だとは思いませんでしたよ」
少し、呆れたようなリドヴィアにかなり頭にきた。
「へぇ、じゃあ……」
だが、レイの口はクリスによって塞がれた。
「それでは、ギルドへの依頼は不達成ということでよかったのですね
それでは、ギルドへの報告に行きましょうか?」
シルフィの淡々とした声を放ち、その姿のままどこかで歩いていこうとする。
だが、慌てたようにリドヴィアは声を上げた。
「しっ…失礼しました
わたくし、リドヴィアの全身全霊を持って依頼通り1年間住み込みにおいて風魔術の教育を遂行させて見せます」
ギルド内において、魔人種の評価は比較的低いものとされている。
人間種と比べて魔術制御能力に長け、さらに体内への内包魔力も高いのになぜ評価が低いというのか?
それは、《魔人パンドラ》により人間種は絶滅の危機に陥ったからであり、今でも魔人排除団体と呼ばれる者がいるという話だ。
さて、話がズレてしまったようだ。
ただでさえ低い評価に依頼失敗というものは痛いのだろうか、的確な言葉を浴びせたというのだ。
「さて、それじゃせっかくなので一緒に誕生日を祝いましょうよ」
明るく声を上げるシルフィに、否定の声を上げる人はここにはいなかった。