第4話 「能力獲得①」
久々の更新になります(長らく待たせてしまい申し訳ありませんでした)。
また、前話の編集をしていますのでそちらのほうの見逃しがないように気を付けてください。
それは、いつもと変わらない日だった。
「え~、この数式テストに出すからちゃんと書いとけよ~」
いつもと同じように黒板に数式とそれに準じた例題を書き上げ、生徒たちのほうを向いた担任教師 須郷 昌。
生徒に対して命令口調のようだが、よく慕われている先生の一人だ。
そして、ノートに書き写すものと雑談に気が向き聞いてなかったものに分かれていた。
「……って、もう龍種揃えたのかよ」
「俺にかかれば当たり前だろ」
「課金厨乙」
「ばっ…課金なんか(そんなに)してねーし」
「月当り5千円近く課金してる人は無課金とは言いませんよ」
今話題となっている追加課金制VRゲーム『FAO』の話に夢中のようだ。
ちなみに龍種というのは四代元素火、水、土、風の進化魔法である炎、氷、金、嵐を現し、それを入手するためには龍を倒さないといけない。
「お前ら~先生だってFAOやりたいの我慢してるんだから今は板書しろ」
「あっちゃんも我慢してるのかよ」
「は~い。今だけ我慢しマース」
「そりゃやりたいさ。あと、あっちゃんはやめなさいと何度も言ってるだろうが」
「は~い」
いつもと変わらない注意、いつもと変わらない対応だった。
変わったことと言えば、今日は寝覚めが悪く頭が痛いことと須郷の機嫌が悪そうなことぐらいだった。
授業の終わりも間近な頃、それは起こった。
最初は小さな揺れだった
グラグラと教室中が揺れた。
「地震か!?」
「お前ら、机の上に頭を隠せ!!」
「ひぃぃぃぃ……」
『イデアの接続を確認しました』
「思ったより近いんじゃない?」
全員が頭を机の下に隠したとき、警報装置が稼働した。
ピりリリリリリリリ………!!
教室中に鳴り響く警報に対して地震はすぐに収まった。
「思ったより揺れたな」
「全員無事か?」
ーーー本当に収まったのか?
『解:主要動まで約10秒』
どこからか幻聴が聞こえてくる。
それに従う僕は、下を向いていて気づかなかった。
気になっていた女子生徒が机とは遠く離れたところで小さくなって震えたことに。そして、彼女の机に近くでは数人の女子生徒が固まってクスクスと笑いながら彼女を見ていたことに。
「収まった…のか?」
頭を上げ、机から出ていく生徒たち
その声に反応して僕は顔を上げると彼女を見つけた。
ーーー助けないと!
『解:主要動まで約2秒。対象の救出には間に合いません』
頭に直接響く声は無常に告げていた。
その声に反して僕は駆けた。
机から飛び出し、自分の身体を覆いかぶせる。
ただ茫然とする彼女。
そして、主要動が来る。
グラグラと揺れる床に割れて落ちる天井。
机に隠れていても意味などなかった。
ーーーあぁ、せめて彼女だけでも助からないかな。
『イデアに接続…《支配》獲得しました』
降りかかるガラスの破片を身体で受け、痛みに耐えながら必死で守ろうとした。
大切なものはもう失いたくないから。
ーーー助けられなくてごめん
天井がついに落ちてきた。一瞬のうちに避けられるはずもない。
『イデアに接続…《救世主》獲得しました』
ーーーもっと早く気づいていれば
ーーーもっと早く行動に移していれば…
ーーーもっと早く…もっと…もっ…
『イデアに接続…《強欲》獲得…失敗しました。
《支配》の進化を確認。《支配者》に進化しました』
瓦礫が落ちる直前、彼女の涙目になった顔が視界に映った。
ーーーあぁ、やっぱかわいいな。いつも優しくしてくれてありがとう。
『イデアに再接続。《怠惰》獲得しました』
ーーーさっきから誰か知らないけど、この子をどうか僕の代わりに助けてくれ
『《怠惰》の進化を確認。《怠惰者》に進化しました』
ーーー怠惰か…にあっ…
ぶつんと、意識が途切れ死んだのだ。
そして目を覚ましたらそこは異世界だった。
※ ※ ※ ※
生まれてすぐ、僕は転生したんだと気付いた。
新しい世界に転生する。ライトノベル読者なら大体の人が憧れるものだが、思ったほどの感慨深さはなかった。
赤子として生まれ直したのだから当然なのだが、自分で動くこともままならないのはどうしようもない。
そして、精神上18歳になるのだからおむつを替えられるときなど恥ずかしすぎる。
だが、自分でできないことだと割り切ってしまえば切り替えが早かった。
まず、自分が動けないうちはどうするかだが、そのうちは自分の能力についての考察とこの世界の言葉を覚えることにした。
『能力《救世主》定着完了しました。』
そんな声が聞こえたのは2歳のころだった。
ーーー定着?能力ってこの世界特有のものじゃないのか?
『解:この世界の生き物すべてに固有能力とユニーク能力は存在します。そして転生者の能力はこの世界に定着するまで能力として発動することができません。なお、例外として強制的に発動することのできるものもありますがそのようなことをすればイデアの損傷をきたします。そのイデアを保護する役目で神々は刻印による接続を…』
ーーー簡易的解説よろ
『解:自分で考えてください。答えはすでに脳内に刻まれています』
能力が怒った!?
でも、確かに意識すれば取扱説明書のごとく能力についてがわかった。
刻印については不明なのだが、それはまたいつでもいいだろう。
ーーーそれにしても、この声って何なんだ?死ぬ前にも聞こえた気がしたんだが
『解:《救世主》です。尚、転生前への干渉については禁則事項のため情報開示に失敗しました。
《支配者》を使用して情報開示しますか? yes/no』
禁則事項ということはバレてはいけないということだろうか
ならここは元日本人らしくこう言おうじゃないか
ーーーそんなのノーに決まっている
『承認:対象の情報を非公開にしました。尚、情報の取り込みに成功しましたので気になったらいつでも申してください』
ーーーは?選択肢の意味は?
『解:主への情報開示の拒否と捉えました』
ーーー……。ところで、その支配者って物騒な能力なに
『解:《支配者》の能力情報を開示…成功しました。
支配:自身の能力の支配と格下相手への支配権。
捕食:相手を捕食可能する。捕食された相手の能力を支配下に置く。
還元:支配下に置かれた能力の解析・研究する。解析に成功すると能力が獲得される。
以上が能力となります。わからない場合はあちらで試してみてはどうでしょうか』
あちらというのはどこを差しているのかわからないのだが、周りを見回してみることにすると、近くにはどこからか迷い込んだ小さなスライムがいた。
四足歩行でよちよちとしか移動できない2歳児の側にスライムがいた。
レイは、恐怖で身体が固まるのを感じた。
『この世界のスライムは無害です。さぁ、取り込んでみてください』
初めて見る魔物。自分の顔の半分くらいであるスライムがズルズルと近づいてくる。
「ひ…ぎゃぁぁぁ!!」
恐怖のためスライムに覆いかぶさり体中がびしょびしょになった。
『粘性魔物の捕食に成功。固有スキル《自己再生》を取得しました』
《救世主》の声を聞きながらレイは眠りについた。
隣の部屋にいたアイズが駆け付け、レイを抱えた場所にはスライムの姿はなかった。
アイズはレイがびしょびしょなことから、おもらしをしたんだと勘違いすることになったのはレイにとって幸運だったのかはたまた不幸だったのかは知る由もない。