第3話 「魔術」
H28.8.15 更新しました。
3歳になった。
足腰がしっかりしてきたので、まずはこの家の探索をすることになった。
1階のリビングや寝室には特に興味をそそるものはなかったのだが、目的の場所は2階にあった。
僕に与えられた部屋の隣にあるクリスの部屋の先にある書籍だ。
そこには数十冊にわたる本が並べてある。
本棚というものがこの世界にないのか、机に置いてあるような状態だった。
だが、どれもがカビなどのついていない新品のような手触りだった。
その中の興味を持つものが5つだけあった。
その本とは下記の5冊だ。
・魔人パンドラ
悪いことをすると魔人パンドラが暗い箱に閉じ込めるという子供向けの絵本。
子供向けだからか、文字を学ぶために簡単に書かれているようだった。
・刻印と神域
神の与える刻印と神の住む神域についての教科書。
説明の中では、刻印には属性がありそれは神域と深く関係しているということだった。
・魔獣と魔物と勇者ジークハルト
かつて突如として現れた魔獣と魔物に対峙する勇者ジークハルトの冒険譚。
魔物の生態や対処法、魔物と魔獣の違いなどが書かれていた。
・英雄王世界を歩く
世界各国の特徴や棲んでいる種族が記されているガイド本。
・終焉戦争
魔物を率いて世界各国を陥れた神と戦う龍と神そして人間種の勧善懲悪なおとぎ話。
最後の1つはともかく、他の4つは勉強になった。
魔人パンドラを読むことで分かったのだが、この世界の文字は元の世界(日本語)とよく似ており、容易に覚えることができた。
読んでいくとどれも面白かったのだが、特に刻印と神域は興味深かった。
この世界の基本的な魔術の概念やその応用する術がわかった。
1.刻印について
刻印とは、生後3年目に与えられる主神からの祝福の証で、これはよく言うところの魔術回廊というものらしい。
刻印にもいくつか種類があり、一部は以下の通りだ。
・魔術刻印
魔術を使うにあたって必要となる刻印。
これは生まれながらに血の中に通っているが主神により刻印が授けられないと使うことができないようになっている。
・異能刻印
唯一無二のオリジナルスキルを使うための刻印。
成長する過程で発現するスキルを使うため必要な刻印。
これのほかにも他者に譲渡可能なものや物体に組み込むことで効果を発揮する刻印がある。
2.魔術を使うためには魔力が必要である
魔術には魔術刻印に含まれる魔力を介して発動する魔法と大気中の魔力を介して発動する精霊術とが存在し、どちらもその媒体として魔力が必要とされている。
・魔法
体内の魔術刻印を使うため枯渇してしまうと意識が落ちてしまい危険な目にあってしまう反面、詠唱を短く且つ威力を高くすることが可能。
支援魔術はこちらでしか使うことができないが、その代わりに大魔術の多くが使用できない。
属性も刻印に会ったものしか扱うことができずそれ以外を使うとより多くの魔力を消費する。
・精霊術
大気中の魔力を使うため魔素の少ない場所では詠唱が長く威力が低くなってしまう反面、広範囲に魔術を放つことができる。
召喚魔術をこちらでしか使うことができないが、魔素の乱れにより魔術が不完全にはつどうすることがある。
このように、どちらも一長一短な点があるようだった。
この二つは事前に物体の中に魔力をこめておくことで発動時のリスクを軽減することができるようだ。
3.体内の魔力総量は生まれた時からほとんど変動しない
これはどうなんだろうか
普通のゲームだとレベルアップする毎に魔力が増えていき次第に大魔法といった強大な魔法を使うことができるのだが……。
ほとんどというからには多少変動するのだろう。
だが、魔力が変わらないのだとしたら大魔術が使えないというのも納得がいくのだった。
考察していても埒が明かないので、簡単な魔術から使ってみることにした。
「大気よ、風を起こし給え《ウィンド》」
血が巡り、右手に集まってくるような感覚があった。
次第に右手からそよ風のような空気の動きがあった。
「おぉ……これが魔術か」
感動していると風がとまった。
どうやら集中が切れると魔術も止まってしまう様子だった。
目に見えないせいか、できていたのか謎だ。
次は別の魔術を使うことにしてみる。
「雷よ、光の玉となり汝を穿て《サンダーボール》」
今度は集中力を切らさないためにイメージを固めた。
掌にできる雷の玉。
某漫画に出てくる雷の玉がイメージ通りに出来上がる。
感動のあまり前に歩き出そうとしていた。
そして次の瞬間僕は壁にぶつかっていた。
「え……?」
まるで某漫画のように走っていき壁にぶつかったのだ。
サンダーボールは雷の玉を前方に打ち出す魔術だ。
決して掌に雷の玉を創り出し、相手に直接中てる魔術などではない。
もしかすると魔術というのは決して詠唱が必須なのではないのではないだろうか?
詠唱することで魔術の発動を自動化させるのではないだろうか?
壁に大きな穴をあけ、バタバタと階段を上る音をしり目に意識は遠のいていった。
※ ※ ※ ※
「レイは天才ね……なんて」
「いや、……じゃないのか…かもしれ…」
「…の時……じゃない」
すぐそばで話し声が聞こえる。
次第に意識が戻り、話し声も明確になってきた。
「レイには、魔術の家庭教師をつけましょう」
「剣術を教える時間が…」
「往生際が悪いわよお父さん?」
「んむ…」
納得のいかないような顔をするグレン。
だが、もう決まったことのようにうきうきとした調子でどこかへ向かうシルフィエールに何も言えないでいるようだった。
「お父さん、レイ様が起きました」
しばらく固まっていたグレンに水を差すように例が起きたことを伝えるクリス。
グレンは目を覚ましたレイを抱きしめた。
「刻印を与えられて2日で魔術を使えるとは思ってなかったぞこの天才息子め」
ガシガシとレイの頭を撫でるゲレンをよそに、そばにいるクリスは心なしか少し悲しそうだ。
レイより早く刻印を授けられたのに対していまだに魔術を使うことのできないことにいくらかの不安を抱えているのだろう。
だが、それが常識なのだから仕方ない。
本来刻印を授けられてから下位魔術を使うことができるようになるには1年という長い年月がかかるというのだ。
レイがたった2日で魔術を酷使できたというのも、転生体であり能力『支配者』と『救世主』を得ていたことが関係するのだろう。
その能力をいつ手に入れたのかは転生前……前の世界で死ぬ直前までさかのぼる。