プロローグ
日本の某日。
突如として起きた地震により数多くの被害が出ていた。
いつもと同じ日常を生きていた少年少女の通う高校でも同じだ。
地震による被害は行方不明者45人、死者5人の被害がでていたのだった。
そしてその被害者の一人である少年は幸か不幸か地震の直後に異世界へ転生したのだった。
意識は白く染まる空間にあり、まどろみに染まっていた。
何度か揺れたような感覚のあと、どこからか惹かれるような感覚ののち鋭い痛みが頭を支配した。
「っつぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁあ」
「っ…すぐ治癒かけるわ」
目を開けるとそこには黒い髪に身に会わない柄の長い鎌を携えた少女が立っていた。
光のようなものが身体を包み、痛みが引いていく。
それが異世界に転生した最初の目覚めだった。
ー黒神アイサ視点ー
地下迷宮深層50階に位置する広場に彼女はいた。
広場の中心には骨のバケモノ、スカルリーパーが何かを守るように存在している。
骨で出来た身体は剣を弾き、左右対称に四本ずつある脚と、尾が鎌のように鋭くなっていることからS級危険種とされている。
その化物に相対するのは黒神アイサと白い髪の少年だ。
白髪の少年が何かを呟くとアイサの全身を包むような光が現れる。
「レイ、ありがとう。
ここは危険だから下がってて」
アイサはそういい、白髪の少年レイを下がらせた。
身の丈に合わない鎌を何処からともなく取り出し、スカルリーパーのそばまで近づく。
スカルリーパーは動かない。
「数多の奇跡を改変するものよ我糧になりてすべてを食らいつくさん。« ソウルイーター»」
光が鎌に集中し、それを振りかざす。
スカルリーパーはまだ動かない。
アイサは不安を押し込め、鎌を振り下ろす。
不気味とスカルリーパーは未だに動かない。
まるでそれは何か別なものに討伐されてしまったのではないだろうか。
そのような不安は当たっていたのだった。
剣をも弾く身体はあっさりと切り裂かれ、スカルリーパーの身体がボロボロに崩れ去っていく。
あっけない終わりに、ただ竦んでいたアイサはその影に気づくことが出来ていなかった。
対象のスカルリーパーをあっけなく倒したと思い、広場まで出てきたレイをその影は貫いた。
“ スカルリーパーの尾のようなもの”によって背中を貫かれた。
「ごふっ……」
びしゃっという音とともにドサりと倒れるその体はもう既に死人のようだった。
血の気は引いていく。
そんな背後の様子に遅くも気がついたアイサは、信じられないように顔を歪めた。
スカルリーパーは、一体だけでなかったのだ。
そして尾を抜き、次はお前だとでもいうかのようにアイサへ近づく。
アイサはスカルリーパーからの攻撃を鎌でいなし、だが身体は既にボロボロだった。
広場の中でも唯一安全圏である入口付近までレイを運び終える頃には既にアイサも何度か攻撃を食らってしまったのだ。
アイサは安全圏に入ったと見てすぐに回復魔法を唱えた。
「聖母の加護のもとに癒しを与えたまえ«キュア»」
それは奇跡と言ってもいいだろう。
魔法を唱えただけでアイサはおろか重症であるレイの傷まで癒えたのである。
否、それは完全には癒えていないのだろうが、先程までのような背中を貫通する殺傷は癒えたのだ。
と、その時だった。
何度目かの奇跡が起き、目が覚めないはずのレイが目を覚ましたのだ。
叫び声と共に。
「っつぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁあ」
「っ…すぐに回復魔法を唱えるわ」
苦痛に顔を歪めたレイに、驚きを隠せない様子のアイサだが、すぐにキュアを唱える。
光のようなものが身体を包み、レイの顔が心なしか和らいでいくとともに不思議そうに痛みのあった場所、背中をさすっていた。
そしておぼつかない足取りで立ち上がり、安全圏を出てしまった。
「エ…」
そして次の瞬間には胴と頭は離れていた。
アイサはそれをただじっと眺めていた
「ああ、まだ出られないのか」
そうつぶやき、姿が消えていく。
今度こそは必ず出られる。
そう、約1万5千回に及ぶ言い訳を自分自身に聞かせていた。
少しずつ、少しずつ未来は変わっているのだから…と。