第五話 備えあっても憂いあり
噂はじわじわと広がっていった。
ある者は深く考えずに指をさして笑った。ある者はゲームサービス自体を賭けるとはどういうことだと批判した。ある者はそもそもが運営が考えたネタなのではと邪推した。あるものはこの事件と関係のないはずの任天○を批判したりしていた―――――
「なんでや任天○関係ないやろ!」
「ゆうくんいきなりどうしたの?」
「いや、なんでもない……」
メニュー画面を閉じてユキ姉の方に振り向く。あれから既に2日が経ち、あの集会所での出来事もいい加減色々な所へ広まってきていた。
それはまぁいいとして問題はユキ姉である。ランクはまだ50にもなっておらず始めたばかり……という程ではないが、熟練者たちが出るであろう大会に出て張り合えるかといえば普通にNOである。そこで今はとりあえず装備をなんとかしようとフレーム武装系のショッピングモールへと来ていた。
「それでユキ姉これからどうする? このままランク上げ続けても大会には間に合わないけど……」
「どうしよう……何か手はないのかな……?」
「あるにはあるけど……」
「あるのっ!?」
ランク50以下が50以上にランク戦、大会等の公式戦で勝つと相手一人分につき経験値無視でランクが1上げることができる。それを利用できればランク50以上を12人倒すことができれば一気に50……にはなるが……。
「現実的に考えてキツすぎる……それよりも実戦で覚えとかなきゃならないことの練習しよう。まずサブアの武器外して盾付けようか」
「サブア?『サブアーム』なるほど……なんでなの?」
「基本的にサブアームにまで意識割ける人少ないからとりあえず展開しとけば役に立つ盾付けるのが基本なの」
「なるほど……確かに全然使ってなかったかも」
「でしょ。後その『SAM-MA MG_Aigis』……シールドブレード産廃だから降ろして『SAM-MA MG-Exia』ってやつ積んで――――」
そんなアドバイスをしながらユキ姉と行くちょっと物騒なショッピングは始まった。
――――――
――――
――
「……うん。まぁこんなもんかな」
店を出て
水中迷彩風ジャケットに付いた足部スラスター、腰や肩についた増加装甲とそれに繋がる『パッケージ』の特徴でもある大型バックパック。それを着たユキ姉はカシャンキシュンと音を立てて手を動かしたりして動きの確認をしていた。
武装はメインのVz_61、右ハンガーのSCAR-Lは変更なし。サブアームには軽めのシールド『N.W.f_Sh RULI』二つに変更。右腕武装はムーンアサルト社製の実弾ライフル『アヌビス』の連射を落として威力を底上げしたタイプ『SAM-MA SS_Anubis カスタム』に。左腕武装は前述の通りシールドは小さめだがブレードの威力が高いシールドブレード『SAM-MA MG-Exia』
「あと本番は市街戦なのを考慮してなんか知らないけどなんも積んでなかった左ハンガー部分に『BW-MA YATANO_Mirror mdl2』積んでおいたから」
「やたのみらー?」
「広域型の設置式レーダーね」
「ふむふむ」
こんなもんか、と店を後にしてモールへと戻る。フォートシティ最大の複合商業施設だけあって訪れているユーザーも多い。
とりあえずそんな人混みに紛れて歩きつつ俺はなにか買い忘れたものはないかカタログを見ていた。
「ねぇゆうくん」
「んー?」
「なんかこうしてるとデートみたいだね」
「ぶふっ!?」
誤タッチでカタログを仕舞ってしまい驚いた表情でユキ姉を見る。肝心のユキ姉の方は特になんにも思ってないらしくいつもの笑顔を向けてくれるだけだった。
「い、いや、なんでもない……なにを――」
「そうだ! 明日一緒に買い物に行かない!?」
『何を言い出すかと思えば』と言い切らないうちにもっといい笑顔で別の爆弾をぶっこんできた。さっき自分で『デートみたい』って言っといて次の瞬間弟を誘うか? もしかして気づい――てるわけないよな……この鈍感な姉が。『たまには家にこもり気味な弟と外でかけよう』とかそういうこと思っているだけだろう。相変わらずお人好しな人だ。
――そう思うとなんだか少しだけ腹が立った。
「……いいけど」
「あ、あれ? ゆうくんなんか不機嫌……?」
「別に……それより姉さん。遊ぶのもいいけど……わかってるよね」
「うん。私も――負けるつもりはないよ」
『あ、でも楽しむ時は楽しまないとねっ』そう言って姉さんは手を繋いできた。…………やっぱりこの人は苦手だ。