第一話 とある姉弟
『フレームフロンティアオンライン』
通称FFOとは、現実とほぼ同等の感覚でゲームが出来ると話題になったVRゲームハード『New-G』で初めて発売されたFPSG(一人称視点シューティングゲーム)で。発売一ヶ月で登録者数二百万人を突破と社会現象にまでなった大人気オンラインゲームである。
「フレームのEN補給頼んます」
このゲームを始めた者なら誰もが最初に訪れる街『フォートシティ』そのメインストリートにあるフレーム工房の一つにエネルギー補給に来ていた。
まぁ気のいいおっさん風のNPCに話しかけて要件を言って会計を済ませるだけの作業だが。
「ほいよ! ライトフレームなら補給代は5000Gだな! 毎度ありぃ!」
「どうも」
「ゆうくん! ちゃんとありがとうございますって言わないとダメでしょ!」
「姉さん……律儀なのもいいけどこれNPCだからって何度言えば……」
ユキ姉の小言を流しながら店を離れ人混みに紛れる。すれ違う人たちがチラチラとこっちを見てくるが、ただ単純にみんな女性アバターが珍しいのだろう。
タイトルにもある『フレーム』というのはこのゲームのメインの一つでもあるパワードスーツの通称である。『ライト』『ミドル』『ヘヴィ』と様々な種類があり、その鉄臭さが世の男子高生やおっさんに受け今日まで発展している。
そのゲーム性故、一時期を除き男女比が『7:3』という数字を叩き出している上ハードの性質上ネカマも不可能のため女子アバターというのはそれだけで目を引くのだ。
ユキ姉と一緒に行動しだして結構経つので流石に慣れたが。
「ゆうくんのその機体カッコいいよねーカッコいいんだけど私が乗ると……ちょっと露出が多いというか……」
「俺の『電』はライトフレームの中でも更に機動性に特化してるやつだから装甲が少ないのは仕方ないだろ。……対応してる女性用パイロットスーツが見事にビキニアーマーしか無いのは担当設計の趣味だろうけどな……」
ライトフレームとは文字通り軽装甲高機動を売りにしたフレームの通称である。
使える武器種は他タイプと比べ少なく、装甲といった装甲もないが。追加スラスターやフライトユニットによる全フレーム中トップの機動力を持つライトフレーム。デザイン自体がカッコいいものも多く、前述の通り女子用フレームスーツの露出が高いこともあって多数の健全な男子からの支持も高い。
俺が使っている背中に二対の大きな背部フライト用スラスターと、腰の尖った三角錐を半分に切ったような大型腰部スラスターが特徴的な『N.W.f INADUMA mdl3』もこのライトフレームだ。
電mdl2にフライトユニット用の専用大出力スラスターを追加した機体で。トップクラスの加速力とおまけ程度の滑空能力が付いている機動戦闘特化型仕様だ。
「けど私も空飛びたいもん!」
「無理」
「酷い!?」
「ライトフレームは火力ない上に装甲も薄くて取り回し悪いんだから。姉さんは使いやすいミドル使っとけばいいんだよ」
ガーンッとわかりやすく落ち込んでいる姉にやれやれと呆れて理由を説明する。
ミドルフレームとは幅広い武装と平均的な装甲で取り回しがよく、どんな場所でも活躍が見込める初心者向けの特長がないのが特徴なフレーム。……といえば聞こえはいいものの実際は器用貧乏でこれっといった長所も無いのが殆どで上位まで行くとほぼ数がいないのが現実である。
「むぅ……でもまぁ、そうだね~このパッケージはいい子だよ! 大体なんでもできるしね!」
ユキ姉の使うミドルフレーム『NWC-Package mk-2 mdl2』は積載量に重きを置いたミドルフレームで。性質としては高火力、高耐久、高積載を主軸にしている『ヘヴィフレーム』に近いがほぼ歩くことしかできないヘヴィフレームとは機動性が全く異なるため、ミドルフレームの中でもしっかりとした個性が出ている機体の一つである。
「実装初期は『ヘヴィでおk』なんて言われまくってたけどね。……まぁ実装された新武装が評判悪いなんていつものことか。そんなことより姉さん、ヘカートオクかけてよかったのか?」
オク、つまりオークションのことだが。このゲームでは要らなくなった武器をオークションと称してゲーム内通貨、欲しい武器。またはリアルマネーとの交換で他人に売りつけることが出来る。
ゲーム内でのトレード関係はよく複垢での金稼ぎ、武器稼ぎ、等の問題が発生するが。このゲームでは脳波だか骨格だかを読み取ってアカウント登録しているため、複垢を作るだけでも非常にめんどくさい。なのでそういった面倒事もこのゲームではあまり聞くことはないというよく出来た仕様になっている。
「うん。私は狙撃銃とかそういうの無理だし、自分を愛してくれる人のところに渡ったほうがこの子も嬉しいでしょ?」
そう言ってユキ姉はこっちを見て笑った。俺は顔をそらして近くのビルの大型スクリーンへと目を向けた。画面ではちょうど『都内での銃乱射事件の犯人。ゲームの影響か』と小見出しの付いたニュースがやっていた。
俺がそっちを見ているのに気づいたユキ姉もそっちを見て少し悲しそうな顔をした。
「酷い事件だね……」
「幸い死人は出なかったんだし犯人もすぐ捕まったんだ。少なくとも最悪にはならなかった」
「そうだね……犯人の動機はゲームの影響って評論家の人は言ってるけど……」
立ち止まって後ろを振り向くと。TV内の議論の場に反対派がいないことをいいことにゲームの害悪性とやらをドヤ顔で語りまくる評論家が映るスクリーンのニュースを姉さんは立ちすくんで見つめていた。
現実の身長もまだ俺のほうが低いこともあって、未だに子供扱いしてくることもある優しい姉だが……今ゲームでほとんど同じ身長となった彼女の姿は少し小さく見えた。
ユキ姉は俺みたいな奴と違ってずっと優しい。だからこの世界が悪く言われることを気にしているのだろう。
ゲームのために。ゲームをやってる人たちのために。
「……姉さんはこのゲームやってて楽しい?」
振り向いていた身体を前に向けながらユキ姉に話しかける。
「……うん。楽しいよ」
「じゃあそれでいいんだよ」
それだけ言うと俺は歩き出した。後ろをちょっと気にするとユキ姉は少しだけポカーンとしてからニッと笑って飛びついてきた。
「ありがとねゆうくんっ」
「ちょっ、ユキ姉飛びついてくるのやめて!? 倒れる倒れる!」
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「今日もいっぱい狩ったな」
「えっへへー可愛い女の子からお礼されちゃったし、今日も特訓楽しかった~!」
ランク50をとっくに超えている俺はともかく、姉さんはまだ37。つまりまだステータスのすべてを振り終わっていない。
このゲームではFPSでは珍しいランク、いわゆるレベルの概念があり。その値に応じて同程度の腕を持つ人と一緒に遊べたり、近いランク同士で戦えるランク戦に参加できたりなど、詰まる所の強さの単位として活用されている。
それだけでなく50までは体力、筋力、俊敏性の中から自分の戦闘スタイルに合わせて好きにステータスを振ることが出来るのだが、そのステータス上げのためにクエストの手伝い等の特訓をしていたのである。
「このゲームに女子がいることに驚きだったけどな」
「そ、それはそうだねー……あ、お母さんからメール来てる」
メニューを開いて呟いた姉の声を聞いてから自分もメニューを開くと、確かにメールボックスにも来ていた。通知は切っていたので気づかなかったが。
「あーまた通知切ってたんでしょ。お母さん怒るよ?」
「いいじゃんこうやってちゃんと伝わってるんだから。多分ご飯でしょ」
「うん。じゃあ私は落ちるね。ゆうくんもすぐに来なよ?」
「わーってるよ。ちょっとストレージ整理したらすぐ行くよ」
『待ってるからねー』と手を振りながらポリゴン状になりながらログアウトしていくユキ姉を見送って完全にログアウトしたのを確認してから
「よし……もう一稼ぎすっか」
そう愛用のハンドガン『OA-93』をクルクル回しながら集会所へと繰り出した。
勿論、数分後ゲームをやめて起きた時にニッコリ顔で待っていたユキ姉に怒られたのは言うまでもない。
この調子で書き続けられるのだろうか……ちょっと心配になってきました。
誤字脱字、感想などお待ちしています。