第九話 魔剣の刃は獣の牙(前編)
牽制を撃ち続けながら手を引っ張られて立ち上がり、盾を展開しながら後ろのビルにシナを強引に引っ張っていく。
「シナ一旦下がるよ」
「えっ、えぇ!?」
『させねーよっ!』とグランがの刃節剣が大きくしなって鋭い金属音を連続させながら伸び、ビルの入口上の壁に突き刺さり壁がガラガラと音を立てて崩れ去る。
好機――! と予定を変更して反転。それを見たグランはチッと舌打ちをして刺さった刃節剣を引き抜く。
「甘ェんだよ!」
刃節剣が元の長さに戻る前に必中距離に入ったOA-93を放つが、グランが自分の眼前にかざした右手の『Gevaudan』に弾かれる。
「ビーム刃で軽いとはいえ太刀はそんな小回りの効く武器じゃないはずなんだが……」
言いながら左手の霹靂神でジェヴォーダンの根本を叩く。グランも寸前で狙いに気づいたのかかざしたジェヴォーダンを斜めに、そして刃と刃が当たる瞬間力の方向へと横突飛に飛んだ。
「チッ。シナ!」
「はいはーいっ!」
ショットのバッバッバッバッと重いエネルギー射出音とバチバチとしたエネルギー弾の音を響かせながらグランが回避した方へと弾をバラ撒く。一発一発の威力が軽いパルス弾のマシンキャンだが、電磁波の衝撃を飛ばすパルスガンは食らい続けると徐々に障害ダメージが発生して割りとバカにならないダメージ量になるため遠くからチビチビ撃たれるだけでも無視はできない。
レーザー弾の弾幕に押されてさがっていくグランを弾幕巻き込まれ無いよう脇から追いかける。露骨に嫌そうな顔を擦る彼女の表情が目に入るぐらいの距離になった時、さがりつつけた彼女の背中にビルの壁が立ちふさがった。
「チッ!」
大きく舌打ちしたグランは右手のジェヴォーダンをしまいハンガーからさっきの刃節剣を引き抜く。『隙ありっ!』とユキ姉がショットを撃ちまくる。迫る弾幕を引き抜いた剣を横に薙ぎ、弾く。そしてそのまま止めずに振り切る。
ビルの壁に突き刺さりそのままバゴンッとコンクリートの砕ける音と土埃と共にグランの姿が見えなくなる。
「に、逃げられ――ッ」
追撃しようとするユキ姉を『もう逃げてる。弾の無駄だ』と静止する。土埃が晴れたそこには刃節剣で砕かれた壁の穴だけが残っていた。
ビルの中まで追い詰めた、と言いたいところだが条件的には五分……いや、グランの練度や装備を考えるとこっちのほうが若干不利まであるだろう。さらには二人がかりとはいえ狭い屋内。待ち伏せされて俺だけ先に狙い撃ちとかされたら一巻の終わり。ユキ姉一人でグランニキの相手させるなんて無理に決まってる。万が一勝てたとしてもその後一人で生き残れる可能性は限りなく0に近い。
だがそれでも行かないわけにはいかない。格上相手とはいえここまで押した今が最大のチャンスなんだ。
「ユキ姉そのショットどこから拾ってきたのか知らないけど……誰かの落し物?」
「そうみたい。スコーピオンはあっち置いてきちゃったけど今はこっちのほうがいいかなって」
スコーピオンを取りに戻るか否か頭のなかで思考を張り巡らせる。『決断は急げ、一秒の迷いが生死を分ける』今までのゲーム人生で学んだことだ。決断が遅いと急げば出来たことまで出来なくなってしまう。迷うくらいなら諦めろ。即断即決。勿論一呼吸置いて冷静になるのも大事だが。
「このまま行く。守りに入ってるのはあっちだだ。余計な時間与えて作戦を練らせる前に叩く」
「了解っ」
返事を聞いた瞬間ビルの方へと歩く。穴の空いている壁の裏側へ二人がたどり着き。ユキ姉の準備OKの頷きを確認すてから突入のカウントダウンを取る。
「3――2――1――0ッ」
0の瞬間俺は肩のキャノンを起動、ビルの壁を吹き飛ばした。少しビルがぐらつきもしや耐えられないかと思ったがそんなことはなく揺れもすぐ収まる。
なんて悠長にしている場合じゃない。土埃も晴れないまま中へ突入する。
「……いないな」
さっきグランが開けた穴は本人が狙ってそうな気がしたので自分で新たに突入口を作ったわけだが本人は一階にはいなさそうだった。時間的になにか罠が仕掛けられてる……ということもないだろう。
「……あの人の性格的にいると思ったんだけどなぁ。『逃げたと思った!? 残念でぇしたァ!』って。……いないとなると」
二階か――――そう思って上を見た瞬間ミシミシっ――! っと天井が嫌な音を上げた。
「やばッ……ユキ姉ぇっ!」
気づくのが遅かった――――いや、むしろ早かったほうだろう。それでも足りなかった。
入ってきたばかりのユキ姉の方に飛びつくようにしてスラスターを全力でふかした瞬間、壁を崩した時とは比べ物にならない雷のような轟音を上げて天井が落ちた。
「ソラ!」
「だ、ダメッ! 来る!」
叫んだ瞬間。自分の後ろから床とともに落ちてきた獣の牙が吠える音がギャリッリッ――! と響いた。
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