VRMMOは現状不可能なので本格ロボゲー作った
僕、平野凡太は友達の只野友樹に誘われてあるネットゲームを始めることになった。
エノキコーポレーションから発売された《ロボットエヴォリューションⅢ》、その名の通りロボットを使ってバトルするゲームだ。
これだけ聞くと普通のゲームのように思えるが、これが結構楽しいのだ。
まず、ロボットのパーツのバリエーションが多い。こんなもんどうやって扱うんだ?ってネタパーツもたくさんあり、意外な組み合わせでチートな機体が仕上がったりする。
次に、ロボットバトル物だがバトルだけしかできないわけでもない。最初は金がないので軍所属でほとんど格納庫か戦場でしか行動できないが、金を貯めてマイ格納庫を購入し、学費を払ってロボット学校に通うことができるのだ。
そこで知り合った仲間とオイルを飲みに行ったり、戦場でパーツ漁りをしたり、どちらが勝つかの賭け事をしたりと様々な交流が図れる。特に戦場デートがお勧めで、互いに死力を尽くして戦い抜いた後、反省会と称してイチャイチャラブラブできるのだ。
主な流れは男性パイロットが女性パイロットを負かした後、修理プレイや壊れてしまった機体の代わりに新しい機体をプレゼントし、後は流れでいろいろとするのがメジャーである。
結婚イベントを迎えれば晴れて正式に互いのロボを合体させることができるのだ。なのでハーレムを築いているチームだと、五体合体どころか百体合体まである始末で、強いパイロットになるにはまずハーレムを作るのが鉄則とまで言われている。
もちろん結婚イベントは男同士、女同士でも起こせるので、有名なプレイヤーだと男性パイロットで男型ロボ五体連結の列車ロボを扱うチーム『特急野郎』や、女性パイロットで男型ロボ二体を合体させるチーム『やおい』、複垢を使い多数の女ロボを男ロボと合体させるチーム『全員俺の嫁』(これってチームと言えるのだろうか……?)という個性豊かなチームがあるのだ。
しかし、一番の魅力はそこではない。このゲーム、ロボットのパーツやオイルなどに一切課金要素が存在しないのだ。なら、どこで利益を得ているのかと言えば……なんと、ロボットを動かすコントローラーなのである。
俺みたいな初心者だと画面はパソコン、操作はキーボードでゲームをプレイしているが、一般的な課金プレイヤーは画面は108インチの大画面、操作は運営から発売されるパーツを組み合わせて作った自分だけのコックピットを持っているのが普通である。
今の時代、ネット販売などで注文したら二日程度で商品が届くのだ。専用ディスプレイやコントローラーは売れに売れ、《ロボットエヴォリューションⅢ》は大人のゲームとして大流行した。
「ねえ、月刊エノキの今月号見た?最新ロボファッションカタログ、すごいおしゃれだったよねー?」
大人のゲームと言っても、花の女子高生がこういう会話をするほどに世間に認知されている。今ではナンパの常套句は「ねえお姉さん暇?今度僕とバトルしない?」となっている。
そんなわけで、僕もロボットエヴォリューションⅢ、略してロボエサンにハマっているのです。
「なあなあ凡太、今度やるオフ会なんだけどさー」
放課後、友樹が俺に今週末やるオフ会について話してきた。俺は参加するとは言ってないので、明確な了承を得たいんだと思う。
そもそも、オフ会なんて初めてなんだ。僕みたいな草食系にはいくらネット上で交流があるからと言って、現実で打ち解ける自信がない。友樹だって、こんなに僕を誘うのには一人だとやっぱり怖いのだと思う。
「なんとあの、ロボットアイドルのルルたんが来るんだってよ~?」
「え?マジで?」
「マジよマジ、本人がブログで言ってたし」
「行く、絶対に行く!」
「よしっ!」
そんなこんなで僕はしぶしぶオフ会に行くことになった。
……。
「はいはーい、みんなーこんにちはー!」
リアルのルルたんは超かわいかった。
ただ、
結構頑張ってるけど、声、男だよね……?
「……こ、これが、リアル男の娘……」
友樹が白目をむいている。気持ちは分かる
たぶんゲームプレイ時はボイスチェンジャー使ってたんだろうなあ、最近のは性能いいみたいだし
「……どんまい、友樹」
「うう、このオフ会でお近づきになって、いずれは付き合えると思ってたのに……」
「いや、それはどっちにしろ無理だと思うよ」
なんというポジティブ
いろいろと衝撃があったがオフ会は始まった。あ、ルルたん以外の描写については割愛する。だって全員男だし
とりあえず僕たちは近くのファミレスに立ち寄り、メニューを頼んだ後、それぞれが話し始めた。
最初は趣味や職業、どの学校に通ってるのかみたいな話だったけど、話のタネが尽きた頃にみんなどんなコックピットにしてる?という話になった。
僕はもちろんキーボードなので最初のうちに「あ、僕学生なんでキーボードです」と軽いノリでカミングアウトして「ははは、まあ学生じゃ仕方ないな」と軽く流してもらった。友樹も便乗して「あ、俺はコントローラーです、ちょい課金プレイヤーです」と言って、「ああ、うん、そうなんだ……」と微妙な反応をされていた。
次に名乗りを上げたのは肥満体の男だった。ぶっちゃけネトゲオタだ。
「俺は自宅にコックピットを作ったぜ。マッサージチェアにトイレも完備、冷蔵庫に電子レンジもあって、一週間程度ぶっ続けで遊べるようにしたぜっ!」
そう言ってiパッドのコックピットの写真を見せてきた。ごちゃごちゃしていてとてもくつろげそうに見えなかった。
「ふん、その程度か」
ネトゲオタの写真を見て、今度はパイロットスーツを着たガリガリの男が名乗りを上げた。コスオタか
「なに?」
「僕はそんな廃人プレイのために景観をそこなう装備はつけない。いいかい?コックピットは非日常なんだ、ならばできるかぎり非日常に徹するべきだ」
そう言ってコスオタが出してきたiパッドは動画になっていた。
動画の中でコスオタがコクピットを紹介している。
『全26画面を使い、360度対応できるようにしている。本来は一画面で視界も悪い一人称視点だが、これにより、よりリアルなコクピットにいる感覚が味わえる』
おお、本物のロボットの操縦席みたいだ。細かいところも凝ってる
『操縦席は稼働やダメージを受けるたび、衝撃を計算して揺れるように計算している。これもリアルなコックピットに不可欠だ』
ああ、なんかすごいことしてるけど、誰もいないコックピットが揺れてるだけだし、動画だといまいち凄さが分からないなあ……でもあんなに揺れたら酔っちゃいそうだ。僕は車酔いしやすい体質だし
『さ・ら・に!このパイロットスーツ!加圧や謎の技術によってGの再現などをするので、まさに自分で本物のロボットを動かす感触を味わうことができるのである』
ここから実際に動かしている動画に変わった。
『見てください!料理を作るというこのゲームでは謎の要素ですが、ここで……』
そういえばあったなあ、料理機能。ロボットだから料理作っても食べられないし、そもそも卵一つ割れない。
『パイロットスーツに内臓されているマニピュレーターで普通なら潰してしまう卵を……』
コスオタの指が卵をつかむ動きをすると、ロボットがコスオタの動き通りに卵をつかむ。
『マニピュレーターが感覚をフィードバックするため、こうして二本指で持つことができます』
なにその無駄な技術、と言いたいけど、言ってはいけない雰囲気だから黙っていた。
「え、なにその無駄な技術、別に卵割ることなんてないし」
「おほんっ!」
友樹は馬鹿なので自分から空気を悪くしていた。空気清浄機ならぬ空気汚染機だ。
「友樹、お口チャック」
「……。」
動画の中のコスオタはしまいにはお手玉を始めてしまった。普通卵でお手玉なんてしないのだが、こうやって器用に操っているさまを見ると、自分にもできそうな気がしてくる。
お手玉を終え、今度はCPU相手にバトルを始めた。あえて飛行タイプのロボットを選んだんだろうなあ、360度の大画面で空中戦をしてる。
と、ここで、後乗せしたナレーションが入る。
『VRMMOは確かに今の技術では無理かもしれない。しかし、我々はだからといってVRMMOができるのを手ぐすね引いて待っていなければならないのか?否!できないならできないなりに!不可能なら可能なことから始めればいいのだっ!みんな、子供の頃はロボットアニメを見て、実際に操縦したいと誰もが思っただろう?現実にはロボットを購入しても維持費や道交法という法律の壁がある。だが、このゲームなら、ほんのちょっとの工夫で夢を現実に近づけることができるのだっ!』
ナレーションは熱く語る。ここに集まった大半はロボットを操縦することを一度は夢見た少年たちだろう。ロボットは男のロマンだ。それは男の娘であるルルたんでも変わらないはずだ。
僕たちは気付けば真剣に動画を見つめていた。
『え?でも実際にこんなコックピットなんて作れない?ご安心を、私に依頼すれば、ご自宅でこのようなコックピットを設置することができます!』
あれ?なんか流れ変わってない?
『でも、お高いんでしょう?と言いたい顔してますね、大丈夫、なんとすべて合わせて200万円で提供します!』
『月々二十万円の10回払い!今なら単三電池も二本ついてこのお値段!いかがですか?』
「はいこれ、わたくしどもの商品のカタログです。動画もついてますのでどうぞご検討ください」
コスオタの職業は電気屋の亭主だと聞いた。さすが商売上手だ、あくどい。
続いて体育会系な男がコクピットの紹介をした。今度は動画ではなく、持ってきたらしい。
僕たちはいったん会計を済ませ、体育会系のコックピットを見に行くことにした。
「俺のはな、自転車がコックピットになっているんだ!」
少し、というかかなりごちゃついていたが、それはまぎれもなく自転車だった。
「これ、自作で……?」
「そうだぜ、すごいだろ?」
「すごいですねえ、これ、そうとう苦労したでしょう?」
「ああ、特にここの配線とか……」
自転車コックピットに一番食いついてきたのはコスオタだった。やはり自作した者同士、シンパシーを感じるのだろう。気付けば肩を組み合うほどに仲良くなっていた。
「俺のロボはスピードタイプだからな、ペダルを回すほど速くなるように調整している。完全に俺専用コックピットだ」
「そういったこだわり、好きですよ。ちょっと操縦してもよろしいですか?」
「いいぜ、その扱いづらさに困惑するといい」
コスオタが自転車に乗り、ゲームを起動しレースモードを選ぶ。
実際に操縦してみると、そのピーキーぷりは相当なものだった。途中までは相対的に速度が上がっていくが、ある一定の回転数を超えるといきなりスピードが変わったのだ。
「え、うわ、ああっ……!」
壁にぶち当たり、クラッシュしてしまった。
「よし、俺が実際に手本を見せてやろう」
体育会系がコスオタに代わり自転車に乗る。
レースがはじまった。体育会系は順調にコースを回っていく。だが、はたから見ているとあとちょっとでクラッシュするほどに怖い運転だった。
まるで切り裂くかのようにカーブを抜ける。
「俺は新幹線や戦闘機みたいな超高速で動く乗り物に憧れていてな、子供の頃の夢は戦闘機のパイロットだったんだ。だが、あいにくとそれは叶わなくてな。そんな時、このゲームに出会い、その速さに惚れたんだ」
こんな体育会系がなぜこのゲームにハマったのだろうと思っていたけど、そんな理由があったとは
……でも、なぜ自転車なんだろう?
「さっきのリアルなコックピットみたいによ、俺も実際に動かしてる感触を味わいたいって思ったら、これだと思ったわけだ」
「素晴らしいです」
コスオタは感極まって涙を浮かべている。
体育会系が一位でゴールした。
「じゃ、次は私ですね」
次に名乗りを上げたのは、サラリーマン風の男だった。ぶっちゃけ普通
「私は、車の運転席をコックピットに改造しました」
車の中は普通じゃなかった。
魔改造なんてレベルじゃない。デ○リアンだ、デ○リアン。後ろの席機材だらけで人が乗れないよ。
「最初は軽いつもりでちょこちょこっと改造しはじめたんですが、気付けばこうなってしまいまして……いやはや、独り身だと趣味にのめりこんでしまいます」
のめりこむレベルじゃないよこの人、スミ入れや艶消し、汚しとか加えてるっぽいし、どれだけの時間を注いできたんだ……
「今じゃ休日の大半は車内で過ごしてます。いやー楽しいですよね、遠出してロボエサンに勤しむの。夕日を浴びながらゲーム、星空を眺めつつゲーム、あ、雪に埋もれて救助を待っていた時もゲームしてました」
怖い、この人怖い。外出する意味がないとかそんなレベルじゃない。人生がロボエサン、いやデ○リアンを中心に生きてるよ……
でも一番怖いのは、
「こ、これすごいですね」
「外でロボエサンは楽しいよな!俺も自転車で日本横断の時はロボエサンで各地のファイターと戦いまくったっけ」
「わー、素敵ですね!これ助手席もロボエサンできるんですか?」
「そうだよ、今度一緒にどこかに出かけようか?」
「ホントですかー?ルル、嬉しいっ!」
コスオタや体育会系、そしてルルたんまでもが共感していることだ。怖い、この人たち怖い。
「なんだよなんだよ、俺たちネット廃人は清く正しく家でゲーム、ボトラー上等、馴れ合い禁止、リアルでの人間関係なんて糞喰らえが常識じゃないのかよ、ちくしょう……みんな仲良くしやがって」
気付けばネトゲオタが拗ねていた。これが美少女だったら優しくなだめようとするだろうけど、あいにくと男なので無視することにした。
「じゃ、せっかくロボエサンができるコックピットがあるんだ。実際に対戦してみようぜっ!」
体育会系がそんなことを提案してきた。コスオタとサラリーマンとルルたんがそれに同意する。
「あ、じゃあ、僕も」
すると、中学生ぐらいの男の子が手をあげていた。
「あれ?君もコックピット持ってるの?」
コスオタが話しかける。
「うん、ちょっと待って……はい」
中学生が出してきたのは携帯電話だった。
「ガ、ガラケーでロボット操作だと……!!?」
体育会系が驚愕の表情をしている。確かに、ガラケーでロボットを操縦するのは難しそうだ。
「うわ、すごいですね……見た目は普通の携帯に見えます」
サラリーマンも驚いているが、一体何がおかしいのだろう?
「ふむん、高校生二人にはいまいちピンと来ないのも分かるわ。あれはね、そもそもロボエサンはガラケーで操作することができないのよ」
驚き役に徹する二人に変わって、ルルたんが解説役をしてくれた。あ、ちょっと近づかないでくれません?なんかいい匂いしますので
「エノキコーポレーションから発売されているキットの中にも、携帯で操縦できるようなパーツは入ってない。つまり……あれは中学生君の親か知り合いが作ったのよ」
「これはね、僕が作ったんだ。パソコンは共用だから夜はお父さんが使っちゃうし。隠れてゲームするには携帯が一番持ち運びに便利だからね」
中学生がそんなことを言っている。なんという技術力だ。この子は天才だったか……
しかし、実際に驚くのはこれからだった。
中学生が起動したゲーム画面はかなり劣化したものだった。処理落ち対策なのだろう。いらない機能はとことん削っているみたいだ。
体育会系とサラリーマン、車の助手席にはコスオタが乗り込み、バトルは始まった。
あざやかな攻防だった。だが、ひときわ抜きんでていたのは中学生の機体だった。あんな分かりづらい画面でよくあれだけ縦横無尽に動けるものだ。というか、本人はあれで楽しいのかな?
結果は中学生の一人勝ち、彼が言うには、「どういう風に動くか予測して攻撃しているだけ」だそうだ。だから上級プレイヤーほど動きが読みやすいという。なんか格の違いを見せつけられてしまったなあ。……ちょっとかっこいいと思ってしまった。
最初は来なきゃよかったと思ったオフ会も、なんだかんだで結構楽しめた。またこういう集まりもしたいなあと思っていたところ、ふと思い出した。
「友樹、お口のチャック解いていいぞ」
「ぷはあっ」
「まあ、なんだかんだでよかったよ」
「へへ、そうだろ?行ってよかったろ?」
笑顔がうざい。でも、まあいっか
「うん、ありがと」
僕は素直な気持ちを口にした。
「ふふん、この俺様に感謝しなさい」
「また、オフ会あったら誘ってくれ。僕も行くから」
「おうっ!」
友樹はその後、自分だけのコックピットを作るんだと言ってバイトをたくさん掛け持ちした結果、過労死した。彼のやつれる様子を見ていた僕は今まで通りパソコンのキーボード操作で続けることにし、適度に楽しんでいたらそこで知り合った超絶爆乳爆尻むちむち美少女とリアルで結婚して毎日現実で夜のファイトを楽しんでいる。やっぱりネトゲっていいねっ!
終わり。