その返事
授業を終え、放課後、燐に会うために駅に急ぐ。
「あっ、しまった……」
燐に財布を渡してしまっているから、定期券も無ければ金も無い。どうしよう。
「湊君!」
改札で呆然としていると、声を掛けられた。
向こうから、来てしまったらしい。
「……燐」
セーラー服に身を包んで、嬉しそうに笑っていた。
「これ、無いと困るでしょ?」
定期券が入った財布を差し出した。
「あ、ああ……ありがとう。でも、よくわかったな、駅の場所」
「定期券に書いてあるよ?」
「あー……」
券を眺める俺を見て、くすくすと笑った。
「……た、立ち話も何だから、俺の家に来ない?」
「え、いいの?」
「うん、親、仕事でいないし。姉ちゃんも、まだ帰ってないはずだから」
「じゃあ、お邪魔しようかな」
二人で、電車で移動する。車窓からの景色を眺めながら、燐が言った。
「湊君、私ね、こっちに戻ってから、ちょっと環境が変わったんだ」
「え、どんな風に?」
「まず、独り暮らしだったんだけど、お母さんの親戚が、私を引き取ってくれて、あと、学校も、転校することになって、近々引っ越すんだ」
「……それ、ちょっとどころじゃなくね?」
「そうかな? 女帝国に行った時と比べたら、ちょっと、だと思うけど?」
「そうかな……」
「でも、確かに、大きく変わったのかもしれないね……もう、寂しくないし」
俺を見下ろして言った。
「そういえば、祭華君、元気?」
「ああ、あいつも、近いうちに引っ越すってさ。彼女とも、別れたって」
「そっか。みんな、歩き出してるんだね」
「何だ、その言い方……燐もだろ?」
「そうだね」
あはは、と、楽しそうに笑った。
目的の駅で降りて、家へ向かう。途中、燐が辺りを気にしだした。
「どうした?」
「いや、懐かしいな、と思って。このお店とか、まだあったんだ……」
駅前の花屋を見て呟く。そういえば、少し前に開店二十周年パーティをやってたっけ。
しばらく歩くと、燐の足が止まった。
目線の先には、俺の家。その隣に、かつて燐が住んでいた家があった。
「今はもう、別の家族が住んでるんだよね……」
「……」
何て言ったらいいのかわからなくなった俺を見て、燐が吹き出した。
「どうして、湊君が悲しそうな顔するの?」
「えっ?」
言われて気付いた。本当に顔に出やすいんだなぁ、俺。
「家は、誰かが住んでこそなんだから、むしろ廃屋になってた方が、私は悲しいよ」
「確かに、そうだな……」
その時、俺の家の扉が開いた。
「行ってきまー……」
なぜか、母さんがそこにいた。
「湊! お帰りなさい」
「か、母さん!? 何で……仕事は!?」
「そんなもん、ちゃっちゃと切り上げたわよ。あんたを迎えに行こうと思って」
「いや、俺はもう大丈夫だって―――」
「あら、あなた……」
俺の話は聞いていないようだった。燐を見つめている。
「こ、こんにちは」
頭を下げた燐を見て、母さんが目を丸くした。
「もしかして、秋桜さんの娘さん!? 大きくなったわねえ!」
「えっ……」
今度は燐が、目を丸くした。
「あれ? 違ったかしら」
「違わないです! でも、あの、私のこと、覚えてるんですか?」
「当たり前よ! 湊の初めてのガールフレンドだもの!」
「ちょっ、母さん!」
何言ってんだいきなり! 燐も驚いてるし!
「いいじゃない、事実なんだから。そうだ、せっかくだから、お茶でも飲んでいきなさい、ほらほら!」
肩を掴んで、家に引き込まれた。
帰る頃には、空が赤くなっていた。
「燐……ごめん、もっと話したいこととかあったのに、母さんが暴走して」
「大丈夫だよ、楽しかったし」
お土産を積めてパンパンになったスクールバッグを抱えながら、そう言った。
「にしても……湊君、私が初めてのガールフレンドだったんだね」
「うっ」
覚えていたか……。
「意外だったなあ、友達沢山いそうだったのに」
「お、男友達はな……」
ああもう、恥ずかしい。
駅への道を、並んで歩く。ついさっき、歩いた道なのに、とても短く感じる。
「ねぇ、湊君」
「うん?」
「私に、何か言いたいことがあるんでしょ?」
「えっ」
何でそれを、と思ったが、そうだ、俺はわかりやすいんだった。
「ピアスが無くても、わかるんだね」
「……」
思考すると、足が止まる。少し前を歩いていた燐が、振り返った。
「俺、燐が好きだ」
まっすぐ、目を見て言った。
「ありがとう。私も、湊君が好き!」
咲くような笑顔で、そう言った。
これにて、MINATOin女帝国は完結です。
多分、これで、伏線は全て回収できたはず! できてなかったらすみません!
お読みいただき、ありがとうございました!




