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その正体

 路地に入って、少し歩くと、見覚えのある建物が見えた。

「ここだ……」

 女帝の城。ここに、燐がいる?

 早速、中に入ろうとしたが、初めて来た時と違い、入り口が閉まっていて、どこから入ればいいのか……。

 うろうろしていると、城の扉が音を立てて開き始めた。

「あっ!」

 開いたその先に、燐の中にいたはずのお姉さんが立っていた。

「お姉さん!? どうしてここに?」

「ちょっと、まあ、色々あって、事情が変わってね。湊、女帝のところへ行こうと思っているなら、すぐ引き返して。危険すぎる」

「いや、でも、燐が攫われてるんです」

「あの子なら、大丈夫だよ、自分で何とかできるから」

「え……お姉さん、燐がどこにいるか、解るんですか?」

「うん、一応ね」

「会わせてください。燐に、言いたいことがあるんです」

 まっすぐ、お姉さんを見た。

「どうしてそんな……解った、私がそれを燐に伝えよう。それでいいよね?」

「いやっ、それじゃだめなんです!」

「……どうしても?」

「どうしてもです!」

「ふぅん……」

 どうしようかな、と、腕を組んで考えている。

 と、俺は、ふと疑問に思ったことを聞いた。


「お姉さん、身体は、どうしたんですか?」


 女帝に、身体を消されて、燐にしか見ることができなかったはず……。


「……」

 じっと、こちらを見つめている。

 おかしい。夢じゃないから、そう感じているのか、目つきが、何か……。


「女帝に似てるって思った?」


 にっこりと笑った。

「っ……」

 息が詰まった。まさか、この人……。

「乗っ取った、とか、そういうわけじゃない。"私は最初からこうだったんだよ"」

 ニット帽を外した。獣耳が露出する。

「黙っていてごめんね、湊」

 目を伏せるのを見て、俺は一つの勘違いに気付いた。

「女帝の、弟?」

 似てるとは思った。でも、この人は女帝本人じゃなく、弟だ。

「うん、そう。僕は、あの人の弟。でも、あくまで片割れだよ」

「か、片割れ?」


「女帝は国を作り、幸せになった。弟は、そうなってしまったこの国を、何とかしたかった。でも、君も知っている通り、女帝は弟を、魔力の搾取のために縛り付けた。だから、自身の力を使って、操り人形を作って、機会を見てた。でもね……操り人形が、自ら、意志を持って、動き出したんだ。勝手に女帝に立ち向かって、身体を消された……"本体"の方は、多分、この国が女帝国だということも、知らないんじゃないかな」


「じゃあ、その……」

 どうしよう、聞きたいことが山ほどある。

「まず、身体は、どうしたんですか?」

「身体はね、確か、君や燐には、『そんなに戻りたければ戻してやる』って言われた、って言ったんだったかな? でも、私は元々この世界にいるんだから、戻る場所なんかないわけで……あいつは、適当な世界に私の身体を飛ばしたんだよ。だから、一度リセットした」

「リセット?」

「魔力で作った操り人形だから、その身体も、魔力でできてる。一度、本体との接続を切って―――要するに、再起動したんだよ。そして、身体を新しく作り直した。燐を独りにすることになるし、急いで君を止めないといけなかったし、かなり時間も力も使うから、急拵えになっちゃったけど」

「じゃあ、女になる手術のために、元の世界に帰りたがっていたというのは……」

「それは、全部嘘。女帝に歯向かうためだよ」

「俺と初めて会った時、すぐに逃がしたのは、どうしてですか?」

「あれをしたのは本体だよ。操り人形には、本体の気持ちまでは解らない。でも、その行動から察するに、誰も、関わってほしくなかったんだと思う。危険だし、何より、自身の兄弟に傷をつけるわけにはいかなかったから」

「こういうのも、おかしいとは思うんですけど、弟の立場から、どうにかできなかったんですか? 魔力とかで」

「それはね、私も思った。でも、もう一度言うけど、自身の兄弟を傷つけたくなかったから、実力行使は避けたかったんじゃないかな。まあ、新しい方法を見つけたみたいだけど」

「新しい方法?」

「女帝は、本体の魔力を使ってこの国を作り上げた。でも、その魔力を自由に使えるのは、女帝だけではなく、本体も使える。むしろ、本体の方が、自由度は上なんだ。例えるなら、蛇口から流れる水を、そのバルブを開けた人間は自由に使えるけど、大本に毒でも混ぜられたら、どうしようもないでしょ? 本体はそこを利用して、魔力を使う女帝に、催眠をかけたんだ。


 "君を、この城に呼ぶように"、って」


「……えっ? お、俺を?」

「正しく言うと、元々は、"誰でもいいから呼びたかった"。でも、それが訳あって、君になった」

「訳、って?」

「私は元々、女帝を何とかするために創られた。それは忘れてはいないから、燐にピアスを渡して、元の世界とこっちを繋げられるようにして、誰か助けを呼んでほしいと思っていたんだ。それが、たまたま、君だった。私は、君が来たことを、恐らくはキィを通して女帝にも伝わると踏んで、本体を通して女帝に、"湊を城に呼ぶ"ように催眠をかけた」

「うん……?」

 頭がこんがらかってきた。

「解らないかい?」

「は、はい……」

 答えると、あはは、と笑った。

「無理もないよ、魔力の流れって、複雑だから。でも、ごめんね、もう説明をする時間がないや。私、そろそろ消えるから」

「えっ、消える? 何でですか?」

「実はね、本体が操り人形を作って1回、そして身体を消され、それをリセットして1回、私は身体を作り直してる。そしてさっき、燐から離れてこっちに来る時、女帝に一子報いようとしたら、失敗してね、それでもう一度リセットして……だから、3回も、身体を作り直してて、もう私に費やせる魔力が無いんだ。持続にも魔力はかかるし、だから、君とはここでお別れだよ」

「そんな……」

 いきなりすぎる。まだ、ちゃんとお礼もできていないのに。

「そんな顔しないでよ。所詮、私は操り人形……本体とは繋がってる。最後に、私の得た情報を全てあっちに渡してから消えるから、問題はないよ」

「いやっ、そういうことじゃなくて! いいんですか? このまま、女帝に、何もしないで……」

「いいんだよ。だって、君がいるから」

「えっ……」

 お姉さんの、身体が、透けていく。

「事情が変わったよ、私は君を応援する。湊、君は優しいよね。それは、私も、燐も、みんな解ってる。だから、僕の兄弟を、殺しも死なせもせず、"最悪の形"で終わらせてくれると信じてる」

 俺の手を取った。


「監禁生活は長かったけど、ようやく、終わりそうだ。それじゃあね―――」


 にっこりと笑って、消えていった。

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