試し
「はぁ……」
自宅のリビングで、大きなため息をついた。
ロレンスと湊に自分の境遇を話した後、家に帰り、何をするでもなくぼーっとしていた。
レアと自分の関係に、限界を感じていた。
入れ替わった後、互いを演じる……馬鹿な策だとは思ったが、これしか方法が思い付かなかった。
でも、もう無理だ……俺は演技には自信があるが、ずっとは続けられない。
「はぁ……」
また、ため息をついた。今のあいつには、俺がどう見えているんだろう。恐ろしい人間に見えているだろうか。
「スカイ、ちょっといい?」
ふと、声がして、見るとレアが立っていた。
「お前、ノックぐらいしろよ」
「ごめん、鍵、掛かってなかったから……」
目をそらしながら言う。
この女のしたことの所為で、俺の体が女を嫌うようになり、女帝国に来た今、本人がそれに悩まされている……同情はできないが、何だか複雑な気分だ。
「何しに来たんだ?」
「その、気になって……」
「あ?」
睨むと、怯えながら答えた。
「どうして、私を演じることをやめちゃったのかな、って思って」
「疲れたからだ、そう言っただろ」
「……」
俯くレア。まだ何か言いたそうだ。
「だいたい、お前に責任があるんだから、拒否権も指図する権利もないだろ」
「……うん」
わかってはいるらしい。
「ところで」
すっと立ち上がると、レアが距離を取った。
「女帝の荒治療は上手くいっているのか? あの湊って餓鬼を連れて行ったってことは、触れるようにはなったのか?」
「それは、その……」
近付くと後ずさりする。少しして、壁が背中についた。
「待って、スカイ、それ以上来ないで」
震えた声で言う。
「言っただろ、お前に拒否権はない」
肩を掴んだ。
「嫌っ!!」
レアが勢いよく俺を突き飛ばした。
「っ……」
腰を打った、まあまあ痛い。
「お願い、もう許して……」
顔を押さえて泣き出した。
その時、家に置いていた電話が鳴った。
「もしもし?」
「ガーネットだ。急なんだが、今からホテルに来てくれるか?」
話を聞くと、燐が攫われたらしい。ロレンスが呼んでいるそうだ。
了承して電話を切り、レアに向き直った。
「ガーネットから呼び出しだ」
「……うん」
泣き顔ではあったが、返事はした。
「にしても、女帝の荒治療、あまり利いていないみたいだな」
レアを見るとよくわかる。
「一応、その身体は、元は俺のだ。泣いたりできるってことは、使い物にならなくなったわけじゃないから、まあいいや」
それを聞いて、レアが目を見開いた。
「まさか、試したの!?」
「試して何が悪い、お前は加害者だろ」
「……」
また、俯いた。
「とにかく、今はホテルに行くぞ」
レアをその場に放って、家を出た。




