敵の動き
「うっ、ん……な、何があったんだ?」
祭華にキスをされて、気絶して、起きたら、熱が引いてて、手元にピアスがあって……あ、祭華が隣の部屋に行ったのか。
「燐?」
顔を上げると、顔を真っ赤にして口を押さえている燐がいた。
「……燐、どうした?」
「えっ!? い、いや、何でもないよ……」
ぶんぶんと首を振る。確実に何かあった。いや、何かされたのかも。
「祭華に、何かされたか?」
つか、何かされたとしか思えない。
「いや、本当に、何でもないって―――」
「さいか、りんにひどいことしてた!」
燐に抱かれているメアリーが声を上げた。
「め、メアリーちゃん、そんなこと言わないの」
「でもっ」
「私は大丈夫だって、言ったでしょ?」
「うん……」
……後で祭華に聞いておこう。
「あ、そうだ、燐。さっき、酒場でキィさんに聞いたんだけど……」
ピアスはジャミングされていたらしいから、恐らく俺達の会話は聞こえていないだろう。
「女帝が、また誰かを呼び寄せるらしいんだ」
「えっ?」
燐の表情が固まった。
「それ、本当?」
「キィさんが言ってたから、確実かは解らないけど、兆候が似てる、みたいなこと言ってたかな……」
「……」
メアリーを強く抱いて、俯いた。
「もし、それが本当なら、急がないと、また、被害者が出る……!」
「燐」
咄嗟に手を掴んだ。
「気持ちは解る。でも一旦落ち着こう、城へのルートは、俺が記憶している。焦っても駄目だ」
「湊君……」
頬を赤らめて、頷いた。
「……俺、ちょっと祭華に会ってくる」
パッと、手を離した。
「え、何で?」
「作戦会議しないといけないだろ? 女帝に会って、それから具体的にどうするか」
「あー、そうだね……」
本当は、燐が顔を赤くして、俺も何だか恥ずかしくなったから、というのが理由だけど、ピアスもまだつけてないから伝わってないだろうし、大丈夫だよな?
部屋を出て、隣の部屋へ向かう。
「祭華ー」
声をかけると、目当ての人物が出てきた。
「湊、どうかした?」
俺を見て、不適に笑っている。
「ちょっと、話があって。お前、燐に何かしたか?」
俺が訊くと、いつもの無表情になった。
「何も。強いて言うなら、君について話をしたよ」
「俺について……確かに、そんな感じのこと言ってたけど、具体的にはどんな?」
聞こえは悪いが、2人の"化学反応"は、俺も少し興味があった。
「うーん、何て言ったらいいかな……」
腕を組んで、悩みだした。
その時だった。
「きゃあああっ!!」
女性の悲鳴と、ガラスの割れる音が聞こえた。
「今の、君の部屋じゃない?」
―――燐のいる部屋だ。
「燐!!」
部屋に駆け込んだ。
中は、酷い状態だった。
家具が荒らされ、窓が割られ、ガラスが部屋中に散乱していた。
「一体何が……」
窓の前、蹲るようにして、メアリーが倒れていた。
「メアリー、大丈夫か!?」
起こすと、ゆっくりと目を開いた。
「みなと、りんが……」
泣きながら、しがみついてきた。
「燐が、どうしたんだ?」
「さっきの、へんなひとたちがきて、へんなまほうで、りんを、つれてった……」
……え?
咄嗟に顔を上げる。窓が割れているということは、そこから入って、そこから出たということ。
メアリーを優しく引き剥がし、窓から外に飛び出した。
窓のすぐ外は、小さな通りになっている。
走り回って探したが、見つからなかった。
部屋に戻ると、隅でメアリーが膝を抱えて座っていた。側にはガーネットさんがいる。
「湊、ロレンスから聞いたぞ、誘拐だって?」
「……はい」
とにかく、話を聞かないと、何も解らない。
「メアリー、変な人達って、どんな感じだった? 見た目とか……」
「みため……わたしをつれていこうとしてたひとたちに、にてた」
「その変な人達、何で燐を連れていったんだ?」
「わかんないっ……」
肩を震わせている。
「メアリー……」
背中を撫でながら、考えたが、解らない。
さっき、メアリーを連れていこうとした人達が、燐を連れていったって、何で? 何のために?
「女帝が、何か企んでいるってことだよね」
祭華が言った。
「ガーネット、スカイとレアを呼んで。すぐにでも城に乗り込まないと、大変なことになる気がする」
「あ、ああ……解った」
慌てて、部屋を出ていった。




