告白
「入れ替わったことに気付いた後、彼の方から提案されたんだ……『互いを演じよう』って。初めは驚いたけど、何か裏があるんだと思って、それに従った」
レアさんの言葉。身体はスカイさんだが、喋り方が大分違う。
「レア、君とスカイは、どうして入れ替わった後、互いを演じようなんて思ったの?」
「そうしないと、おかしくなりそうだったから……」
「おかしく、って?」
祭華の質問に、レアさんは俯いて、拳を握りしめて言った。
「私とスカイは、確かに、中身を入れ替えられた……でも、全て入れ替えられたわけじゃない。女帝は、愛情とか、恐怖とか、そういう"一部の感情"だけは、そのままにしていたんだ」
「それはつまり……どういうこと?」
顔を上げて、答えた。
「私は、彼を心から愛していた。そして彼は、私達女性を、心から恐怖していた。それが入れ替わったとき、私は彼が怖くなり、彼は恐怖の対象だったはずの私を好きになってしまった……今までの自分の心も、気持ちも、すべて、無視されたんだ。考えられる? 私達は……自分自身を壊されたんだよ」
泣きながら、消えそうな声で、俺たちにそう伝えた。
「じゃあ、どうしてスカイは、今更、演じるのをやめようなんて言い出したの?」
「おい、祭華……」
質問を繰りかえす祭華を、さすがに止めた。
「レアさん、泣いてるだろ、もうやめろよ」
「……解った」
しぶしぶ、質問をやめた。
「いいんだ、湊君。スカイが演じるのをやめた理由は……はっきりとはわからない……もしかしたら、演じるのに、飽きちゃったのかな……」
演じるのに飽きた……そんなこと、あるのか?
「にしても……スカイはどうして、僕達に、この話をしたんだろう」
祭華が首をかしげた。
「多分それは、君達が、"普通の友達同士の関係じゃないから"、だと思うよ」
「普通の友達じゃないって、どういうことですか?」
今度は俺が訊いた。
「男同士でキスするなんて、ただごとじゃないでしょ?」
そう言って、スカイさんの顔で、静かに微笑んだ。
「うっ……そ、そうですね」
普通、男同士でキスはしない。祭華のせいで、すっかり常識が変わってしまっていた。
「……湊、今、僕のせいにしたでしょ」
祭華が睨んできた。
「い、いや、俺は何も……っていうか、祭華、そう思うなら、今度から注意しろよ」
「それは無理」
きっぱり言い切った。
「魔性の女を目の前にして正気でいられる男がいるなら、会ってみたい」
「お前……個人の見解すぎるだろ」
「レア、知ってる? 本当の湊はもっと可愛いんだよ」
「聞いてんのか!?」
声を荒らげる俺を見て、レアさんはくすくすと笑った。
「羨ましいよ、そんな風に、普通に会話ができるなんて」
「えっ、あ、すいません……」
咄嗟に謝った。
「いいんだ、気にしなくて。こっちこそごめんね、嫌みな言い方をして……昔からこうなんだよ、人の気持ちが、わからないっていうのかな……私達がスカイを襲う時、彼は私を見て名前を呼んだんだ。レア、どうして……って。複数人いたのに、どうして私を呼んだんだろうね……それすら、わからないんだ。いや、今はもう、どうでもいい疑問、なのかな」
振り払うように、首を振った。
「ロレンス……いや、祭華、だっけ」
「何?」
祭華、と呼ばれ、少しムッとしたが、すぐにいつもの無表情に戻った。
「君は、湊君のこと、どう思ってるの? ただの友達? それとも―――」
「僕は、湊を恋愛対象として見てるよ」
レアさんの質問を遮って、答えた。……って、え?
「さ、祭華、お前……」
ま、マジで?
戸惑う俺を横目で見て、優しく微笑むと、更に続けた。
「僕は、今の湊も、元の姿の湊も、好きだよ」
「……」
告白された。親友から。
「そうなんだ。じゃあ忠告しておくよ」
レアさんは、いたって普通に、祭華に向かって言った。
「好き、っていう気持ちは、相手に押し付けるものじゃないんだ。……私達みたいに、ならないでね」




