過去の事件
ある国の、小さな町に、一組の幼馴染の男女がいた。
男はスカイ、女はレアという。スカイは不愛想だが優しく、レアは美人でおてんばだった。
スカイには大きな夢があった。それが、役者になるという夢。
実際、彼には実力があった。多くの人が、その夢は叶うと思っただろう。
だが、医者である彼の父親が、それを許さなかった。
父親は、彼を無理矢理、医者の道へと進ませ、自分の後任にした。
役者になるという夢を捨て、医者になったスカイを、レアは良く思わなかった。
ある雨の日、スカイが仕事を終え、帰ろうとしていたところを、数人の女性で襲撃した。
言葉にするのも恐ろしいことを、沢山した。
その結果、彼は女嫌いになった。
女性を見たり、声を聴くだけで、拒否反応を示すようになった。
そして、医者を辞めた。
彼女の目標は達成された……が、双方に、深い傷が残った。
まず、レアはスカイが好きだった。それは、スカイも気付いていた。
彼を襲ったのは、「自分のことを見て、少しでも考えを改めれば……」という、安直な考えからだった。
実際、彼は医者を辞めた。でもその代わり、家から出られないほどの女嫌いになってしまった。自分をそんな目に遭わせた当事者であるレアを、許せるはずがなかった。
面と向かっては言えなかったが、レアにははっきりと、嫌いだと伝えられた。
彼を想ってやったことで、彼から拒絶された。
おまけに、町医者の数を減らしたことにより、彼女らは村八分にされてしまった。
得たものの代償は、あまりにも大きかった。
そんなある日、スカイが家に閉じ籠っていると、家のドアが乱暴に開かれた。
いたのは、数人の若い男。
女ではないことに安堵はしたが、彼らとは面識がなかった。
名前を確認する暇もなく取り押さえられ、手足を縛られ、口を塞がれた。
強盗だと理解したのは、それからだった。
この頃、町では、2種類の強盗事件が多発していた。
家に押しかけ、金品を奪う者と、金品と人を奪う者だ。
特に厄介なのが後者で、良くて人売り、下手をすれば命を奪われることもある。
スカイは、その集団に襲われた。
麻袋を被せられ、馬車に乗せられ、しばらく揺られ……袋を取られた頃には、知らない場所にいた。
人気の無い、森の奥。目の前には崖があった。
……どうやら、自分は後者の方らしい。
お前は俺達の顔を見たから、生かしてはおけない―――と、強盗達は言った。
スカイは、正直なところ、恐怖の類いは感じていなかった。
むしろ、これで女のいる世界から解放される、と清々しい気分だった。
強盗がスカイの身体を担ぎ上げた―――その時だった。
崖の反対、森の方から、何か走ってくる。
あれは……レア?
普通に考えれば、助けに来たのだろうが、今のスカイには恐怖でしかなかった。
悲鳴を上げるより前に、崖下に落とされた。
ふわりと浮いた状態で見たのは、驚く強盗と、それを押し退け、手を伸ばすレア。
そして、彼の名を叫びながら、彼女諸共、落下していった。




