異変
その後、どのように城に乗り込むか、皆で考えているうちに昼食の時間になった。
「そろそろ昼にしようか」
ガーネットさんの一言で、一度お開きになった。
「湊君、お昼食べる前に、初めに行ったあの酒場に行かない?」
燐がそう言いだした。
「酒場……キィさんの所か? 何で?」
「こっちが情報を手に入れたんだから、向こうも何か情報を持ってるかもしれないし」
「そうだな」
というわけで、ガーネットさんに言って、メアリーを連れて3人で酒場へと向かう事になった。
「にしても、これで本当に戻れるのかな……」
準備をしている最中、俺の言葉に、メアリーが反応した。
「だいじょうぶ。さいかが、もどれるっていってた」
「え、祭華が?」
「うん。……さっき、ごはんたべてるときにいってた。みんなに、じょていのことをはなすのも―――ないしょにしてっていわれたけど、もういい?」
「メアリーちゃん……ありがとう。もう大丈夫だよ」
燐が優しく抱きしめた。
ホテルから出て、酒場へ向かう道中、訊いてみた。
「……ところで、何で燐とメアリーまでついて来るんだ? 確か、あの酒場って……」
あの場所は、燐の様な人外は入れなかったはず……。
「確かに、私は入れないよ。でも、湊君を1人にしておくのも、嫌なんだ……外で待ってるよ」
「でも、人外って、他の人と扱いが違うって……」
「そうだったね……大丈夫だよ。こう見えても妖精だよ? 身を守る術くらい知ってるよ。祭華さんの家に、湊君を追いに行った時も、一人だったけど、何とかなったし」
「そ、そうか……」
「あら、いらっしゃい!」
2人には外で待ってもらい、ピアスをつけて、中に入ると、キィさんが奥から出てきた。
「こんにちは、キィさん」
「どうしたの? 何か食べに来た?」
「あ、いえ……その、女帝に関する情報、何か来てませんか?」
「女帝様の? ……そうねぇ、近頃は落ち着いていて動きがないみたい」
「そうなんですか?」
「そう。でもね……以前、異世界から人を召喚した時も、数日前から準備をしていたのか、動きが無かったんだよねぇ。だから、もしかしたら、また新たに人を召喚するんじゃないかって言われてるんだ」
また、人を……。
「……解りました」
入口の扉に手を掛けた。
「あれ、もう良いの?」
「はい……ありがとう、ございます」
震える手を抑えながら外に出た。
「はぁ、はぁ……」
ヤバい、動悸が……何だこれ……。
「燐……あれ?」
燐の姿が、どこにも無かった。
「燐……! 燐!!」
大声で呼んだり、ピアスで呼びかけたりしたが、返事が無い。
メアリーもいないし、いったいどこに……。
その時だった。
「お前、さっきの……」
声が聞こえた。
「え?」
振り返るとそこにいたのは―――。
「スカイ、さん」
買い物帰りだろうか。紙袋を片手に持ったスカイさんがいた。
「何してるんだ? こんなところで」
「あ、いや、その……実は、酒場で、女帝の情報を訊いてまして、外に燐を待たせてたんですけど、出てみたらどこにもいなかったんです……」
今更かもしれないが、俺はもしかしたら、スカイさんが苦手なのかもしれない。謎の動悸と相俟って、変な緊張感が出てしまう。
「帰ったんじゃないのか?」
「それは無いと思います。待ってるって、言ってたんで」
気付いたのだが、スカイさん、全く俺と目を合わせようとしないな……。
というか、さっきから動悸がどんどん酷くなっていってる気がする……燐を捜さなければいけないが、休みたい気持ちもある。どこか、座れる場所を見つけないと……。
歩き出そうとした瞬間、足がもつれ、倒れそうになり、咄嗟にスカイさんの腕を掴んでしまった。
「―――触るなっ!!」
瞬間、振り払われ、地面に倒れこんでしまった。
ああ、忘れてた。スカイさん、大の女嫌いなんだった。俺だって今、女なんだから、触られたくないのは、当然なのに……。
そんな事を考えているうちに、だんだんと意識が遠退いていった―――。




