風呂
作者ノリノリの話
「は?」
祭華の突拍子もない一言に、変な声を出してしまった。
「……お前、人が大事な話をしてる時に……」
「そっちも大事だけどこっちも大事じゃん。それに、ほら、時間見てよ」
そう言って、リビングの壁掛け時計を指さした。
「もう9時過ぎるよ。君からさっき聞いた話によれば、家族が捜してるらしいから、戻るに戻れないんじゃない? 話をするのも大事だけど、女帝のところに行った後なんだし、風呂にでも入ってサッパリしたら? 燐ちゃんだって、いきなり女帝のこと話されて困惑してるだろうし、頭の中を整理させた方が良いよ」
「う、うん……」
まあ、祭華が言うことも、一理あるな……。
「じゃあ、一度ホテルに戻って風呂に入るか」
「ホテル戻るの? 面倒じゃない? ここの風呂使えば?」
「え? ここ、風呂あるのか?」
「当たり前じゃん。普段僕が使ってるんだから」
「ああ、そうか……って、祭華、お前、風呂付の戸建てに住んでるのか?」
「ここまで来て何言ってるの? 当たり前じゃん」
「へ、へえ……」
高校生で戸建て……まあ、異世界だから、そういう事もある……のか?
「じゃあ、燐、俺、先に風呂入ってもいいか?」
「えっ? ……ああ、うん、どうぞ……あ、でもちょっと待って」
「どうした?」
「女の姿のままだけど……良いの?」
「あ」
忘れてた……さすがに女の姿のままで風呂に入るのは抵抗がある。
「じゃあこうしよう」
すかさず、祭華が口を挟んだ。
「うちに適当な布があるから、それを目隠しにしよう。で、僕が、湊の身体を洗う……良いと思わない? 僕、この世界に1年もいて、お風呂入る時とかに、自分の身体を毎日見てるから、女性の身体は見慣れてるし」
そう言う祭華の表情に、僅かながら違和感を覚えたが、その時の俺は気付かなかった。
「それじゃ、早速入るか―――」
「目隠しするよー」
「お、おう」
脱衣所で、祭華が用意した布を頭に巻き付け、目の位置までずらした。
「服脱がすよー」
胸元のボタンに手が触れた。
「……」
普通に脱がせばいいのだが、何だか手つきがいやらしい。
上手く表現出来ないが、ボタンを外すのも、スッスッとやればいいのに、1つ1つにやたら時間がかかる……。
「祭華、ちゃんとやってるのか?」
「やってるよ。もしかして、手際悪いと思ってる?」
「それは……」
「悪いに決まってるじゃない、人の服を脱がしたことなんて無いんだから」
「まあ……そうだけど」
「いいから、我慢してよ……はい、脱げた」
とは言うが、まだ下着が残っていた。
「わー、お姉さんの下着を拝借したって聞いたけど……君ってこういうのが趣味だったんだね」
「いやっ! これは、よく見ないで取ったからこういう色になったってだけで―――」
「はーい、脱がしまーす」
「……」
羞恥プレイもいいところだ……。
覚束無い手つきで下着を脱がされ、目隠し以外は生まれたままの姿になった。
「ちょっと待ってて、僕も脱ぐ」
「あ、ああ……」
待ってる間、放置されるわけだが、相変わらず下半身は寂しいし胸には違和感がある……早く何とかしないとな……。
「さ、行こうか」
手を引かれ、風呂場へと連れて行かれた。
風呂椅子に座らされ、やや熱めのシャワーを肩からかけられた。
「顔は後で自分で洗ってね。服着てても出来るはずだから」
「ああ……あの、今思ったんだけど、身体洗うの、見えなくても出来るんじゃないのか?」
そう言うと、シャワーの動きが止まった。
「……大丈夫、僕に任せて、上手いから」
「え? あ、じゃあ、頼む……?」
変だな、服脱がせたことないとか言ってたから、てっきりこういう行動は不慣れなのかと……そういう話じゃないのか? あれ? そもそも、服も自分で脱げたんじゃ?
「よし、こんなもんかな。石鹸付けるよー」
そう言うと、腕にスポンジのようなものが宛がわれた。
ゴシゴシと洗われる。結構気持ちがいい。
「次、背中洗うよ。……髪が邪魔だね……湊、髪上げてくれる?」
「ああ」
手で髪を適当にまとめて、頭の上に上げた。
「良いね、髪長くて、綺麗で」
祭華がそう呟いた。
「そう言うけど、祭華も長いだろ? 自分のじゃダメなのか?」
「……」
黙ってしまった。
「祭華?」
「湊、手を離して」
「え? あ、ああ」
手を離した。当然だが髪が背中にかかった。
「おい、一体どうし―――いっ!?」
不意に、背中に、今までで感じたことのない柔らかい感触が……。
「なっ、何……祭華!?」
すると今度は、腹に腕をまわされた。
ま、まさか、背中に触れてるのって、祭華の胸―――。
「湊」
耳元で、名前を呼ばれた。
「この世界で初めて君に会った時から、ずっと思ってたんだ……絶世の美女だなぁ、って」
「はっ!? な、何言ってんだ!?」
祭華は、クスクスと笑って言った。
「……可愛い」
頭の中が真っ白になった。
「僕はね、確かに、長髪が好きだよ。でもね……自分のは、見飽きちゃったんだ」
髪を撫でながら言った。
「それに、君なら、僕の趣味が解るから、ある程度は許してくれるかなって思って……」
手が、胸元に……。
「それに、君は、僕よりも大きい」
胸の違和感に触れた。
「良いなぁ。僕のはこんなに大きくないよ……ふふっ、心臓の鼓動が伝わってくる……」
されるがままの中で、ぼんやりと考えていた。
そういえば、こいつ、長髪好きだけど、一方で巨乳好きでもあったんだっけ、と。
「ねぇ、湊、返事してよ」
また、抱き着かれた。
「……」
いけないな、このままじゃ。
この男はいつだって、調子に乗ると、こうやって暴走する。中学の時もそうだった。
そういう時は、大抵、こうする―――!!
「っ!!」
「あだっ!!」
手探り掴んだシャワーのヘッドを勢い良く振ると、祭華の頭にクリーンヒットした。




