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理由

前回までを投稿し終えて、数時間後に確認したらもうお気に入り件数が5件にまで達してて嬉しいのもそうですが、「やっぱり皆、異世界物が好きなんだなぁ」と痛感させられた訳なのですが………異世界物初挑戦なため、不安が尽きません。「こういうところダメだな」っていう部分があったら遠慮なく申し出てください。

 秋桜燐は、人間だった。

 俺、橋本湊と同じように、無理矢理この世界に連れてこられた、ただの平凡な人間だった。

 ちなみに、連れてきたのは、金糸雀王国の王―――後に聞いたのだが、人々は王の事を、女帝様と呼んでいるらしい。


 では、何故彼女を連れてきたのか?

 理由はただ一つ、『金糸雀王国の人口の減少』だ。

 "足を踏み入れると女体化し、二度と出られなくなる国がある"と、隣国で噂になり、誰も国へは立ち寄らず、近付く者すらいなくなるほど、王国は恐れられてしまっていた時期があった。

 来国者で栄えていた王国は一気に廃れ、存亡の危機にさえなった。


 そこで、女帝は一見を案じた。

 それが、"異世界人を召喚"する事。

 まず、あらかじめ国の印象がこれ以上悪くならないように、隣国へ赴き、そこにいる民に、"金糸雀王国の女体化説は嘘"という事を広めておく。


 それから、召喚の準備に取り掛かった。

 ターゲットは、女性。身寄りがなく友達も少ない、いてもいなくても一緒っぽい人間を選んだらしい。


 ―――秋桜燐も、その中の1人だった。


 燐は、幼い頃に両親を亡くし、親戚中をたらい回しにされた挙げ句、高校入学と共に一人暮らしを強いられてしまった、俺と同い年の女子高生なのだ。

 高校という新生活にも慣れず、どこにも馴染めなかった燐を、女帝は異世界へと召喚した。

 そして、言い放った。


「今の世界に馴染めないのなら、ここの民になりなさい」


 だが、燐は首を縦には振らなかった。

 国が存亡の危機だと言われても、燐の心には響かなかった。

 寧ろ燐はこう言った。

「民が欲しいのなら、術を解いて男性を受け入れればいい。世界に馴染めてないのはあなたの方だ」

 燐は、確かに、自分のいた世界には馴染めていなかった。

 身寄りも友人もいない燐にとっては、苦痛だったのかもしれない。

 でも、燐は信じていた。

 いつか、今の世界に馴染める時が来る、そう信じていた。だから、まだ自分のいた世界を捨てたくない、そう思っていた。

 女帝には、もっと世界を広く見てもらいたい。―――先程のは、女帝をそう気遣っての言葉だった。


 だが、その言葉に、女帝は怒り狂った。逆鱗に触れてしまったのだ。

「お前を、醜い妖精にしてやる!!」

 女帝は、術をかけ、彼女を妖精にしてしまった―――。



「――とまぁ、そういうわけだよ」

 喋りすぎて、喉渇いちゃった。と言いながら、燐は原っぱの上に腰を降ろした。

「……もしかして、お前、それからずっとこの世界に?」

「実は、そうなんだよね……私以外にも、王の意見に背こうとした女性はいっぱいいた。でも、みんな揃って獣とか妖怪とかにされちゃって……」

「そんな……」

 酷すぎる。

 自分の身勝手な欲求のために、無関係な女性や、無関係な隣国の人達まで巻き込んで、人生も、プライドも、夢や希望すらも滅茶苦茶にして、当の女帝本人は未だこの国の頂点に君臨し続けている……。

「……でも、それでどうして、俺を召喚したんだ? つか、何で俺なんだ? それに、妖精になったんなら、その力で元の世界に還ったり出来ないのか?」

 沢山質問を投げかけてしまった。

「帰る事なんて出来ない……誰か1人を呼ぶか、誰か1人を元の世界に戻す事ぐらいしか出来ないの。妖精って言っても、下級だから、妖怪に変えられた人を元に戻すことも出来ないし……それに、私には、湊君しか頼る事が出来ないから……」

 泣きそうな声で、引き攣った笑顔で、燐は答えた。

「俺しか頼る事が出来ないって……どういう事だよ?」

「それは…今は言えない……今はただ、"秋桜燐"って名前を、覚えてくれればいいから……」

「……解った」

 不思議だ、初めて聞いた気がしない。


「……で、俺はこれからどうすりゃいいんだ? まぁ今までの話を聞いていれば、だいたい想像がつくけど……」

「うん。それなら想像通りの事を言わせてもらうけど……湊君には、この国の術を解いてほしいんだ」

 やっぱり、な……。

「気持ちは山々なんだが、俺は普通の一般人なんだぞ? 特に秀でた能力もないし……」

「わかってるよ。そこら辺は私が協力する。それに、私は何の準備もなしに、湊君を異世界に呼んだわけじゃないよ?」

「と、いうと?」

「制限時間付きだけど、一時的に湊君を元の世界に帰す事が出来るんだ。1日1回だけね」

 綺麗なウインクをしながら、燐がそう言い切った。

「マジで!?」

「もちろん。それなら、文句は無いでしょ?」

「いや、無いっていうか……」

 実際、本当に嬉しい。一定時間でも、戻れないよりマシだ。

「ふふっ、喜んでくれてるみたいで嬉しいよ。でも、元の世界に帰す為の準備をしないといけないからさ、ちょっとじっとしててね」

 そう言いながら燐は、俺に近付き、俺の左耳に触れた。

 直後、刺すような鋭い痛みが走った。

「痛っ!!」

 思わず頭を振りそうになるが、燐に両手でガッチリと抑えられてしまう。

「すぐ終わるから、じっとしててよ……それにしても湊君、ファッションに疎いのか知らないけど、ピアスの穴一つ空けてないなんて、驚いたよ」

「ピ、ピアス!? 燐、お前まさか、今俺の耳にピアスの穴空けてんのか!?」

「あ、名前で呼んでくれた、嬉しい」

「話逸らすな!!」

「わかったから静かにしてよ……はい、お終い」

 ようやく、手を離した。

「……どうなったんだ?」

「ふふふ、こうなりましたー」

 じゃーんと、燐が、どこから取り出したのか、少し大きめの手鏡を俺に差し出した。

 その鏡に映る姿を見て、驚愕した。


 そういえば、こっちの異世界に来てからまだ自分の姿を確認していなかったのだが……。

 簡単に言うと、元の俺の顔を、少し女よりにしてから、髪を長くしたような、そんな顔をしていた。

 元が良くもなく悪くもなかったので、絶世の美少女とまで行かなかったのが少し残念だが―――

「……これ、俺?」

 ―――やっぱり、ダメージはデカい。

 俺みたいに、何も知らずにこの国の土を踏みしめ、同じ気持ちを味わった人が、この国には沢山いるのかもしれない。

 女帝……絶対に許さない。


「……で、湊君。ピアスの方はどう?」

 燐に話しかけられ、我に返った。

「え? あ、ああ……」

 改めて確かめると、左耳の耳朶に、小さなルビーのような宝石があしらわれたピアスがついていた。

「……これ、何なんだ?」

「それを使えば、元の世界に一時的に帰ることができるし、こっちの世界でいう、電話みたいな役割もあるんだよ」

「電話?」

「そう。とは言っても、色んな機能が付いてるんだけどね。その昔、異世界を繋ぐ連絡手段として使われていたのを、私が改良したんだ」

「異世界を繋ぐ……って事は、俺が元の世界に戻っても、連絡が取れるって事か」

「そういうことだね。ちなみに、改良点についてなんだけど……これ、見てよ」

 燐がポケットからある物を取り出した。

 それは、俺が今つけているピアスと全く同じ物だった。

「今、湊君がつけているピアスと、このピアスは、対になってるの。だから、湊君のピアスは、私のピアスにしか働かないんだ」

 そう言いながら、燐は自分の右耳に丁寧にピアスを取り付けた。


「で、改良点についてなんだけど、このピアス、つけている両者の"脳波"を察知することが出来るんだよね」

「脳波?」

「そう。まぁ、脳波以外にも色々あるんだけど……で、そこから、湊君の視覚情報とかを取り寄せたり出来るんだよね。簡単に言うと、今、湊君が見てる映像が、私にも見えるようになるって事。解る?」

「う、うん、一応」

「それじゃ、続けるね? ……その機能を使えば、偵察とかが簡単に行えるから、便利なんだよね。他にも、脳波等から、湊君の身体の様子が鮮明に把握できるから、体調悪くても無理してたらすぐ解るからね?

 ……説明はこんなとこかな。質問は?」

「……いや、特には……実際に使ってみないことには何とも……」

「それもそうだね。……じゃ、早速、湊君を元の世界に返してみよう。その服装じゃ、動きづらいだろうし」

「確かにな」

 今の服装は、学ラン。家に帰ってからそのままだったからな……。

「じゃ、ちょっと待っててね」

 そう言うと、燐は俺の近くに、先ほどの鏡を置いた。

 そして、目を閉じ、両手を合わせた。

 すると、鏡に、ひびが入った。


 たちまち、ひび割れから眩しい光が漏れ、視界が真っ白になった―――。

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