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祭華

「―――思えば、彼女自身、ちょっとおかしな人だったんだ。デートの時とか、僕が応対してもらった店員が女性ってだけでも眉をひそめていたし、帰る時も、1人で帰るのを嫌がっていたし……束縛の激しい彼女だったんだよね」

「……」

 唖然、という他無かった。まさか、自分の親友が、そんな目にあっていたなんて……話の中で、最後の方が箇条書きっぽくなってしまったのは、きっと、辛い記憶を無意識のうちに単純化してしまっているからだろう。

「僕、彼女に告白されて、本当に嬉しかったんだ……でも、こんなことになっちゃって……笑っちゃうよね。周りが全く見えてなかったよ」

「……どうして、一度も相談してくれなかったんだよ。連絡先、知ってたはずだろ?」

 俺は卒業してから一度も連絡先を変えていない。住所も変えていない。連絡を取る事ぐらい、出来たはずだ。

「迷惑かけちゃ、いけないと思って」

「え?」

「きっと湊は高校で、沢山の友達に囲まれて、彼女も出来て、幸せな毎日を過ごしていると思ってたから、それの邪魔をしちゃいけないと思って―――」

 それを聞いた瞬間、頭に血が上った。

 気が付けば、祭華の胸倉を掴み、渾身の力でぶん殴っていた。

「お前っ……ふざけんなよ!! 邪魔だって、俺たち親友だろ!? 何でもっと早く連絡してくれなかったんだよ!!」

 思いっきり怒鳴りつけた。

『湊君落ち着いて!!』

「!」

 頭に燐の声が響いて、ハッとした。

 目の前には、先程の俺の様に、頬から血を流してへたり込んでいる親友の姿があった。

「あっ……祭華、ごめん」

 咄嗟に駆け寄り、血を押さえようと手を伸ばすが、払い除けられた。

「いいよ。すぐ治るから」

「な、何言ってんだよ、血が……」

「いいから見てて」

 その瞬間、傷が、まるで早送りの様に、あっという間に治っていった。

「え!?」

 驚いて変な声を出してしまったが、確かに、傷は跡形もなく消えていた。

「な、何で……」

 下手なマジックを見た時より驚いている。

「こっちの世界に来てから、この体質になったんだ」

「こっちに来てから?」

「ほら、君のところにいた子供、名前なんだっけ」

「メアリー……か?」

「そうそうその子。さっき聞いたけど、人間の手によって造られた物なんだってね」

「ああ、確かそうだったな」

「その子と"同じ"になったんだ」

「お、同じ?」


「僕、この世界に人間として呼ばれたんじゃなくて……"物として呼ばれたんだ"」


 ……物?

「え、何で? まさか、お前も女帝に何かされて……?」

「いや、違う。多分、彼女が原因だ」

「は……?」

「彼女は僕を束縛した。手すりに縛り付けて、風呂とトイレ以外は決して放してくれなかった。溺愛してくれているのは解っていたけど、徐々に扱い方が変わってきて、最後の方はほとんど"物"同然の扱いだった。だからこの国の女帝に呼ばれたんだ。強い念や想いが宿った物としてね」

「そんな……」


 祭華は、この世界では、"物"という扱いになっている―――。


「湊、落ち着いて。感情が顔に出てる」

「!」

 どうやら無意識のうちに怒りの感情がそのまま顔に出ていたらしい。

「ふふっ、湊、感情がすぐ顔に出る所、中学の頃から全然変ってないね」

 くすくすと笑っている。

「………」

 今度は正気を保つことが出来た。

 右手を上げて、痛くても怪我をしない程度に、祭華の頬に平手打ちをかました。

「!?」

 頬を押さえて、驚いた顔でこちらを見上げている。

「馬鹿なことを言うな、祭華」

「え……」

「そりゃあ、俺も悪かったよ、"今の生活の邪魔になる"って、もしかしたら俺も、無意識のうちにそう思ってたのかもしれない。でも、監禁されてたとか、学校やめたとか、そういう危機的状況になったら、まず友人に頼るもんじゃないのか? お前にとって友人って、そこまでの存在だったのか? 中学を卒業したら、もう赤の他人なのか?」

「……違う」

 力なく、首を横に振った。

「じゃあせめて、今からでもいいから、俺を頼ってくれよ。祭華が物だって? そんなの……考えたくもない」

 その瞬間、ハッとした表情になり、祭華の目から、大粒の涙が零れた。

「ごめん、湊……ごめんなさいっ……僕、本当に、どうかしてた―――」

 嗚咽を漏らして泣いた。ようやく、自分の行動の異常な点と、今現在置かれている立場の深刻さに気付いたようだった。

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