過去
ロレンス―――本名、桐生祭華は、俺が中学の時に知り合った男で、俺の親友だ。
性格は非常に大人しく、目立つのが苦手で、学校行事の時は常に裏方に回っていた。
そんな祭華と俺が仲良くなったのは、中学1年生の春。きっかけは、"ゲーム"だった。
当時、一部の人間の間で流行っていたレースゲームを、偶然祭華と俺も持っていて、それが接点になった。
……今思えば、操作方法も難しくて、全く臨場感の無いあのゲーム、ハマるやつの方が変わっているって言われてたな。
ある日、学校にゲームを持ち込み、休み時間に1人で遊んでいる祭華を見つけた。
後ろから盗み見て、ちょうどゴールした瞬間を狙った。
「お前、そのゲーム好きなの?」
「!? ……う、うん」
かなり集中してたらしく、少し驚かせてしまった。
「ああ、驚かせてごめん。俺、橋本湊」
「……桐生祭華」
祭華、変わった名前だな、と思った。
「俺もそのゲーム持ってるんだ。今度持ってくるから一緒にやろう」
「あ、でも僕、自分ルール決めてて、あまり強くない……」
「そうなの? 俺も最近買ったばかりだから全然弱いよ。今度その自分ルールでやろう」
「うん」
その日以降、俺と祭華はゲームを通じて中を深めていった。互いの家に遊びに行ったり、学校にゲームを持ち寄って遊んだり……楽しい中学校生活を過ごした。
一緒に遊んでいて気付いたのだが、祭華は女性の髪が好きで……所謂、髪フェチだった。ゲームのキャラも、基本的には髪で選ぶ奴だった。
「やっぱり長髪が一番だよね」
「そ、そうか? 全然解らないけど……」
「湊の武器好きを僕が理解できないのと一緒だよ」
「あ、そう……」
……こんな感じの会話をした気がする。
1番の親友と言える仲になって数ヶ月、中学の卒業時、俺は地元の私立高校に、祭華は親の仕事の都合で、遠く離れた別の公立の高校に行くことになった。
卒業式が終わり、解散したのち、親に頼み込んで俺の家で少しだけゲームをした後……。
「湊」
「うん?」
「高校に入ったら、しばらくは連絡取れなくなると思うけど……もし僕が連絡したら、また一緒にゲームしてくれる?」
「もちろん」
口約束に過ぎなかったが、俺も祭華も真剣なのは間違いなかった。
それから、1ヶ月が経った。
春になり、雪も溶けて桜の花が見ごろな時に、祭華は告白された。
相手は、町内でも有名な金持ちの娘で、かなりの美人だった。
「私、桐生君が好きなの。付き合ってくれる?」
そう言われて、祭華は即OKを出し、2人は付き合うことになった。
その後、祭華は、高校の授業についていけなくなった。別に、ゲームに明け暮れていたとか、彼女を重視しすぎていたとかそういうことではなく、単純に、そこの高校のレベルが思ったよりも高かった、というだけの話だった。
勉強続きでストレスは溜まり、大好きなゲームをする暇も無い。その事を彼女に愚痴ると、彼女はこう言った。
「だったらさ、学校やめて家で暮らしなよ。養ってあげる」
祭華は、その提案に乗ってしまった。
そこからはあっという間だった。
親の反対を押し切って自主退学し、彼女が自身の親に頼んで借りたというマンションの部屋に住むことになった。
……既に家具が置かれた部屋に引っ越ししてきた当日、祭華は"部屋の手すりに手錠で繋がれてしまった"。
「え……?」
困惑した表情で彼女を見上げる祭華。彼女は口角を上げてこう言った。
「言ったでしょ? 養ってあげるって―――」
それから、祭華はずっと監禁されて暮らしてきた。




