お話
湊君がメアリーちゃんと散歩に行った後、私は、部屋で1人で暇を潰していた。
「あ、そういえば……」
湊君、さっき、部屋のベッドに寝てたんだっけ。
「……ちょっとだけ、ちょっとだけ」
こっそりピアスの電源を切り、ベッドに近付く。
掛け布団を剥がし、シーツに顔を埋めてみた。
「……」
さすがにもう温くはないか……。
何だか恥ずかしくなってきたので、顔をあげ、ベッドを綺麗に整えてから、フロントに行こうかなと後ろを向いた目の前に、メアリーちゃんが立っていた。
「ふぇっ!?」
変な声を上げながら、腰が抜けてしまってその場にしゃがみこんでしまった。
「りん、いま―――」
「ちっ、違うの! メアリーちゃん! これはあの……布団を、直そうと思って!!」
メアリーちゃんが喋り始めたのを全力で遮った。
「あっ、メアリーちゃんは、どうしたの? 湊君は?」
とにかく話を変えよう。
「わたし、りんとおはなししてこいっていわれた」
「えっ、お話?」
何でそんなことを?
「わたし、ことばがはっきりしてきたって……どう?」
「あー……確かにそうだね」
片言だった言葉に、接続語が追加されている。これも、あの薬の効果なのかな?
「りん、だっこ」
両手を広げて私に近付いてきた。……超可愛い。
優しく抱き上げると、メアリーちゃんはそっと私を見て優しく微笑んだ。
その時、部屋の扉がノックされた。
「どちら様ですか?」
「ガーネットだ」
「あ、はーい」
扉を開けると、そこには、ガーネットさん―――と、見知らぬ女性が1人。
「っ!?」
ガーネットさんだけだと思い込んで開けてしまったから、思わず身が竦んでしまった。
「うん? ……ああ、すまないな、驚かせてしまって。こいつは人外に対しては何も思わない奴だから、安心しろ」
「あっ、そうなんですか……」
なら良かった……。
「ところで、湊はどうした? まだ散歩中なのか?」
「みたいですね……少し遅いですね」
ちょっと長すぎる。どこまで行ってるんだろう?
「メアリーちゃん、湊君、どこに行ったか解る?」
「わかる。わたし、よんでくる」
私が床に降ろすと、メアリーちゃんは大急ぎで部屋を飛び出していった。
「……あの子、燐と湊、両方が揃っていないと嫌みたいだな」
「解るんですか?」
「燐は解らなかったのか?」
「え、それは……」
「まぁ、解らなくても責めはしないがな」
それはいいとして、と、ガーネットさんは言った。
「紹介しよう、こいつも女帝を憎んでいる奴らの1人―――ロレンスだ」
ロレンス、と紹介された女性は、さっきから俯いていて、顔はよく見えなかった。が、軽く会釈をすると、ようやく顔を上げてくれた。
……女の私から見ても、とっても可愛い顔立ちをしていた。
「えっと……秋桜燐です。よろしくお願いします」
頭を下げようとした―――その時だった。
「りん! りん!!」
メアリーちゃんが、慌てながら部屋に入って来た。
「メアリーちゃん! ……どうしたの?」
「りん! みなとが、いない! きえた、きえた!!」
「……えっ?」
湊君が、消えた?
「ちょっと待って、だって、さっきまで一緒に……どういう事!?」
「わからない、いまいったら、いなくなってて……うわああああ―――」
大声を上げて泣き出してしまった。
「えっ、ちょっと待って、メアリーちゃん!」
必死に落ち着かせようとするが、私自身もパニックで、わけが分からなかった。
湊君が、消えた……?
でも……そうだ、ピアスがある。
「湊君、応答して! 湊君!!」
人目もはばからず、ピアスに手を添えて声を荒げた。が、湊君からの応答は無かった―――。