再会
言っている意味が、解らなかった。
でも、確かに、目の前にいる子供は、「メアリー」と名乗った。
メアリーって、まさか、そんな……。
「メアリーちゃん、っていうの?」
そう訊き返すと、はっきりと頷いた。
「……」
思わず、俯いてしまう。
……違う、偶然だ。偶然に決まってる……。
「燐」
湊君が、私を呼んだ。
「メアリーって、まさかその子―――」
「違う」
言ってる途中で、遮った。
「違う、そんなわけない、この子は……ただ、名前が一緒になっただけ、だと思う……だって、メアリーなんて名前、結構多い方だし…」
冷静になっているつもりが、明らかに動揺してしまった。……どうしよう、どんな反応をすれば……。
「燐……その子、悲しそうな顔してるぞ」
「……え?」
顔を上げてみれば、確かに、悲しそうな顔をしていた。
「それに、さっきからずっと燐を見続けている。これが証拠だよ、燐。この子は確かに、俺たちのよく知るメアリーなんだ」
「………」
手が震えている。子供はまだ、私を見続けている。
対する私は、何処を見たらいいのかわからなくて、目を泳がせることしかできなかった。
長い沈黙を打ち破ったのは、スカイさんだった。
「その子は、お前等の知り合いか?」
「あ、はい。多分ですけど、燐の持っていた熊のぬいぐるみがあって……それだと思います」
「ふーん……この妖精はそれじゃ駄目みたいな言い方していたが、どういう事だ?」
「駄目ってわけじゃないと思いますけど―――」
湊君が勝手に話を進めてしまっている。違う、まだこの子が、あのメアリーちゃんだと決まったわけじゃない……確認しないと。
「……あなた、私の家にいた、熊のぬいぐるみ…で、あってる?」
いきなり、核心に迫った。
子供は……しっかりと、頷いた。
この子は……メアリーちゃんだ。
「何で……どうして、こっちに来ちゃったの……あなたは、来ちゃいけないの! この世界は、元々いた世界よりずっと危険で……とにかく、来ちゃいけない世界なの!!」
力任せに叫んだ。
「りん……おこらないで、わたし、りんにあいたくて、ここにきた……だから、かえりかた、わからない」
片言で、舌足らずだけど、メアリーちゃんははっきりとそう言った。
「メアリーちゃん……解った。じゃあ、一緒にいよう。怒ったりしてごめんなさい。還られるようになるまで、一緒にいよう……」
そう言って抱き締めると、メアリーちゃんは、嬉しそうに笑ってくれた。
話を、戻そう。……思えば、来客を放置してメアリーちゃんのことに専念してしまっていたわけで……何やってるんだ私…。
みんなでソファに座り直し、話を始めることにした。私は湊君の隣。メアリーちゃんは私の膝の上に座った。
「それで、えっと……女帝のことについて、知ってることがあれば、教えてください」
そう訊いたのだが、スカイさんもレアさんも、うーん、と頭を悩ませてしまった。
スカイさんは……。
「知ってること、と言われてもな……人並み程度にしか知らないが……確か、女帝には、姉妹がいる、という話がある」
「姉妹、ですか」
「ああ。姉か妹かは解らないがな」
続いて、レアさん。
「私も解らないなぁ……強いて言うなら、女帝は、かなり男勝りな性格だ、ってことかなぁ」
「そう、ですか……」
「……ごめんね、あんまり有益な情報じゃなくて」
「あっ、いえ、大丈夫です」
……あ、そうだ。
「メアリーちゃんは、何か解る?」
訊いてみたが、首を振ってしまった。
「……解りました。皆さん、ありがとうございました」
湊君が頭を下げたのを見て、私も、メアリーちゃんも頭を下げた。




