来訪
朝食後、ガーネットさんに紙とペンを借り、子供を連れて部屋に戻った。
「よし、まずは読めるかどうか、確認するか」
試しに、紙に「はしもとみなと」と書いてみた。
「これ、読めるか?」
子供に見せると、首を振ってしまった。
「読めないのか……」
「湊君、片仮名とか、ローマ字とかもやってみようよ」
「解った」
片仮名、ローマ字、漢字……色々やってみたが、全部、首を振ってしまった。
「どうしようか……」
うーん、と悩んでいると―――。
「おい、2人共、もう客が来てしまった」
ガーネットさんが部屋に入りながらそう言った。
「え、もうですか?」
時間はまだ11時くらいだった。
「ああ……思った以上に早く来てしまった…部屋に通してもいいか?」
「じゃあ、お願いします」
とりあえず、紙とペンを片付けて、念のために燐と子供を奥の部屋に隠した。
少しして、2人の女性が入ってきた。
双眼鏡を首から下げた、やたら笑顔な痩せた女性と、結構ガッチリした体型の、物凄く不機嫌そうな表情の女性だった。
……一目で、どっちがどっちか解った。
「ロレンスは、後から来るそうだ。こいつらの自己紹介は……しなくてもいいよな?」
ガーネットさんの言葉に、俺はただ、頷くしかなかった。
「あの……橋本湊です。こういう見た目ですけど、その、一応男です……」
自己紹介したのだが、レアさんはニヤニヤしながら見てくるし、スカイさんは聞いてるんだか聞いてないんだか解らないし、おかげでかなりぎこちなくなってしまう。
「湊君、かぁ。今身長どのくらい?」
レアさんが訊いてきた。
「身長ですか? ……160、です」
確か、この国では5センチくらい高くなるはずだから……うん、160で間違いないと思う。
「ってことは、本当の身長は155センチかぁ、可愛いんだろうなぁ……」
斜め上を見て何やら……妄想にふけっているような顔をしてしまっている。とりあえずガーネットさんを見ると、「そういう奴なんだ」とでも言いたそうな顔をしていた。ああ、なるほど……。
「え、えーと、その……よろしくお願いします」
ぎこちなく頭を下げた。
「おい、どうでもいいんだが、俺はこいつの前で何を話せばいいんだ?」
スカイさんが腕を組ながらガーネットさんに訊いた。
「ああ、とりあえず、女帝のことについて、知ってることを教えてもらおうと思ってな」
「ふーん……その話、向こうの部屋にいる人外には関係ないのか?」
そう言って、スカイさんは奥の部屋の辺りを指さした。
……バレた。燐の事が。
「気付いてたのか?」
「ああ。……あんたの連れか?」
俺に訊いてきた。
「は、はい。紹介した方が、いいですか?」
「当たり前だろ。盗み聞きなんて感じ悪いと思わないのか?」
「すいません……」
渋々2人を呼び戻し、紹介した。
「秋桜燐です。元の性別も女です。よろしくお願いします……」
人外であることが、コンプレックスらしく、少しおどおどしながら挨拶した。
「……その子は?」
スカイさんが燐の足元にいる子供に気付いた。
「この子は……話せないみたいで、名前が解らないんです」
そう言った瞬間、さっきまでソファに座ってたレアさんが立ち上がった。
そのまま燐に近付き―――。
「ちょっといいかな?」
「え?」
燐の了承を得る前に、レアさんは子供に近付いた。
そして。
「……この子、人間じゃないね」
真剣な表情で、そう言った。