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謎の子供

「うーん……」

 酷い怠さと寒気で、目が覚めた。

 身体を起こしたが、関節が痛い。寒気もする。

 これ、風邪だな……異世界で風邪を引いてしまった。

「燐……あれ?」

 ベッドのある方を見たのだが、燐はいなかった。もう起きているらしい。

 若干咳込みつつ顔を洗い、毛布を羽織って廊下へ。

 廊下を見渡しても燐はいなかった。……ガーネットさんのところだろうか? 確かフロントはどこだっけ……。

 ふらふらしながらフロントへ向かおうとすると。

「湊?」

 後ろから呼び止められた。

 振り向くとそこにいたのは、俺のお目当ての人物。

「……ガーネットさん、おはようございます」

 何でこの人ここにいるんだ。まさか起こしに来たとか? ……いや、従業員なら歩いてても不思議じゃないのかな…どうなんだろう? 

「おはよう。……顔色悪くないか?」

「風邪ひいちゃって。燐、知りませんか?」

「ああ、燐ならさっき、フロントに来たぞ。迷子を連れてきたとか何とか」

「そうですか……ありがとうございます」

 フロントにいるならそっちに行こうと歩き出したが―――。

「ちょっと待て」

 ガーネットさんに腕を掴まれ、止められた。

「な、何ですか?」

「風邪のまま彷徨くつもりか? 酷くなったらどうする気だ?」

「いや、平気ですよ。すぐ戻りますんで」

「メリルも、同じことを言ってご両親に心配をかけまくってたんだよな……」

「えっ……」

「というわけだから、部屋に戻るぞ」

 腕を引っ張られ、部屋に連行された。

「あっ、あの! 本当に大丈夫ですから!!」

 部屋に行ってもずっともがき続けていたのだが、結局ベッドまで連れて行かれた。

「とりあえず燐を呼んでくる。湊はそこで黙って寝てろ」

 そう言い残すと、ガーネットさんは俺の言い分も聞かず部屋を出ていってしまった。

 ……俺、そんなに具合悪そうに見えたのかな?

 とりあえず、ベッドで布団を被る。

 そのままじっとしていると、どこからかドタバタと物音が聞こえ―――。

「湊君っ!!」

 燐が部屋に飛び込んできた。朝っぱらから元気だな……。

「風邪ひいたって、やっぱり、私がベッド占領したから……本当に、ごめんなさい!!」

 ベッドに近付き、頭を下げてきた。

「い、いや、燐……それを理由と決め付けるのは、いくらなんでもっ……」

 極端すぎる、と言おうとしたが、タイミング悪く声が詰まって咳き込んでしまった。燐が泣きそうな顔をしている。

「……恐らく、ベッド占領は直接的な理由にはならないだろうな」

 ガーネットさんが部屋に入ってきた。

 ……だが。

「ガーネットさん、その子供は?」

 何故か、7歳程度の小さな子供と手を繋ぎながら入ってきた。

「こいつか? 燐が連れてきたんだ」

 そういえば、迷子がどうとか……。

「名前は?」

「それが、何も喋らなくてな……頷いたりはするんで、ある程度のことは解るんだが、名前まではな……」

「そうなんですか……」

 ガーネットさんと話をしてる最中、子供はずっと、燐を見つめていた。


「で、湊、今日の予定どうする? 女帝を憎みまくっている奴らに会うんだろ?」

「そうですね……今日になってキャンセルだなんて、俺も嫌ですし……」

 うーん、と悩んでいると、ガーネットさんと一緒にいた子供がこちらに向かってきた。

「……?」

 枕元に近付いて、じっと俺の目を見つめている。

 大きな黒い瞳には、困惑する俺の顔が映っていた。

 ……というか、近付かれて気付いたのだが、この子、ただの子供じゃないような気がする。

 明るめの茶髪に、白い肌、目は丸くて大きく、とても大人しそうな雰囲気。

 見た目は普通のなんだが、何かが、違うような……この世のものじゃないような、そんな気配がする。


 この子、何者なんだ……? 


 暫く見詰め合っていると、子供が不意に、その小さな手を俺の額に乗せた。

 子供の手が触れた瞬間、さっきまであった怠さや寒気が一気に退いていくのが解った。


 少しして、子供が手を離した。時間は僅か数秒だったと思う。

 起き上がって確認してみたが、やっぱり……。

「湊君、どうしたの?」

「……風邪、治ってる」

「えっ!?」

 燐やガーネットさんが「信じられない」とでも言いたそうな顔をしている。

「ちょっといいか?」

 ガーネットさんが、そっと俺の額に手を乗せた。

「……確かに、熱は下がっているみたいだな。顔色も良くなってるし……どういう事だ?」

「俺に訊かれましても……」

 チラッと、さっきの子供を見る。

 子供は、また、燐を見上げていた。

「さっき、その子供が俺に触った瞬間に具合が良くなった気がして……燐、その子、どうして燐ばっかり見てるんだ?」

「え? ……あ、本当だ。何でだろ……」

 燐も気付いていなかったらしく、子供を見下ろして初めて気付いた。

 何はともあれ、助けてくれたのだからお礼を言わないと。

 ベッドから抜け出し、子供の頭を優しく撫でる。

「ありがとう、おかげで助かったよ」

 そう言うと、子供は目を細めて優しく微笑んでくれた。

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