就寝
終わる気がしない…。
「うわっ!?」
驚いて目を瞑り、そのまま数秒。
「湊君!」
燐の声が聞こえたので、目を開けた。
すぐ目の前に、燐が立っていた。
……って、あれ? 先輩は?
キョロキョロと辺りを見渡すが、先輩の姿は見えない。
もしかして、俺だけこっちに来たって事?
「湊君! 本当にごめん!!」
状況を把握しようとしていると、いきなり燐が頭を下げた。
「え、何で謝るんだよ?」
「いや、その……私、湊君がお風呂から上がったのに、こっちに呼ぶの忘れてて……ピアスの電源入れてみたら、知らない人が目の前にいたから焦っちゃって、急に飛ばしちゃって……」
「知らない人? ああ、桜井先輩のことか」
「知ってるの?」
「学校の先輩で……姉ちゃんの彼氏」
「そうだったんだ……」
「でも、何で先輩はこっちの世界に来てないんだ?」
「特定の人物だけをこっちに呼べるんだ。私ならそれくらいできるから」
「凄いなそれ」
確か、下級とか言ってた気がするけど……指定できるってかなり上なんじゃないのか? 俺にはよく解らないけど。
「さて、そろそろ寝ようかな……疲れちゃった」
欠伸をしながら、ベッドへと向かっていった。
……って、ちょっと待て。
「燐、俺は今日どこで寝たらいいんだ?」
「え? ……湊君はソファでいいでしょ?」
「何でそうなるんだよ」
振り返りながら首を傾げているが、こいつ、マジか。
「じゃあ、どうするの?」
「ガーネットさんに頼んで、ベッドをシングルにしてもらおう」
「でも、こんな時間だよ? 流石にもう寝てるんじゃないかな……」
確かに、時間はもう深夜1時を回っていた。
「だな……よし、じゃんけんしよう。勝った方がベッドで」
「いいよ。あ、私、パー出すから」
「ふーん、解った」
一か八かの大勝負。燐ならきっとああするかな……。
「「じゃん、けん、ほい」」
俺、チョキ。
燐、グー。
……負けた。
「やったぁ。はい、湊君はソファね。それじゃ―――」
「ちょっと待て」
意気揚々とベッドに向かう燐を、肩を掴んで止めた。
「なっ……何、どうしたの?」
「燐、お前、ズルしただろ」
「え? な、何を証拠にそんなこと……」
目を泳がせている。間違いない。
……さてはこいつ、ピアスで俺が何を出すか、読んだな?
「……」
ただ考えただけなのに、燐の表情が暗くなった。
「燐がそんなズルい奴だとは思わなかった」
「ご、ごめんなさい……いくらダブルでも一緒に寝るのは抵抗があって……」
「気持ちは解るけど、いくらなんでもなぁ…」
つか、ズルをしてまで嫌となると流石に傷つく。
「……まぁ、そこまでするなら、大人しくソファで寝させてもらうよ」
嫌な事を強要するほど、俺は鬼じゃない。
「あ、ありがとう、湊君。本当にごめんなさい」
「いいっていいって。じゃ、おやすみ」
適当に毛布を拝借して、眠りについた。
桜井先輩来ると思いました?……来ないですよ、さすがに。