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 湊君のご両親は、やっぱり湊君のことを心配していた。

 誰もいなかった家に、あの置き手紙……家族総出で湊君を捜しに行ったのかもしれない。

 私には、家族がいない。だけど、湊君には大切な家族がいる。だから、心配をかけてはいけないと、つい感情的になってしまった。

 私、最低だ……。


 ピアスの電源を切ってから、私は人知れず、机に顔を埋めて泣いていた。後悔と懺悔の気持ちでいっぱいだった。

「燐様」

 そんな時に、私を呼ぶ声が聞こえた。

 顔を上げると、すぐ目の前、机の上に、声の主―――メリルさんがいた。

「メリルさん……」

 咄嗟に起き上がり、涙を拭いた。

「また、抜け出してきたんですか? ガーネットさんに怒られますよ?」

「いいのです。ガーネッには少し動けなくなってもらうことにしました」

「どういう事ですか?」

「机でお酒を飲みながら本を読んでいたので、こっそり睡眠薬を混ぜたんです。あっと言う間に眠ってしまいましたわ」

「そんな、突拍子もない……」

「それはそうと、湊様がいらっしゃいませんが、どうなさったのですか?」

「え、あ、湊君は、その……お風呂、です」

 ピアスの事は、決して口にしてはいけないと思っている。メリルさんを信頼していないわけではないけれど、欲しがられたりするかもしれないし。


「燐様、何か思い詰めていますね?」


 不意にそんな事を言われた。

「えっ……そう思います?」

「はい。先ほどよりも表情が疲れているように見えますし、何より―――目元に、涙の痕があります」

「!」

 慌てて袖で目を擦った。

「……私、駄目ですね。昔から感情が表に出ちゃう性格みたいで……」

「仮面を被って本性を隠されているよりは、マシだと思いますよ? それに、私は素直な燐様の方が好きですね」

「ありがとうございます……そう言ってくれるの、メリルさんだけです」

「そんな……ただ思ったことを言っただけです」

「メリルさん、優しいんですね……」

「過大評価なさらないでください。燐様には負けますよ」

「………」

 そこまで言われたのは初めてで、嬉しくてまた涙が出てしまった。

「あ、えっと……」

 メリルさん、戸惑っちゃってる。

「すいません、今までそういうの、言われたことがなくて……」

「ずっと、孤独だったのですか?」

 メリルさんの質問に、私は涙を拭きながら頷いた。

「両親も、友達もいなくて、初めてできた友達が、湊君だったんです……会ったのは小学校に入るよりもずっと前で、今回久々に再会して湊君本人はとっくに忘れてて、私はしっかり覚えてるんですよね……」


「……好きなんですね、湊様の事が」


 また、頷く。

「初めて会った時から、少しずつ気になってました……けど、こんな事に巻き込んじゃって、私っ……」

 また涙が溢れた。今度は、後悔から来る涙。

「湊君のご両親も心配してて、なのに本人はそれでもこっちを優先するって、嬉しいけど、申し訳なくて……」

「燐様っ」

 慌てながら、机に置いていた私の手に触れた。

 メリルさんの手からは熱は感じられず、触れているという感覚がかろうじてする程度だった。

 それくらい、今のメリルさんは小さく、私なんかよりも沢山苦労をしてきたことが解った。

「あなたはきっと、正しい行いをしたのだと思います」

「……何でそう思うんですか?」

「私とガーネットがこの国に来て、かなりの月日が経過していますが、女帝の所へ乗り込もうとする方は、誰もいませんでした。全くいなかったわけではありませんが……久々にそういう方が現れたのです。それが、湊様でした。もしかしたら今度こそ、この国をどうにか出来るのではないか……そう思えてならないのです。ですから、燐様の行ったことは正しいと思いますよ?」

「メリルさん……」

「詳しい事は解りませんが、燐様が、湊様をこの国に招いた……で、あってますよね?」

「え? ……あ」

 うっかり「巻き込む」なんて単語を使ってしまって、メリルさんにほんの少し勘付かれてしまった。ピアスのことはバレていないようだから、大丈夫だろうか。

「それ以上の事は訊きません。全ては、この国が終わった時、私たちが人に戻った時に、お話しましょう」

「そ、そうですね……色々ありがとうございました」

 話せて、少しスッキリした気がする。

「それはそうと、燐様」

「何でしょう?」

「あの……私を部屋へ連れて行ってもらえないでしょうか…歩いて帰る事も出来るのですが、時間がかかってしまうので……」

「ああ、解りました」

 涙を拭い、メリルさんを掌に乗せてガーネットさんの部屋へと向かった。

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