案内先
中はあまり綺麗とは言えない感じだった。
ところどころ埃っぽくて、薄暗くて、外からの明かりだけじゃ物足りないのか、豆電球がついてはいるが、それも部屋全体を照らすのにはあまりにも弱すぎる。
建物に入ってまず目に入るのは、大きなカウンター。
そこには札のようなものがおいてあり、小さく「FRONT」と書いてあった。
もしかしてここって……。
『ホテル、だね』
だよな……なんであの人、俺たちをここに連れてきたんだろ?
『さぁ……多分、ここがあの人の住居なんじゃない?』
泊まってるのか?
『それは解らないよ。だってあのフロント、誰もいないよ? それに薄暗いし……そもそも営業してるのかも怪しいし』
じゃあもしかして、住み込みで働いてる…とかかな。
「おい」
燐と話していると、またしてもガーネットさんに呼ばれた。
「あっ、はい」
「こっちだ」
そう言うと、フロントの奥にある、"workeronly"と書かれた扉に向かっていった。
……やっぱ、ここの従業員っぽそうだ。
「……え?」
中に入って、驚愕した。
まず、東側の壁。
デカい本棚が置いてあった。いや、壁全体が本棚みたいな、そんな感じ。
背表紙に書いてある文字は読めないが……辞書並みに分厚い本ばかりおいてある。
そして、その反対。西側の壁。
刀剣。
アニメやゲームとかでよく見るような、鞘に納められていない剣が大量に飾ってあった。
えーっと、ロングソード、グラディウス、サバラにコラにシャムシール……あ、クレイモアまで置いてある。その下は…え、あれって、もしかしてエグゼキューソナーズ・ソード!? 全部本物だ……!本物なんて初めて見た!!
さらにその下には、モルゲンステルンやメイスも飾ってあった。
もしかして、ガーネットさんって、俺と同じ武器オタクだったりすんのかな……話合うかな?
「気になるのか? それ」
じっと見ていると、ガーネットさんに声をかけられた。
「あ、はい。……凄い数の刀剣ですね」
「ああ、こういう風に飾ってると色んな奴から刀剣マニアとか呼ばれたりするが……別にそういう意味じゃないんだ」
「え?」
「俺は単純に戦力になりそうな武器を集めてるだけだ。……これを使っていつか女帝を殺す」
「……」
……多分、この人とは話合わないだろうな…。
「―――それで、なんで広場で喧嘩なんかしてたんですか?」
燐が再度質問した。
「前ふりが長くなるが、それでも聞くか?」
「はい」
「実はな、俺、新婚旅行でこの国に来たんだ」
「新婚旅行ってことは……奥さんが?」
「ああ。……知らないうちにこの国に来てな、そこでこんな姿にされちまったんだ。もちろん、女帝の仕業だっていうのはすぐに解った。だから俺たちもすぐ女帝のところに向かって、術を解いてくれって頼み込んだんだ」
「それで、どうなったんですか?」
「……了承できないと言われて、妻を人外にしやがった」
「それって……」
半分くらい、燐と同じだ。
「何とか、命からがら逃げては来たが、それ以来ずっとこんな生活を続けてる。さっきのは、人外にされた妻の事を馬鹿にされて、それでカッとなってつい、な……この国では、人外への風当たりがキツいんだ」
北側の壁に隣接しておいてある机の椅子に腰かけながら、ガーネットさんは話してくれた。
……と、ここで、疑問が湧いた。
「あの、ガーネットさん。……さっき、同じ境遇がどうとか、言ってませんでしたっけ?」
そうだ。ガーネットさんは先ほど、「あんたも"俺と同じ境遇"らしいからな」と言っていた。
「いや、あんたたちも俺たちと同じだと思ってな」
「え?」
「"え?"って……あんた、よく見たら人外の女と人間の男って組み合わせだろ? だから、てっきり俺たちと同じ夫婦なんだと思ってたんだが……」
「「はいぃ!?」」
燐とほぼ同時に声を上げた。
「なっ、何言ってるんですか! 俺たち、今日会ったばっかりで、夫婦なんてそんなっ…!」
「そ、そうですよ! 私たち別にそんな関係じゃありません!」
「……そうだったのか? いや、さっきから会話しないでずっと目を合わせてばかりだったから、ついそうなのかと…」
「え?」
目を合わせる? ……あ、そうか。
ピアスを通じてとはいえ、会話しているのには変わりないから、思わず目を合わせてしまうんだ。ガーネットさん、それを勘違いしたのか。
確かに、対になっているピアスをしているのも、ある意味そういう仲だと言っているようなもんだし……。
「そうか、誤解して悪かったな……今日会ったばかりってことは、もしかしてこの国の出身じゃない、とか?」
「あー、まぁ、そんな感じですね」
俺と燐も、一応、これまでの経緯をザックリとだが説明しておいた。……なぜか、ピアスの事は伏せて話してほしいと燐から念じられたので、そのことは伏せて話した。
「―――なるほどな……女帝を倒すために、湊は燐に召喚されたわけか」
「はい」
ガーネットさんのいた国では、初対面だとか馴染みだとか関係なしに、互いの事は名前で呼び合うのだそうだ。
「ってことは、もしかして、宿無しか?」
「あ」
そういえば、宿の事一切考えてなかった……。
「……宿無いんだったら、ここに泊まるか?ここ、見ての通りホテルなんだけど」
「え、いいんですか?」
「ああ。閑古鳥が鳴いてて、客は他にいないけどな……だから、部屋は有り余ってるし、2人分の飯なら用意できるから」
「でも、俺達、一文無しなんですけど……」
「いや、金はとらないから……あんたも女帝を倒すために来たんだったら俺の仲間だ。特別にタダにする。あと、そこにある刀剣、どれか1つ持って行っていいぞ」
「本当っすか!?」
「……さっきから思ってたんだが、もしかしてあんた、刀剣とか好きなのか?」
「あ、まぁ、そういう感じで……」
「じゃあ、鞘と一緒に好きなの持って行きな」
「ありがとうございますっ!!」
とりあえず、一番目に止まったエグゼキューソナーズ・ソードを……ではなく、使いやすそうなグラディウスを貰って、ガーネットさんに部屋へ案内してもらった。
グラディウスなるゲームが存在すると知ったのですがマジですか