フェイズ1 仮面の英雄。
世界には、ごく稀に普通ではない人間が生まれる。
彼らはある日突然、世界の法則から少しだけ外れる。
時間。
空間。
偶然。
運命。
本来なら誰にも触れられないものに、手を伸ばしてしまう者たち。
その力は神からの祝福であろう。
ある者は羨望を受け、
ある物は人を救い、
ある者は英雄へと至る。
その力は祝福ではない。
ある者は恐れられ、
ある者は利用され、
ある者は世界を壊す。
そしていつの時代にも、歴史を大きく変える存在が現れる。
「フェイズ犯が出た!誰か位相局に連絡してくれ!」
人は彼らをこう呼ぶ。
世界の位相を揺らす者たち。
位相保持者と。
「おいっ!仮面のアンタ、そっちは危険だから早く逃げろ!フェイズ犯が出たんだ!」
「大丈夫です。貴方は危ないかもしれないので避難してください」
動揺している店主を仮面は柔らかな声音で落ち着かせる。
「さってっと、フェイズ犯っていうのは、お前で合ってるな?」
「あ?何だお前?妙な仮面付けやがって」
仮面は無視して、一歩、二歩と男に近づく。
「おいおい、こっちに来ない方がいいぜ。俺は位相能力持ちだぞ?」
「はいはい、凄い凄い。御託はいいからさっさとやろう。タラタラしてると位相局が来るよ」
仮面は軽口で相手を挑発する。
「チッ、一般人にゃできるだけ手を出したくねぇが、仕方ねぇ……どうなっても知らねぇぞ!」
男は自分の胸元に手を当てる。
突如ドクンドクンという鼓動のような音が辺りに木霊する。
すると、相手の筋肉から蒸気を発させながら、血管が浮かび上がり心なしか体躯も大きくなったように見える。
強い踏み込みと同時に爆速の拳が仮面の眼前にまで迫る。
そのまま勝負を決したと思ったその瞬間。
相手の拳が仮面に届く前に、仮面は身体を捻り顔を鷲掴みにする。
そして即時に相手の動きが止まる。
まるで時を止められたかのように。
遠くから驚愕と賞賛、そして恐怖の声が聞こえる。
仮面はすぐさま駆け出して、反射的に追おうとする者、呆然と立ち尽くす者、緊張の糸が解けてその場にへたり込む者、全員を置き去りにする。
やがて、位相局が到着する。
「位相干渉管理局の黒羽です。通報があった場所はここですね?犯人は…」
「あれです…」
震えた声で1人の見物人が指を指す。
そこには完全に意識を失っている男がいた。
「なるほど……制圧した方などは分かりますか?」
「それが……外套を羽織ってる上に、顔を仮面で隠してて、よく分からないです…。しかも、倒した後に走って逃げちゃって…」
「倒した後に、逃げた…?」
「黒羽さん、血液検査の結果が出ました。あそこで倒れている一逸者は位相保持者で間違いないです。一逸者に目立った怪我は無く、周囲への被害も少なかったようです。鞄からは、店から盗まれた金と宝石類の盗品が出てきました」
異能局の黒羽朔雪は訝しんでいた。
犯罪をしたどころか、善行をしたのにもかかわらず、位相局から逃れようとする理由が分からない。
それに仮面で顔を隠してた……?
「何かしら局に隠したいことでも……」
「黒羽さん?どうしました?」
「あぁ、いやなんでもないよ。それより、聞き込みが終わったら一逸者を連れていくよ」
「了解しました。」
朔雪は事件が一段落片付き、家で寛ぎながらある動画を見ていた。
「何これ…」
朔雪は瞠目した。
見ていた動画のタイトルは【仮面の英雄。】
今日の現場で一逸者が倒されているシーンだったからだ。
何となく今日容疑者を制圧したのが位相保持者であることは目処が立っていた。
しかし、仮面は拳を避け、相手の頭を鷲掴みにした途端、相手は完全に動きを止め、そのまま気絶させていた。
「肉体強化…?いや生体電気を停める……電気系…?」
仮面の位相能力について考えるが結論が出ることはない。
そしてもう一つ気になることがあった。
「あ〜、もう!肝心の仮面が見えない!仮面さえ見えれば製造者特定できそうなのに〜。おい、仮面!こっち向け!」
仮面が応えてくれるわけもなく。
次の日の朝、会議では昨日の事件についての議題が挙がった。
「昨日、黒羽さんが向かわれた現場の一逸者は、岩島優吾27歳、位相階位は第Ⅰ位相。位相能力が心拍過負荷。心拍数に応じ肉体能力が指数関数的に向上する位相能力です。犯人を倒した例の仮面の正体は、ほとんど特定不能でした。事情聴取では男っぽい声だったと…」
「待ちたまえ。特定不能と判断するのが時期尚早すぎる。カメラやドローンがあるはずじゃろ。まずはそっちを見せい」
既に定年を迎えててもおかしくない頭の寂しげな爺さんが真っ当な意見をぶつける。
「問題はそこです。ブレーカーが落ちたようで、監視カメラも異端者追跡ドローンも、一時的に停められていました。こちらがそれをマッピングした地図です。正直範囲が広すぎて特定不能だと判断しました。黒羽さんの眼にどう写ったか伺いたいです」
「うーん…正直な話、直接見たわけじゃないのでなんとも言えませんが、ブレーカーが落とされている、犯人に目立った外傷がない。そこから考えられるのは、仮面が電気系の第Ⅱ位相以上かもっと別のとんでもない能力か。」
「なるほど…山内くん。」
「とっくに調べてます。ですが、少なくともこの街の住民で第Ⅱ位相以上の電気系は学生を除いて、全て位相局に属しています。そこから考えられるのは四つ。一つ目は、仮面が別の街から来た。これが一番自然ですね。二つ目は、仕事中でなかった位相局の局員か学生か。これはあとで聞いて回りますが、時間がかかりますし、わざわざ逃げたってことはどちらにせよ不明な可能性が高いです。三つ目が、登録されている位相能力と実際の位相能力が別のパターン。これに関して言えば電気系だと仮定すれば難しいと考えられます。最後は新たな位相保持者及び位相変化」
「であれば、取り敢えず現在の情報としては、おそらく男で仮面を付け外套を纏っている、位相能力はおそらく電気系及び電気に干渉可能な能力という情報ですね」
朔雪が情報を分かりやすくまとめる。
「危険性が未知数なので、念の為IPCAに連絡しておきましょう。捜索隊を組む可能性がありますが優先して入れるメンバーは?」
山内が全体を見渡してそう言うと
「もしそうなったら、私を入れてください!今回の案件、個人的にも少し気になる点が多くて…」
即座に朔雪が前のめりに反応して
「わっ、分かりました…ですが黒羽さんは予定も結構キツそうですし、IPCAがそのまま特定しちゃうかもしれないので悪しからず。」
山内は若干後ずさりしながら答え、書記が書ききったのを見て
「では、後々報告をお願いします。解散」
一同が散っていって、山内が書類の整理をしているところに朔雪が声を掛ける。
「にしても、山内さんも大変ですね〜。全部進行させられて、おじいちゃんの相手もしなきゃなんて」
「はぁ、給料は凄い良いんですけどね。こんな二十代で、出世なんてするもんじゃないですね。しょうがないことですよ。僕の位相能力がこんななので……それより黒羽さん。そろそろ出た方がいいんじゃないですか」
「あらら、もうこんな時間。捜索隊の件は頼みました!それじゃ、山内さんも過労死しない程度に頑張ってねぇ〜」
「とっくに人間の許容量は超えてますよ……」
一人部屋に残された山内はそうぽつりと呟いた。
朔雪は会議室を出た後、とある場所に向かっていた。
暫く道を歩いていると、見知った後ろ姿を見つけ、ぶつくさと何か言っている声が聞こえる。
「おはよ〜、蒼」
朔雪はとある人物に声を掛ける。
位相干渉管理局、略して位相局。国際フェイズ管理機構(International Phase Control Authority)、略してIPCAから国ごとに配置された日本政府公認の組織。勘違いされがちだが、位相者でなくとも優秀な人間であれば位相局に入れる。
この世界で、位相保持者は世界単位で見ても数千万人しかおらず約1%と言われている。その中でも日本は特に位相保持者が多いと言われている。
異端者追跡ドローンは監視カメラで個人が特定できない者を発見した時に、設置されている近くのボックスに通信を送り自動で追跡してくれる。
位相保持者の位相階位
★☆☆☆☆第Ⅰ位相
身体干渉型
自分の肉体だけに影響。
例:肉体強化、感覚強化、反射神経上昇
特徴
・一番数が多い
・軍人や位相局に多い
★★☆☆☆第Ⅱ位相
物理干渉型
外界の物質に影響。
例:熱操作、氷生成、電気操作
特徴
・戦闘能力が高い
・商売に役立てる人が多い
★★★☆☆第Ⅲ位相
空間干渉型
空間構造に触れる。
例:空間歪曲、瞬間移動、重力操作
特徴
・国家レベルで管理
・希少
★★★★☆ 第Ⅳ位相
時間干渉型
時間の流れへ影響。
例:時間加速、未来予測、局所停止
特徴
・極めて危険
・管理対象最上位




