第1章 落下スル少年と殺意アル刃物9
綾女だけなら、すぐに友達でも仲間でもなりたいが――正直に言って英利が嫌だ。
そう思っていると、その英利がいきなり「ハーッハッハッ」と笑った。
「いやぁ。俺としては前置きが必要だと思うな。彼は脳の回転が非常に悪いようだし、物事を分かりやすく噛み砕いた方がいいんじゃないか?」
「……」
「悪いとは思いませんが、確かに……説明が必要ですわね。流れとしては、あなたを殺すか生かすかという方向で議論されていました」
「……殺すって」
「俺は穏便に話を進めようと思って、実験をしてみては、と提案したんだ。まあ、俺の声など長老方には届かないだろうけど」
「とにかく、なんとか生かすという方向になりましたのよ」
「それってオレをですか?」
「はい。話し合いの結果、その為に英利とわたくしが友達になるということになりましたの」
「だから、何の話し合いで……」
「鬼の斧についてです。成吾さんの身体に落ちた鬼の斧が、貴方の中に吸収されてしまいましたの」
「はぁ?」
後半も夢じゃない。現実。
成吾は慄然とした。
(わかったぞ、これはアレだ……)
前半だけでも充分なくらい変だったのだ。
高級車を乗り回し、変な小壺を宝物扱いし、族長だの、祭事だの、日本中を領土にするだのと言う。
そこに、鬼に、怪しい武器に、お友達攻撃炸裂ときたら、想像するのは一つしかない。
「神様は間に合ってます。オレ、これでもとっても幸せです。では!」
さっと綾女の手からカードキーを奪い、ドアへ向かう。
「だーっ!」
再び、成吾は英利に足を引っかけられた。
「ほら逃げる。踏んでおいた方がいい」
英利が思いっきり倒れた成吾の背に足を置く。
「背中は癒えたばかりですのよ」
「やるなら急所。これ、竹村家の教えだから」
「踏むなッ」
床を叩いて騒いでいると、のどかなチャイムの音が聞こえてきた。
「あ、予鈴が鳴りましたわ」
「一時間目は数学だったな。じゃあ、俺達は友達ということでよろしく」
何事もなかったかのように英利がドアを開ける。
成吾は身を起こして、その場に座り込んだ。
綾女も成吾の横にちょこんと座り、また背についたらしい足跡を払いはじめた。
「あの……英利は………………根は真面目で良い子ですの」
「フォローになってないってば」
チャイムの音が切れる。
もう教室に行かなければならないし、変な神様関係となんて付き合っていたくない。
「ごめん。オレ、授業あるから行くね」
立ち上がろうとした成吾の袖を綾女が軽く掴んだ。
「わたくし達は、サボリませんこと?」
成吾は耳を疑った。お上品でお嬢様な彼女が言うとは思えない言葉だった。
「サボる?」
「はい。二人っきりで、もっと詳しくお話をしたいと思いますの。例えば成吾さんの身体に入ったものとか、わたくしの家についてとか……色んな事をお話ししたいんですの」
二人っきりになったら長そうな勧誘が始まりそうだった。
「い……やで……」
「へぇぇぇ?」
断ろうと思ったのに、ドアの前で英利が笑いかけてきた。
素敵に輝く笑顔だった。
「じゃあ、俺から話を聞いてみたい?」
「……紀田さんとサボリます」




