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【完結】史上最強プラス ~鬼神のロジック~  作者: 前田留依


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第4章 覚悟ノ女王と鬼ノ斧ノ少年1

「……泣かないでって」


 水噴き出す岩陰に隠れ、綾女(あやめ)が顔を覆ってすすり泣いている。

 「すみません、すみません」と言い続けていると言うことは――全裸を見られたのだ。


「……あの、こっちこそ……ごめんなさい」


 たくましければよかったが、成吾の身体は女の子と見間違えるくらい貧相だった……。


(絶対、細いって思われた……いや、その前に……あそことか……見られたの、つらい)

 

 成吾は真っ赤になりながら、いそいで服に手を伸ばす。

 坂の下に落ちていた衣服をカノエが運んできてくれていた。

 上着とシャツはズタボロだったので諦め、成吾は制服のズボンを着用する。

 服を着ながら、崖の下の方を見た。

 そこは、不気味なくらい静かだった。

 青いバリアが、あの洞窟に蓋をしている。

 その中に錯乱気味(さくらんぎみ)屡衣(るい)と咲人がいるらしい。

 綾女の話では、咲人は屡衣に刺された可能性があるそうだ。


「おい、心の友。死んだかと思っていたぞ」


 護孔(ごこう)の水をシャワーのように浴びながら英利が言う。

 これだけで彼の身体は少し回復するそうだ。変質者にふさわしい変わった体質である。


「……そう簡単にはね」


 死なないよ、と言おうと思ったけれど、嘘をつくことになるので口を閉ざす。

 死ななかった、と思わせておいた方が良い。

 英利は笑うだろうが、綾女が傷ついてしまう。


 成吾は濡れた髪を両手で絞るように()き上げ、王魅(おうみ)の青いバリアを見つめた。


 彼は、屡衣に一度負け、死んでいる。


 王魅の粒は、成吾の心臓を数カ所から(つら)いて破壊(はかい)した。

 それでも生きているのは、砕けた心臓を鬼の斧の力がつくろっているからだ。

 今までは、鬼の斧は成吾の体内の血となって潜んでいた。

 これからは、鬼の斧は成吾の心臓と一つになって潜むことになる。


『お前の心臓には私の筒卵(つつらん)が埋め込んである』


 鬼の斧が成吾にだけ話しかけてくる。


(それじゃあ、いまのオレって筒獣(つつじゅう)と同じ?)


『初めから刃の一部を容器に変えて筒卵を中に入れている。直接筒卵に触れない限り、お前は筒獣にはならない』

(至れり尽くせりっすね~)

『……だが、戦いの中で破裂する可能性もある』

(……うまい話ってないもんだね)


 こうなりゃ、やけくそだった。

 鬼の斧を持ったことによって殺されて、鬼の斧を持っていることで生かされている。

 それが今の成吾だ。


「綾女さん、着替えたから泣かないで。あとできれば、懇切丁寧(こんせつていねい)(すみ)から隅まで忘れて」

「あ~今のはダメ押しになったな。お嬢は、隅から隅まで思い出しただろうよ」

「英利ッ!」


 顔を真っ赤っかにした綾女が仁王立ちして英利を睨みつける。

 英利はその様子を見て、火傷で(ただ)れた腕で腹を押さえ爆笑する。


「まずは、戦力復帰で嬉しいね。お嬢が鬼の斧を使ってると、とろくてとろくて」

「頑張ってたって思うけどな」

「頑張るだけじゃ無意味だ。オリンピックか、これは」


 一刀両断(いっとうりょうだん)である。綾女は握り拳をぷるぷると振るわせている。


「えぇ、えぇ、たしかに。わたしくは筒器(つつき)になれていませんわ。それは認めましょう。ですが、英利。あなたの勝手な行動による防御の低下よりはマシですのよ」


 言い換えされた英利は、綾女を馬鹿にするような目を向ける。


「この俺が、戦いにおいて関係の無いような勝手な行動を?」

「唄子を連れてきたことですわ。危険な目に遭わせて、あんな状態にして」


 綾女が顔を向けた先には、茂みに横たわる唄子がいた。

 唄子はうつろな目をしていて、なにかをぶつぶつ呟いている……。


「唄子がいるから屡衣(るい)は動揺している。何をしているのかも分からなくなっている。どんなに血統がよくても、力を得ても、地位を得ても、自分が勝てないことに目を向けるしかないからな。見たろ。唄子は、純血種の紀田よりも優れている。多分、潜在能力なら唄子の方が上だ」


 その言葉を受けて、綾女は視線を地へ落とした。

 唄子は、紀田の婚姻システムをひっくり返しちゃったんだ。

 鬼の斧の姿で意識を取り戻し、綾女に握られている間、成吾は彼女の想いを受け止めつづけていた。

 そして、ある程度の情報を手に入れていた。


 紀田は、筒卵(つつらん)を、(にご)った天水の結晶の存在を探知できる。

 血が濃ければ濃いほど、その力は強まる傾向にある。

 しかし強すぎればシンのように自滅(じめつ)する存在が産まれてしまう。

 だから、長老方が結婚を決めていたのだ。


 屡衣の自尊心(じそんしん)を支えてきたものごとを、屡衣が苦しんできたものごとを、真っ正面から否定する唄子の力。

 あの自信満々な女性にとって、唄子は許し難い存在だろう。


「……それよりお姉さまを傷つけたのは、咲人さまの想いですわ」


 涙のようにポタリ、声が落ちた。


「きっと、お姉さまは咲人さまと結婚したかったと思うから……。でも、咲人さまは違った。咲人さまは、唄子と親しくなったわたくしに、いつも唄子の話をせがんでいて……」


 婚姻システムが消えても、屡衣の想いは通じない。

 だから紀田そのものを破壊しようとしたのか。


(オレには、わかんないな)


 成吾は釈然(しゃくぜん)としなかった。

 他人を不幸にしてまで、自分の我が儘を貫こうとする屡衣を一生理解できないと感じた。

 自分勝手な想いのために人を振り回して何が楽しいのだろう?

 妹まで手に掛けようとし、愛している人まで……。


(あの人……咲人さん、生きているかな……)


 一度は助けた命が、尽きてしまったかもしれない。

 鬼の斧を握りしめ、成吾は青いバリアの方へ目を向ける。


「――唄子!」


 いつのまに動いたのか、唄子が薄い風船のような青いバリアの前にいた。

 成吾も背後の二人も瞬時に状況を理解して走り出す。

 距離として十五メートルたらず。

 近いのに、とても遠くに感じる。


(早く、こっちに連れてこないと!)

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