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【完結】史上最強プラス ~鬼神のロジック~  作者: 前田留依


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第3章 立チ上ガル少女と戦サノ女神3

(今の、わたくしは族長。長老方が上ではない。わたくしは彼等と対等ですわ)


 複雑(ふくざつ)にこんがらがっていた重圧が整理されていく。

 重みは変わらないけれど、心は落ち着いていった。


「成吾さん」


 綾女は吐息混じりに、甘く名前を呼ぶ。

 成吾がくすぐったそうに身を揺らした。


「時々でいいですから、わたくしにこうさせてくださいまし」


 息苦しくて、身動きがとれなくて、辛くて、辛くて、この人に助けて欲しい。

 一方的で、我が儘(わがまま)で、人として最低だとも思う。

 それでも、それでも、必要だから。

 成吾の首筋に()めていた鼻をずらし、綾女はそこに唇を押しつけた。


「いっ……紀田さん」

「綾女とお呼びください。名前で。金山市に紀田は沢山おりますもの」


 心が安らいでいくのを感じる。

 その反面、高揚(こうよう)していくのも分かる。

 長老方に一つ過ちがあるとすれば、婚姻を勝手に決めてしまうことだ。


『――屡衣は英利と子を成せ、綾女は咲人と子を成せ』


 彼等は恋愛事など無視して、婚姻(こんいん)の命令をする。

 理由は分かっている。


 狼の……シンのような子供が産まれるからだ。


 だが、その所為で紀田の中枢(ちゅうすう)が薄くなっているのは事実だ。

 誰だって、身を捧げる相手を自分の意志で決めたいのだ。

 反発して出る者は後を絶たず、筒獣(つつじゅう)を倒せる力を持つ者が少なくなっている。

 長老方が決める婚姻関係も、親戚同士が多くなってくる。


「成吾さん、お願いですから、綾女と……」


 もう一度、首筋に唇を付けたまま言う。


「綾女……さん」


 たどたどしく成吾が名前を呼んだ。

 彼の赤くなった首筋に額を押しつけて、綾女は口を開く。


「他の誰かを守りたくなるまでで良いですから……わたくしを甘えさせてくださいまし」


 最後の最後で心にブレーキをかける。

 甘えたい一方で、ずっと迷惑を掛けたくなかった。


『方位かく革に筒獣と屡衣が陣取っている』


 重みのある声が上から響いてきた。護孔の声だ。

 綾女と成吾は顔を上げて天上を見上げた。


「お姉さんも一緒なんだね」


 少年の肌から火照りが消えていく。


「方位、革です。ほぼ東ですわ」


 護孔(ごこう)天磐山(あまいわやま)の中心にある。

 天磐学園の高等部は西にあり、大学は東にあり、中等部は西南にあり、初等部は南にある。

 山火事が起きた現場は分散されており、学園全体を包み込むようになっていた。


 それでも筒獣(つつじゅう)と姉は、移動しているわけではなく東にいるらしい。

 東から何らかの方法で動き回っている筒獣に命令を出し、学園を焼き尽くそうとしているのだ。


(王魅のように分裂する筒獣。厄介ですわ)


 これまでの経験から綾女は答えを導き出す。


「あの筒獣の力は「炎」。大量に焼き殺された者の意識の固まりだと思われます」


 綾女は成吾から身を離すと、背筋を伸ばして葉の舟へ向かった。

 葉の舟に乗れば、護孔が筒獣の側まで案内してくれる。


筒卵(つつらん)(にご)りのほとんどは、虐げられた者達の怨念です。戦争が大規模になってから炎関係の筒獣は多いんですの」


 それを聞いて成吾が寂しそうな顔をする。

 怨念の持ち主達に同情してしまったのか、それとも戦争と言う言葉が嫌なのか……。


「武器が強大であればあるほど人はそれに魅せられる、って鬼の斧が言ってる」


 鬼の斧の主達の(むご)い過去に反応していたらしい。


(鬼の斧は、成吾さんに癒しを求めたのかもしれませんわね)


 綾女は成吾の手を取って葉の舟に乗りながら、そんなことを考える。


(わたくしと同じように――)


 葉の舟は敵の元へ向かって進み出す。


王魅(おうみ)が綾女さんのお姉さんを魅了したなら、頑張って封じなきゃね」


 白い煙が成吾を包み、彼の右腕に鬼の斧が出現した。


(成吾さんの意志の通りに、鬼の斧が動く……)


 身に筒器(つつき)をやどしているということは、成吾の体内には筒卵(つつらん)があるということだ。


(でも、成吾さんは、筒器でも、筒獣でもありませんわ)


 通常、筒卵を宿した生物――命を持った有機物は、力を維持(いじ)するために紀田を食らおうとする。

 が、斧という無機質に筒卵が入っている状態で所持している成吾には必要ない。

 体内に筒卵があっても理性があり、筒器を従えさせられる存在になっている。

 まさに、異質だ。


(あの日、わたくし達と遭遇(そうぐう)さえしなかったら。成吾さんは、普通の人間でいられたのに。戦わなくても良かったのに……)


 側にいて欲しいという想いと、罪悪感の狭間(はざま)の中で綾女は押しつぶされそうになる。

 そっと成吾の左手が彼女の手を掴んできた。

 綾女は拳を握っていた自分に気がつく。


「オレでいいなら、えっと……甘えて? オレ、力貸すから。紀田さんにとって良い方向に行くように、なんとか手助けするから」


 心が、ふっと軽くなる。


「紀田さんではなく、綾女ですわ。成吾さん」


 振り返って、綾女は気丈(きじょう)に微笑んだ。

 今、側に彼がいてくれるなら――もう迷わない。

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