第2章 眠レル森ノ少女と壊レタ家族6
身なりを通常に戻した成吾を家に送り届けてから、唄子は綾女に連れられて、先ほどの平屋へ戻った。
綾女の話では、平屋は楕円形の形をしていて、地下十階まであるそうだ。
(――校舎と同じくらいの大きさがありそう)
その地下十階と、唄子が知っている綾女の家は繋がっているらしい。
「上じゃなくて下に伸びているんだねぇ」
表向きの綾女の家は、学校より下に位置している。
ということは、この護孔の内部は学校と同じ位置ぐらいか、それより上あたりだろう。
族長になった綾女の部屋は、楕円のど真ん中にあった。
元々はお姉さんが使っていた部屋だそうで、派手な調度品は綾女よりも姉の方を連想させた。
ミニカウンターキッチンと、空を眺められる大きな風呂まである。
高級ホテルのスイートルーム並だった。
お風呂に入って用意された浴衣に着替え、朱色の本革ソファーに寝そべっていると、綾女がアイスティーを持って来てくれた。
「癒し場で、咲人さまとお話しされたそうですね」
綾女は唄子の頭の横に腰を下ろすと、密やかに話しかけてくる。
「あの人、頭いかれてる」
すっぱりと言い切ると、綾女が困ったように笑った。
「核兵器よりなんたらかんたらとか、それを利用すればうんたらかんたらとか。思考回路が1人で世界戦争してた」
いやーな感じっと付け加えて言ってから、アイスティーのストローを口にくわえる。
「咲人さまは、お姉さまに心酔しているだけですわ。お姉さまの意志が咲人様の意志なのです。元々は、もっと穏やかな考えの持ち主ですの。わたくしのお兄さまのような方ですのよ」
お兄さま、と言う言葉に力がこもっている。
では、綾女は家族のような人に裏切られたのだ。
「でも、間違った考えに流されてちゃねぇ。綾女、そういう人たちは諦めた方がいいよ」
「でも……咲人さまも、お姉さまも、王魅に毒されてしまっているだけですの。お姉さまの手から王魅を取り上げることができれば、元の生活に戻れるはずです」
沈痛な面もちで綾女が言った。
(それは叶わないでしょ)
そう考えて、自分ってば残酷さん、と唄子は思う。
壊れたものは、元通りにはならないのだ。
細心の注意を払って、心をすり削らせて、繕うことは出来たとしても。
「そっか。仲良かったんだね。みんな。小さい頃から一緒なんでしょ?」
友人の夢を否定した罪悪感を隠すように唄子は話を変える。
「はい。お姉さまと咲人さまと英利とわたくしは、この護孔で育ちましたの。同じ年頃の子供はわたくし達だけだったので、団結力が産まれて……」
過去を懐かしみながら綾女が微笑む。
「よく大人達の目を盗んで悪さをいたしましたのよ」
「綾女が?」
唄子は驚いて友人を見た。
(その他三人ならやりかねない気がするけれど……優等生を絵に描いたような綾女がねぇ)
「天磐山に基地をつくって、全員で家出したり。癒し場にビーチパラソルを持ち出してプールにしたり。木に縄を張って、大きなボールを持ち出してきて、狼サーカス団を結成したり。そんなところですわね」
(ごめんアヤ、最後のだけは想像できない)
友人が常人とは違うのだと改めて認識する唄子だった。
「あと、結婚式ごっこがありましたわね。これはとても大変でしたのよ。咲人さまは紀田一族のしきたり通りにやらなくてはならないと主張するし、英利は昔からひねくれていて咲人さまの意見に反対するし、お姉さまは英利を応援して火に油を注ぐしで」
「結婚式ごっこは悪くないでしょ」
唄子は楽しい思い出話へと脱線していく友人を止めた。
気持ちは分かるけれど、楽しい過去の話は後に辛さを増させるだけだ。
「ねえねえアヤアヤ。そういえばさぁ。お姉さんが持ってる王魅って武器、鬼の斧の仲間なんでしょ? なんだっけ、ツツツ?」
「筒器です。王魅は先端が尖った青金石……ラピスラズリの玉なのです。筒器の中には、巨大な力を紀田の手に委ねて、眠っているものがあります。鬼の斧も、王魅も、元は眠れる筒器でした」
ということは、目覚めると人と合体したりするのだろうか。
成吾の腕のように……。
いまいち出てくる単語の意味が分からない唄子は、青い石のヘルメットを被った綾女の姉の姿を想像してしまう。




