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【完結】史上最強プラス ~鬼神のロジック~  作者: 前田留依


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第1章 落下スル少年と殺意アル刃物21

「ようこそ、池平成吾くん」


 炎球が来た方から几帳面(きちょうめん)そうな声がした。

 成吾は股を開いて急停止する。

 左手で斧になった右腕を掴み、正面にいる者を睨んだ。

 そこにいたのは、カーチェイスの時にいた線の細いスーツ姿の青年だ。


「力を手に入れて、お前を倒しに来ました。この心界(しんかい)は、僕だけの空間です。僕が有利なんですよ」


 咲人(さくと)――綾女達は彼をそう呼んでいたはずだ。


筒卵(つつらん)を手に入れたから、もうやられたりはしない。……紀田の血もない奇形から鬼の斧を取り戻さなければなりません。屡衣(るい)様のために」


 スーツの右腕から炎が噴きだしている。

 その炎がとぐろを巻いて空間を形成していた。


「屡衣はどこだ!」

「奇形の分際で、屡衣様を呼び捨てるとは!」

『敵だ』


 鬼の斧が判断を伝える。

 成吾は口を閉ざし、右腕の斧を構えた。

 無駄口はいらない。

 声を出せば出すほど、犯人は興奮して人を手にかけるはずだから……。


『殺せ』


 成吾は言われるままに標的に向かって走った。


『狙うのは急所だ』


 成吾は右腕を左手で支える。


『お前が切り落とした右腕だ。もう一度、あいつに血の海を見せてやれ』


 たった一言が、成吾と鬼の斧の間にズレを生じさせる。


「なに? 腕を? 血の海?」

『お前が切り落とした右腕の付け根だ。あそこに筒卵(つつらん)がある。そこを狙え』

「オレが、人を。……あれ、今、オレは、人を」


 成吾の足が止まっていた。


「屡衣さまは、僕が守りぬきます。この身を筒獣に変えてでも、守り抜く」


 直ぐ側まで近づいていた青年が、決意した顔で言う。

 咲人が炎を吐く袖を無造作にもぎ取った。

 彼の身体から離れると袖はいきなり燃え上がり、白い灰になる。

 腕の付け根が見えた。

 この男は成吾と同じく腕から炎と一体化している。

 彼の腕は、付け根で切断されている。

 切断面は炎ではなく血で真っ赤だ。


「オレが切り落とした、腕……」


 フラッシュバック。完全に消えていた記憶が、いともたやすく蘇る。

 あの日、あの時、確かに成吾は彼を斬った。

 屡衣を殺そうととして彼を斬った。

 獣のように襲いかかって、刃物を振り下ろした。

 血のシャワーが成吾に降りかかった……そうしっかり覚えている。


「オレ……オレは……」


 刃物で人を殺そうとした。


「貴様などに、屡衣さまの指の一本でも触れさせません!」


 咲人が吐き捨てて、炎の龍を振り回す。

 しかも、二つに割れた心界の至る所から燃えさかる(むち)が襲いかかってきた。


『飛べッ』


「オレは……」

『成吾!』


 炎の直撃。

 じゅっと肉の焼ける音がして、筋肉が萎縮(いしゅく)する。

 激痛に束縛(そくばく)され、成吾は膝をついて震える。

 続けざまに頭上から炎球が落下する。

 鬼の斧が薄く大きく広がって成吾の身を守った。


『ヤツを殺せ、死ぬぞ』

「オレは犯人と同じじゃないっ」


 叫び、人の形を保っている左手で自分の顔を覆った。

 なんてことだろう。刃物が嫌いなのに、刃物が腕についている。

 この刃物で自分は人を殺したいのだ。

 自分に邪魔な人間を殺したいのだ。

 犯人と共通していれば、誰でもいいのだ。

 犯人の代わりになる相手なら、誰でもいいのだ。


 こんなにも大きな憎しみが、自分の中にあると気付かなかった。

 そんな感情がないと目を背けていたのだろうか。

 自分の基礎(きそ)が崩れていくのを感じた。


 成吾は頭を拳で叩く。


「犯人が怖い。こんな風にしたヤツを殺してやりたいって思っていたかもしれない。でも、やっぱり立ち直れないオレ達も悪いと思うし、でも憎んだって何もならないし、でも胸くそ悪いし。その前に、アイツは犯人じゃないし」


 混乱する頭をなんとか整頓(せいとん)しようとしていく内に、身体は自然と「意識を失う」方向へ向かおうとする。


『逃げるな』


 鬼の斧が成吾の意識を引っ張り戻す。


『殺さないと、全滅するぞ』

「でも、オレは……犯人じゃないんだっ」


 答えて、成吾は「その点だ」と思う。

 憎いからと刃物を振り回したら、自分は犯人と同類になってしまう。

 それは強さではない。

 弱いから刃物を振り回す。


『大切なものがあるなら戦え。目の前の敵は殺せ。無駄死にするな。命は、守りたい相手に捧げるものだ』


 それは咲人も言った言葉だ。

 彼は屡衣が大切だから、ここにいる。

 犠牲になって屡衣を守ろうとしている。

 成吾を守ろうとして刺された母と同じだ。

 そうならば自分は彼を殺せない。


『敵は殺せ』

「人は、殺しちゃ駄目だッ!」


 成吾は斧になった右手を殴った。


『敵ならば殺すべきだ』

「殺しても、終わらない。苦しいだけだ」

『殺すんだ。簡単だろう』

「彼を殺せば、オレは辛くて生きていられない。オレは犯人じゃないから人を刺して正気でいられない。だって彼にも家族がいる。彼にも大切な人がいるんだ。お互いが、守りたいから戦うなんて、変だよ。訳わかんないよ。最初から戦わなきゃいいじゃん」


 一気に話すと、彼を守っている鬼の斧は吐き捨てる。


『成吾、お前はガキだ』

「ガキでいいっ。お前、言ったよな。オレのこと仲間だっていったよな。だったらさ、オレの意見を少しは受け容れろよ!」

『……なんという……』


 鬼の斧は押し黙った。


「誰も殺さずに、全員を守れよ。そういう道を探せよ。それが出来ないなら、お前はただの鬼だ! 人の感情も理解できない鬼だ!」

『……未熟な……』

「誰だって死にたくないし、傷つきたくないんだよッ」


 叫んで斧になっている右手を殴る。


『ヤツは筒獣だ。人ではない。腕に筒卵を埋めた化け物だ。人でないなら殺しても罪悪感を感じることなどない』

「アホだろ、あんた! オレが腕斬ったんだ。だから筒卵なんか入ってるんだろ。オレのせいじゃんっ。罪悪感感じまくりだ、このヘタレ鬼っ」


 完全な八つ当たりだった。

 鬼の斧はあきれかえったのか、何も言わない。

 それでも守ってくれる意思はあるらしく、成吾を包んで斧の壁は攻撃に激震しながらも消え失せることはなかった。


『このまま殺されるより、殺せ! このままでは犬死にだ!』

「だから考えてるんだよっ。オレは、オレも含めて誰も死なせたくないから考えているんだ!」


 成吾は歯を食いしばりながら頭を働かそうとする。

 頭の中は、悲しさと悔しさと怖さが、いっぱいいっぱい詰まっていて、冷静に考えるスペースがない。


(急がないと、助けないと。あの天壺ってのがあればいいんだろうか。紀田さんの所に取りにいって、そしてどうしたらいいんだろう……)


 情報が少なすぎる。もっともっともっと、綾女と英利を質問攻めにすればよかった。

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