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【完結】史上最強プラス ~鬼神のロジック~  作者: 前田留依


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第1章 落下スル少年と殺意アル刃物20

「英利ーぃッ!」


 綾女(あやめ)の叫び声が、成吾の色ぼけした頭を殴打した。


「プライドは捨てちゃ駄目だろ、オレッ」


 成吾は拳を握りしめ、無茶苦茶に腕を振り回して光を攻撃する。

 相手に実体がないから無意味な行動だった。


「バカな子」


 くっくっと喉で笑い、屡衣(るい)は左手に青く輝く大珠を乗せて成吾に向ける。


「あなたがこっちに来るなら、攻撃をやめてあげるわ!」


 色気の消えた明朗な声だった。


「……やめる?」

「そう。助けてあげるわ。綾女も英利も、そこに落ちている子も。命を救ってあげるわ」


 堂々とした口ぶりで、屡衣は竹から腰を上げた。


「ほんとに?」

「私が確約(かくやく)すると言っているのよ」


 だから盲目的(もうもくてき)に信じるべきだ、と彼女の目が語る。

 その強い眼光に、成吾は続けて質問が出来なくなる。

 まだ二十歳頃に見える屡衣から、絶対的な存在の力を感じる。

 娼婦から王者へ。迷いの欠片もない存在へ。

 屡衣という女は、自分の二面性を巧みに変化させていく。


「私に忠誠を誓いなさい。これが、あなたの仲間を助ける条件よ」


 それが正しい道だ。それしかないのだ。彼女の声に含まれた王者の貫禄(かんろく)が、成吾を圧迫する。


「……セイ」


 唄子の細い声が耳を打った。とうとう目覚めてしまったのだ。

 攻撃が止んでいるのか、裏通学路から衝突音は聞こえない。

 聞こえるのは綾女の嗚咽(おえつ)だけだ。英利が倒れてしまったのかもしれない。


 助けたい。早く助けたい。

 助けないと、絶対に延々と後悔する。


「おいで、坊や」


 成吾は(うなず)いて、屡衣に歩み寄った。


「ぁ……っ、天壺(てんつぼ)っ、七星陣(しちせいじん)!」


 荒い息と一つになって、綾女の呪文が投げつけられる。


 成吾と屡衣の間に、輝く北斗七星が降りてきた。

 七つの星は、視界を焼き尽くすほどまばゆい。

 光から顔を背けると崖に綾女がいた。

 上半身だけ崖から乗り上げて、小壺と両腕を屡衣に向けている。


「紀田さんっ」


 成吾は屡衣に背を向けて綾女に駆け寄る。

 制服は焼け焦げ、白い肌は墨と血で汚れ、あの美しかった黒髪の一部がチリチリになっている。


「成吾さん……信じては……いけません」


 息も絶え絶えに、綾女が話しかける。成吾は少女の声に耳をそばだてる。


「お姉さまは……王魅(おうみ)に操られた……悪魔です」


 小壺を包んでいた綾女の指先が、ぐったりと地に落ちる。

 真っ二つに壺が割れ、水に変化して宙に散る。


「殺されて……しまいます。わたくしは成吾さんを……」


 守りたい、と唇が動いた。

 そして綾女は動かなくなる。

 もう話す力もないのだ。

 彼女は琥珀色の目だけで、自分の意志を懸命(けんめい)に伝えようとしている。

 綾女は満身創痍(まんしんそうい)だ。

 では、彼女を守っていた英利はどうなったか。

 成吾は崖の下を見る。

 真っ黒に炭化した人の形の者が、路上に倒れている。


「――許さない」


 自分のものとは思えないほど、成吾は重く低い声を出す。


「何が、助けてやるだっ。もう、ボロボロじゃんかよ!」

「それが?」


 屡衣は豊かな胸を張って王魅を、明るく邪魔な北斗七星にぶつける。

 簡単に七つの星は砕け散り、成吾と屡衣を(へだ)てるものはなくなった。


「まだ生きてるじゃないの。三人とも。今のところはだけどね」


 怒りで血が沸騰しそうだった。

 鼓動に合わせて背中の痛みが復活する。


『敵だ』


 ズクズク(うず)きながら痛みが断言する。

 成吾は「そうだ」と心の中で答えた。


『お前は知っているはずだ。お前は過去にも同じ目にあった。見よ、あれは敵だ。大切な人を奪う目をしている』


 屡衣が静かな眼差しで、崖っぷちに屈んでいる成吾を見下ろす。

 綾女と同じ琥珀の瞳。

 だが、宿る感情が違う。

 屡衣の目は、人を殺すのに躊躇(ためら)いがない。


『敵は殺せ』


 背中の傷が指示する。


『殺せ』


 成吾は疼く背を右手で()きむしる。


『殺せ』

「一人でも死んだら、お前を許さない……。一生、許さない」

『殺せ』


「あなたの一生は、今終わるわ」


『殺せ』


「珍獣だから生かしてあげようと思ったのに」


『殺せ』


 成吾は自分の背骨に爪を立てた。何かがそこに潜んでいるのを知っていた。


『殺せ』


 それを身体から抜き出す。

 背から白い霧が噴出し、螺旋を描いて成吾の腕にからみつく。


「殺す!」


 絶叫しながら飛翔する。

 成吾の右腕が長く成長していた。

 肘から下が二倍になり金と黒の縞模様を描いている。

 その終わりで刃の切っ先が白く光っている。

 右腕が鬼の(おの)と一体化していた。


「筒器と一つになるなんて。おかしな子」


 全く驚いていない様子で屡衣が言う。


『我らはお前を仲間と認める』


 腕の黒い部分がぼこぼこと膨れ上がり、様々な人間の顔を浮き上がらせる。

 恐怖よりも頼もしさを感じた。

 自分は力を得た、と成吾は思う。


『行け、敵は殺せ!』


 竹林の上空から、浴衣の裾をドレスのように広げて仁王立ちする女を捕らえる。

 屡衣は王魅(おうみ)を軽く一撫(ひとなで)でして光をいっそう強くさせる。


王魅(おうみ)郭大(かくだい)


 青い光のドームが大珠を中心にして広がっていく。


「鬼の斧、斬れぇぇっ!」


 成吾はありったけの思いを込め、斧になった右手を左手で支え、そのままドームに突入する。

 火花が散り、刃が王魅のドームに食い込む。

 成吾の眼鏡のレンズにひびが入り、フレームは吹き上がる風に飛ばされていく。


「――ぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ」

「王魅、隠形(おんぎょう)!」


 突如、ドームが消え失せた。

 力を掛けていた分、成吾の落下速度が早まる。

 鬼の斧がパラシュートのように広がり、成吾を空宙で停止させる。


『逃げたな』


 屡衣はいない。

 真下に黒い影がいた。

 あの熊だ。

 熊が獲物の唄子へ向かっている。

 唄子の側にはシンがいる。

 シンもヨダレを垂らして、唄子を見つめている。

 また筒獣と同化しているのだ。

 シンの元にカノエが走ってきた。

 カノエは唄子に見向きもせず、シンの首根に噛みついて筒獣(つつじゅう)から引き離そうとする。


「ん……」


 唄子はまどろみの中から、信じられない現実に目を向けかけていた。

 筒獣の赤い口が開き、燃える炭のような赤黒いヨダレが落ちる。

 唄子のやわらかな髪の、ほんの僅か先に。

 枯れ葉に覆われた地面がジュウッと音を立て、少し燃える。

 地が湿っているから炎上はしない。――が、山火事になるのは時間の問題だろう。


「……なに、これ」


 眠り姫が覚醒した。そして火の元となっている化け物を見る。


「――きゃあぁぁぁぁっ」


 叫んで腕と足をぎゅっと折りたたみ、腐葉土の上に積み重なった竹の葉に頭を潜り込ませる。


(唄子を守らないとッ、あのクマを……っ)


『構わぬ、それも敵だ』


 鬼の(おの)も成吾も、斬るという意思は変わらない。

 敵は殺す。この世から抹殺(まっさつ)する。

 その為の力だ。

 そんな力を成吾は求めていたのだ。

 ずっと、ずっと。あの事件からずっと。


「鬼の斧、やつを殺せ!」


 あの筒獣(つつじゅう)は綾女と英利を焼いた。

 あの筒獣は二度も唄子を襲おうとしている。


(敵だ。あの犯人と同じ、敵だ)


 成吾の中の根深い憎しみが鬼の斧に注ぎ込まれていく。


『排除せよ!』


 布状から武器へ。

 鬼の斧の刃が変化する。

 半月型の巨大な武器へ。


「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」


 大きな鬼の刃が、筒獣の影を少し割った。

 内部は赤い。

 まるで火のるつぼだ。

 炎上する心界だ。

 ()られた筒獣から吹き上がる熱風が、成吾の髪や耳やシャツを焦がす。

 構わない。この願いが叶うなら。

 敵を抹殺して楽になる。心待ちにしていた瞬間だ。


「オレの前から、消え失せろぉぉぉぉっ」


 もっと強く振り下ろすと斧の刃が地面に食い込む。

 けれども、筒獣は消えない。

 影は、炎の心界は二つに割れても存在している。

 影の中に、何者かがいた。


 屡衣だ、と咄嗟(とっさ)に成吾は判断した。


(あれは敵だ。筒獣と一緒に殺してしまえ!)


 業火の中、静かに佇むその人影に向かって、斧を斜め上から振り下ろす――寸前。

 人の頭ぐらいの炎球が成吾に向かって飛んできた。

 横に飛んで炎球を避け、鬼の斧を元の大きさへ戻す。

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