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【完結】史上最強プラス ~鬼神のロジック~  作者: 前田留依


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第1章 落下スル少年と殺意アル刃物19

 成吾は力を込めて唄子を背負った。

 そして、前に垂れている唄子の腕を制服のネクタイでギュッと結ぶ。

 彼女の腕を引っ張って唄子の胴体をしっかりと背に乗せると、成吾はコンクリートの壁にしがみついた。


(こんな目に遭う前に、ロッククライミングもやっておくんだったっ)


 自分には知らないことや出来ないことが多すぎる。

 情けない気持ちになったが男の意地で踏ん張って、右脚を壁の出っ張りに引っかけた。

 思ったよりも楽に身体が上がる。

 ――視線を落とすと、シンが頭で唄子のお尻を持ち上げてくれていた。


(ありがと、絶滅種!)


 シンの助けを借りて、成吾は唄子を崖の上へ運んでいった。


柄杓(ひしゃく)泰一円陣(たいいちえんじん)!」

王魅(おうみ)光華粉砕(こうかふんさい)


 背後から、二人の女性の呪文と、金属的な衝突音が聞こえる。

 青い光で崖壁が染まり、大地が振動する。

 成吾は壁に短すぎた爪を立て、コンクリートの割れ目に足の爪先をねじ込んで耐えた。


「天壺、柄杓、泰一円陣っ」


 綾女(あやめ)の荒い息づかいが、成吾の耳にまで届く。

 顔を向けると、そこには泣きながら呪文を唱える綾女と、全身を赤く(ただ)れさせた英利(えいり)がいた。


 英利は顔の前で腕をクロスさせて目を(かば)い、影の攻撃を一心に受けとめている。

 カノエが吠え続けることで、攻撃の威力が削ぎ落とされている風に見える。

 それでも、英利は生きながら焼かれていく。

 毛むくじゃらの振り下ろすと、英利の服が裂け、炎が上がり、皮膚が焼ける。


 それでも、英利はガンとして動かない。


 彼がいるだけで見えない盾でも出来上がるのか、影の攻撃は綾女に届かない。

 綾女を守るために、彼は肌が焼けようが肉が裂けようが、座り込みもしないで立ち続けているのだ。


 成吾はぎゅっと目を閉じてから、歯を食いしばって頭上を見上げた。


(早く、唄子を助けるんだ。そして二人も助けるんだ)


 あの影や王魅という武器から二人を助ける方法など知らない。

 知らないけれど、見ているよりなら側にいる方が役に立つこともある。

 今、唄子を背負って避難できるように。


 手足二十本の指に力を込め、しがみつけ!

 落ちてはいけない。

 落ちて助かることは、稀だ。

 自分だけが逃げたら全員助かることも、稀なはずだ。


 あの立てこもり事件で、家族全員が助かったのは奇跡なのだ。

 警察の力もあっただろうが、あれは偶然が重なって助かっただけなのだ。

 成吾は、それに気付いている。

 心だけが、過去から逃れられない。

 人は楽な方へ逃げるから。

 心の奥で逃げたら楽だと思ってしまうから。

 心が身体を惰弱な方向へ動かしてしまう。


(オレは、助けるんだ!)


 あの二人がボロボロになっているのは、成吾と唄子を助ける為なのだ。

 それなのに、自分だけ楽をしていられるだろうか。

 狼の助けを借り、成吾は崖を這い上がっていく。

 悲痛な綾女の声と、英利の呻きが聞こえる。


「……くそッ!」


 全員助けたい。そう思った瞬間に成吾は決めた。


(崖の上まで昇ったらシンに唄子を任せ、オレが二人の盾になるっ)


 崖縁を両手で掴み、

「あがれーっ」

 叫びながら懸垂のごとく身を持ち上げる。


 そして、成吾は必死の思いで崖を昇り終えた。

 血豆が出来た指でネクタイを解き、竹の葉が重なる湿った土の上にドサッと唄子を下ろす。


「シン、唄子を守って。絶対、守って」


 白い狼はクゥンと鳴いた。甘える鳴き方だった。

 惜別かと思った瞬時、背に冷たい痺れが走る。成吾は首を巡らせた。


 斜め前に、だらしがない浴衣姿の女がいた。


 屡衣(るい)は地に先端がつくほどしなった一本の太い竹を椅子にして、優雅に足を組み、こちらを(うかが)っている。

 浴衣の帯は無造作に結ばれていた。

 肩から襟が落ち、ふくよかな二つの乳がはだけそうだ。

 湯上がりなのか、無造作にまとめた髪は濡れ、肌は怪しく火照って見えた。


王魅(おうみ)光華粉砕(こうかふんさい)


 彼女は赤い口元に小さな青い粒を摘み持っている。

 そこに彼女は命令していた。

 それだけで、綾女と英利を痛めつけられるのだ。

 二人の叫び声が崖を昇って聞こえてくる。


「あんた……」


「人形みたいな可愛い坊や。こんな姿で失礼。私のミスで大変なことになってしまったわね。思った以上に筒卵の意識が強くて制御が出来ないみたい。それはそれで、もう利用するしかないけれど……。でも……ふふっ。トラブル転じて福かしら? 今の状況は――」


 成吾は膝に手をついて立ち上がる。

 女は、屡衣は、酷薄(こくはく)そうな笑みを浮かべた。


「こっちに来る? 人を踏みにじるのって、とても気持ちいいわよ」


 屡衣は若いのに()れきった色香を漂わせて成吾を手招きする。

 成吾は崖を昇っていたときよりも強く奥歯を噛みしめる。

 腹が立って苛々して地団駄(じだんだ)を踏みたくなる。

 この根性曲がりな性悪女のために、二人の知り合いが翻弄されているのだ。


「ほんと、ブッサイクな女だな!」


 成吾の精一杯の悪口に、女は小気味(こきみ)よさそうな顔をした。

 「可愛い」と小声で言ってから、小さな玉を両手で挟む。


「王魅、大珠(たいじゅ)


 空に散らばっていた青い粒が、風音を立てて主の手の平へ戻ってくる。

 たった三秒ほどで小さな粒の山が、一つの大きな珠になった。

 よく見ると珠は、完全な球体ではなく桃に似ていた。

 上部が蕾のように尖り、下部は優しい丸みをもって割れている。女の乳と尻を併せもつ形だ。


「おいで、うんと楽しませてあげるから」


 珠からふわふわとした光が放たれ、成吾にからみつく。

 光からは甘酸っぱく刺激的な香りが漂い、成吾の深部から男の本能を誘い出す。


「おいで、坊やは私のものなんだから」


 屡衣は珠の尖りをつまんだり、指の腹で撫でさすったりしながら、うっとりとした表情を浮かべる。

 ゴクリ……と成吾の喉が鳴った。

 女に(ひざまづ)いて、その肉体にしゃぶりついて、心ゆくまで可愛がってもらいたい。


 めくるめく妄想が頭に閃き、心を支配する。

 屡衣は大珠をたっぷりとした乳房の間に挟め、浴衣の前を開いた。

 欲情に火照った肌が艶めかしい。彼女になら全てを捧げてもいい。

 ――身も、心も、プライドも。

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