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【完結】史上最強プラス ~鬼神のロジック~  作者: 前田留依


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第1章 落下スル少年と殺意アル刃物17

「あや、に、たけ……?」


 知り合いの驚きの登場に、唄子の呂律(ろれつ)が回らない。

 すると英利が唄子に無言で駆け寄り、右手の平を胸に向かって突き出した。

 パシッと手を叩くような音がして唄子は呆気なく倒れる。びくとも動かなくなってしまう。


「っ!」


(守ると言っていたのに……)


 動かなくなった唄子の姿を見て、全身に冷や汗がにじみ出る。


「……竹村ッ何してんだよ」


 無意識に声を出していた。

 しかし英利も綾女も、成吾を無視して振り返らない。


 綾女が唄子を背にして筒獣がいる竹林に向かい、さらにその前に英利が座り込む。

 唄子を守っているようにも放置しているようにも見えた。

 二匹の狼が、動き出そうとした成吾を唸る。


「なぁっ、唄子、気絶したじゃんよ。なにやってんだよっ」


 狼を押し避けようとしたが、なぜかそこから先に進めなかった。

 崖から落ちるのが怖いわけではない。

 ――さっきから迫ってくる、目に見えぬ大きな質量のせいだ。

 じんわりと空間が青く染まり硬化する。

 そして、綾女達と自分を引き離す空間が誕生した。


(アレだ)


 また一つ、成吾は記憶の残骸を拾った。

 青い玉が発した光と同じだ。


(これはバリアだ)


 テレビゲームから、状況に合う単語を拾う。


(バリアが自分をその場に押しとどめている。これを、斬ればいい……)


 思い出せば出すほど、ねばっこい冷や汗が背筋を流れていく。


(あの時、オレは斧を持って……バリアを斬った。そして……?)


「でかい」


 英利のがなり声が聞こえてくる。


「来ましたわ!」


 それまで、筒獣は竹林に潜んでいた影のどこかにいるのだろうと、成吾は思っていた。

 しかし、その考えは(くつがえ)された。


 竹林の影、全てが、筒獣という獣だった。


 地に這い蹲っていた半透明の影が膨れ上がる。

 太い竹を飲み込み、天へと立ち上がる。

 影と空の境界線がぼやけが細く細くよじれ、毛むくじゃらの形を作り出す。


 ……熊。その形を言葉にするなら、たしかに熊の一言しかなかった。


「子供んとき、熊に襲われてさぁ」と唄子が言っていた。

 誰かが助けてくれたとも言っていた。


『筒獣は、前に食い損ねた一人の獲物を探している』


 湖の長老達がそう言っていた……。


 もしかしたら、もしかしなくとも、今回の筒獣は前に唄子を襲った熊なのだ。

 食えなかった獲物に執着しているのだ。


 巨大なの影が唄子に近づく。

 影の毛先が唄子の短いスカートに触れただけで、そこは灰になった。

 火もないのに、裾が一瞬で燃え尽きた。

 化学繊維の焦げる匂いが成吾の鼻に届く。

 影のはずなのに、人を殺せるのだ。


 綾女は両手の親指を上に、人差し指を下にし、四本の指の先を胸の前でくっつき合わせて四角形を作る。


「天壺」


 手首を回し、人差し指を上にして真っ向に突き出す。

 四角の内部に光の亀裂が走り、白い小壺が出現した。

 先日に見た、あの何の変哲もない壺だ。

 指の四角の中心に浮かんだ壺は口を林に向けている。

 四角を形作っていた指が曲がり、丸になっていく。


柄杓(ひしゃく)泰一円陣(たいいちえんじん)!」


 すると、竹林から出てきた影が渦巻いた。

 いや、目の前の光景全てがマーブル模様になっていく。

 色彩が混ざりに混ざって、形を失う。


(三人は? 紀田さんっ、唄子っ、竹村っ)


 成吾は見えない壁にぶつかっていった。

 身を弾く感覚と、鈍く沈む感覚が、身体のあちこちでする。

 片足が進んでも片足は置き去りで、頭をつっこめても胴体が弾かれる。


(進め。進ませろ!)


 成吾は躍起(やっき)になってバリアへぶつかっていく。

 闇雲では無理だとわかって後ろに下がり、三段跳びで体当たりする。


(ホップ、ステップ、ジャンプ!)


王魅(おうみ)筒獣(つつじゅう)隠形(いんぎょう)ッ』


 いきなり壁が消え失せ、障害物が無くなった。

 いきなり成吾は足場を失う。


 ぐいっと身にかかる重力。そして急激な落下――


 リピート、という単語が頭に浮かんだ。

 幾度(いくど)と無く繰り返される記憶。


 ビルからの落下、自転車からの落下、爆風からの落下、落下落下落下――


 落下したら助かる。

 身に刷り込まれた馬鹿な暗示が、発動しようとしていた。

 また、いつものように意識が遠ざかっていきそうになる……。


(だから落ちれば痛いんだってよ。オレ、しっかりしろ!)


 ……しかし落ちることはなかった。


「あれ?」


 成吾の身体は停止していた。

 二匹の狼が、成吾のズボンを噛んで止めたのだ。

 狼達は凸凹したコンクリートの崖面で踏ん張っている。

 成吾と目が合うと、頭からゴトリと路上に落とされた。

 もう視界はマーブルではなくなっていた。

 唄子は気を失っていて、綾女は先ほどの姿のまま硬直していて、英利は身を低くしていつでも走り出せる態勢になっていた。


 嫌に静かで、不気味だった。

 熊の影もなく、風もなく、誰も声を出さなかった。

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