第1章 落下スル少年と殺意アル刃物15
身体は自由だった。
しかし心が、まだ紀田に束縛されている。
逃げても何もできない。
だから反撃するのだ。全て、壊してやる。
全身を使って、己の全てを賭けて、戦うべきなのだ。
所有しているマンションの一つに、屡衣は潜伏していた。
皮膚が痛くなるほど熱いシャワーを頭の上から浴びながら、彼女は苛立ちを抑えようとモザイクタイルの壁を殴った。
痛みはシャワーの熱と合わさって、妖艶な身体の上をするりと流れていく。
(なんなのよ……)
反撃したいのに、しくじってしまった。
予想外に現れた女の子みたいなガキのせいで、すべて台無しになった。
鬼の斧を奪われたのだけではなく、咲人が倒されてしまった。
もう戦えるのは自分だけだ。
(いいわ、私だけで……。綾女ぐらいなんとかできる)
そう思った時だった。
マンションの部屋に張り巡らせていた封印が、ぐらりと揺らいだ。
「……ッ」
異変を感じ取って、屡衣は裸のまま浴室を飛び出した。
ガラスで囲まれた脱衣室からリビングを見ると――そこには……誰もいない。
「――まさか」
金庫に駆け寄り、急いでナンバーをインプットしてから瞳孔をカメラに向けた。
開いた金庫の中には天壺が入っているはずだった……。
「……ない。天壺がない。中に筒卵が入っているのに……」
また、しくじった。
あの少年に出会ってから、嫌な事ばかり起こる。
道路で一番嫌な不幸を拾ったような気さえする。
「探さないと」
悲しんでばかりはいられない。
屡衣の頭は素早く事態の収拾に向かって動き出した。
嘆いていても物事は正常になりはしない。
誰も助けてなどくれないのだ。
常に未来を改善するのは、自分自身だ。
それは彼女が紀田で過ごした中で学んできたことだった。
屡衣は濡れた髪の上から手で両耳を押さえ、目を閉じる。
神経を集中させて、消えた筒卵の動きを探す。
(落ち着いて――大丈夫――私は、やれる)
彼女は心の中で呟きながら波立つ精神を鎮めた。
筒卵の居所を突き止めないと、望みは消え失せる――。
だから、必ず取り戻せなければならない。




