表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】史上最強プラス ~鬼神のロジック~  作者: 前田留依


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/51

第1章 落下スル少年と殺意アル刃物13

 成吾達を乗せた葉の船は、曲折(きょくせつ)する根の溝をモノレールのようにスムーズに通過していく。

 だんだんと何処(どこ)へ行こうとしているのか見えてきた。

 早急に作り上げた小川の向こうに、小さな湖があった。

 その湖には、見慣れぬ水生植物群が広がっている

 長い茎を伸ばして咲く蓮に似た花と、線香花火が逆さになったような細い木々などが、こんもりと密集していた。

 葉の舟が近づくと、植物達はゆっくりとゆったりと波打ちながら緑のトンネルを作っていく。

 二人を乗せた葉は、その樹冠に覆われた薄暗いトンネルに入っていった。

 中に入ると水面には、心界の陽光がまだらに浮かんでいる……。


『新しい筒卵ではないぞ』


 植物の中から誰かが話しかけてきた。


「いっ?」

『まだ二つの意識しか宿っていない筒卵です』

屡衣(るい)仕業(しわざ)と見た。心得てかかれ』

「その声、オレに?」


 綾女が振り返り、立てた人差し指を「しー」と唇に当てる。


「成吾さんは答えなくてもいいのです。長老方には族長の声しか聞こえませんの。長老方を保存している筒器が、主以外の声を聞きたがらないからですわ」


 説明の間も、様々な人がこちらに話しかけてくる。


筒獣(つつじゅう)は、前に食い()ねた一人の獲物を探している』

王魅(おうみ)を奪い返せ、脱落者(だつらくしゃ)始末(しまつ)せよ』


 密林の奥で影がゆらいでいた。

 水に腰まで浸かって立つ人の影に見えた。誰かがいるのだ。


「あの人達、ここで紀田さんを待ってたの? 水、冷たくないのかな?」

「長老方は、この世の方々ではありませんの。筒器「護孔(ごこう)」に蓄えられ続けた元族長の意識ですのよ」


 一度訊いただけでは飲み込めず、成吾は頭の中で言われた言葉を整理する。

 既にこの世の人ではなくて、元族長で、つまり死んでいて、護孔という筒器の心界に蓄えられている。


「幽霊の声ってこと?」


 ぞっとして肩をすくめると、綾女が首を横に振った。


「いいえ。生きていたときの意識ですのよ。紀田一族が今まで存在し続けたのは、こうして長老方が生き続ける知恵を授けてくださるからですの」

「パソコンみたいなもん? ハードディスクの中に詰まってるの?」


 成吾の問いに綾女は(うなず)いてから、小さく笑った。


「近いですわ。長老方は、現存して思考する生きたままの記録ですから」


 成吾は水生植物の中を注意深く(のぞ)いた。

 目立って見えるのは、極彩色の花や木の実。

 それらを蔦植物が大雑把(おおざっぱ)に編んで一つにしている。

 まるで小さな密林だった。


『人々が筒獣の側に向かっている。筒獣は隠れている』

『沢山の人が来る。だが、筒獣は逃げようとしない。執着心だ』


「あのさ、筒獣って人を襲うのに人が怖いの?」


 小声で綾女に話しかけると、彼女は首を回して成吾を見た。


「筒卵の内部の(にご)り……よどんだ感情のことですが、それと(こと)なる感情を多量に取りこむと、筒卵は分裂して爆発するのです。ですから筒獣は集団に近づきません」


 トンネルの先が見えたはじめた頃、ざわめきだった言葉が一つに束ねられていった。


『方位(かん)に筒獣がいる』

『筒獣は獲物を発見した。筒獣はその獲物に固執(こしつ)している』

『まだ時間がある。人々が建物から去った後、狙うだろう。獲物を守る体制を整えよ』

咲人さくとの匂いもする。心してとりかかれ』


「はい、わかりました」


 綾女が答えると、密林の中は静まり返った。

 葉の舟がトンネルから抜け出す。

 そこは山の中だった。

 正確に言うと、天磐山(あまいわやま)(すそ)に広がる竹林の中だ。

 右斜め上に、天磐学園高等部の体育館が見える。


「天磐山の中には、護孔(ごこう)から外の世界へ出ていける場所がいくつか合って、ここはその内の一つですわ。ですが、防御のために入り口は二つしか存在しませんのよ」


 成吾に説明してから綾女はスマホを確認する。


「もう学校が終わりましたのね……では獲物は学校の誰かかもしれませんわ」

「お嬢!」


 竹林から英利が飛び出してきた。神出鬼没である。


「参りましょう。――成吾さんは、このままお帰りになってくださいまし」

「こいつも連れていくべきだ。言葉で説明したって、現実を見ないと納得しないもんだろ」

「危険です」

「知らない方が危険だ。ヒノエ、シン!」


 山登りの時に出会ったニホンオオカミが二匹、英利の両サイドに駆け寄ってきた。

 どうやら英利は本当に絶滅種の飼い主らしい。

 ひっそりと山奥で、狼の絶滅防止をしている変人。

 かなり嫌な光景だ。


「こいつらに成吾を守らせる。筒獣は目覚めたてらしいから、そんなに力はないだろうよ」


 英利は「成吾」と呼び捨てた。

 彼の中では成吾は友達なのだから当たり前なのかもしれない。


「長老方は、咲人さまの気配を察知(さっち)したようですの」


 その言葉に、英利が狐目(きつねめ)を大きく大きく開いた。


「咲人が、もう動けるって? あんなに酷い怪我をしたのに」


 綾女が慌てた様子で成吾を見る。


「成吾さんはお帰りになられて……」

「お嬢。避けていたって、何も始まらないよ」


 低い声で英利がたしなめた。

 綾女は成吾から目をそらして項垂(うなだ)れてしまう。


「まだ、部分的にしかお話ししていませんの。ですから、英利、お願いですわ」

「なら、今すぐ全ての情報を伝えてやれ。情報がなければ、考えることもできない。考えなければ動けない。自分の身を守ることすらできない」


 耳を塞ぎたい、と成吾は思った。

 ずりずりと過去の傷口に塩をすり込まれている気分だ。

 英利の言葉は、そのまま彼の家族の状況と重なっている。


「俺等が目隠しをしたら成吾は自分で自分の身を守られなくなるんじゃないのか? それともコイツが死ぬまで、俺達が丁重に守ってさしあげるのか? 紀田の頂点にいたあの二人から?」

「成吾さんは元々部外者だったのです。私達が守るのは当然ですわ」


(守るのが……当然って……)


 成吾は、少女のような端正な顔をぶんっと振った。

 そして、華奢(きしゃ)な手を握りしめて腹に力を込める。


「オレも行くから!」


 大声を放つと、英利がニヤリと嫌な笑い方をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ