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【完結】史上最強プラス ~鬼神のロジック~  作者: 前田留依


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第1章 落下スル少年と殺意アル刃物10

 学園一の美少女と学園を抜け出した。

 しかも手を繋いで、ぶらぶらと散歩して、ハイキングして、竹林に入って、竹や岩を握りしめて。


(おいおい、登山になったぞっ)


 成吾は岩にしがみつきながら前方を見る。すごく軽々と岩を登る綾女の姿があった。


「なぁ、どこに行くんだよっ」

「裏口ですわ」

「学校の裏口?」

「わたくしの家のです。ここが近道ですの」


 記憶を探ってから成吾は「あー」と短く納得する。

 天磐山(あまいわやま)周辺は紀田家の土地なのだ。

 彼女の家柄なら、別荘の一つや二つあってもおかしくはない。

 ただ、そこに成吾を連れていって……。


 1.楽しくお喋り。2.楽しくイチャイチャ。3.楽しく新興宗教――さあっ、どれだ!


 まずは消去法で、2は消える。

 成吾は女にモテない。

 中学時代、好きになった娘に告白したら「わたし、異性が好きなの」と戸惑った顔で言われた。

 成吾は同性にしか見えないのだ。

 せめて背が高かったら女顔だけですむのだが、背は平均女子の身長である。


(せめて1であったらいいけど、やっぱ3かなぁ。鬼の斧なんて縁起が悪いのになぁ)


 数日前の曖昧な記憶が、変な方向に考えを持っていく。

 脳をミキサーにかけているようだ。

 ぐるぐる、ざくざく。

 砕かれて混ぜ合わさって、考えれば考えるほど……。

 どろどろ、びちゃびちゃ。

 訳がわからなくなった上に悲観(ひかん)が増す。


 荒い息を吐きながら最後の岩を登り終えた。

 少しだけ平らな土地がある。

 岩で囲まれた円上の地の中心で、綾女が少し躊躇ってから振り返った。


「あのことって誰にも言っていませんのね?」


 滑舌(かつぜつ)のいい演技めいた口調だった。いつ()こうかと計っていたらしい。


「事故や斧のことなら、医者にも、家族にも話した……」


 言ってしまってから、血の気が引いた。


(4.目撃者を殺すため、だったらどうするよっ!)


「ううん……何も言ってません」


 成吾は大きく(うなず)いてみせる。

 記憶が本物なら彼女達は危険だ。

 マトモな思想を持っているとは思えない。


「成吾さんが入院した病院は、紀田の系列の者が経営していますの」

「……あ、あの。医者以外には誰にも話してませんっ。本当に。本当に!!」


 成吾は必死になって言った。

 自分がいなくなったら両親がメチャクチャになる。

 五時半の電話に出られなくなって、遺体が見つかって……それより家族までもが犠牲(ぎせい)になるかもしれない。

 あの弱い両親達が、また事件に巻き込まれる。


「お願いだから、オレを殺さないでッ」


 少女の肩を揺さぶって、成吾は(うった)えた。

 声を出したとき、背中がビリリと痛む。

 新たな背の傷は、銀行立てこもり犯にやられた傷と交差していた。


「わたくしは、あなたを殺しません。助けたいだけです!」


 強い力で右腕を引っ張られ、そのままギュっと抱きしめられた。

 顔が、柔らかで量感のある胸の暖かさに埋もれ、背が、細やかでいて強い力を持つ両腕に支えられる。

 痛みと視界の白色が薄れていく。

 霧になって、どこかへ遠ざかっていく。


「助けたいのですわ。成吾さん」


 風に乗って優しく耳の縁を撫でていくのは、綾女の声と黒髪だ。


(……そうだった)


 成吾の全身から力が抜ける。

 彼は自分を守ろうとして斧を握りしめた綾女の姿を思い出していた。


「絶対に、誰にも殺させませんわ。だから安心してくださいませ」


 穏やかに話す綾女の心音に合わせて成吾の心臓が落ち着いていく。

 他人が自分の身を案じて助けると明言してくれたことで、脅える日々から、ほんの一歩だけ抜け出したような安心感をおぼえた。


「ありがと、紀田さん……。もう平気」


 大丈夫だと伝えてから深呼吸すると、自分の息が柔らかな膨らみの間に広がる。

 綾女が「んっ」と小さな声をあげて身を捻り、背中に回していた腕を(ゆる)ませる。

 成吾は一気に正気を取り戻し、少女の胸から身を離して包容から脱出する。


「ゴメンッ、その、こんなっ」

「いいえ、わたくしの言い方が悪かったのです」


 答えはズレていた。

 綾女は羞恥(しゅうち)など感じていない様子で、その場にお尻を落とす。

 二人は地べたに腰を下ろしたまま向かい合った。


「わたくしが『話してない』と言ったのは、あなたの過去ですの」


 過去、と成吾が口の中で繰り返す。


「そう。過去の事件のほうです。あなたのお母様が、トラウマで気を失ったのかもしれないと医師に話してくださいました。それで、それに関係する報告が、私の元に届きましたのよ」


 成吾が錯乱(さくらん)したのを見たからか、彼女は少し言葉を濁した。


「銀行の?」


 問い返すと、綾女は頷いた。


「あなたは学園の誰にも話していませんわ」

「そんなの話せるわけないっしょ」


 ぼそりと言うと、綾女は首を振る。


突然(とつぜん)気を失って倒れるのは、虚弱体質(きょじゃく)ではなくて、あなたが心に傷を抱えたままだから。それを教師にも話していないのですね」

「……唄子は知っているよ。家が近所でさ、母親同士が仲良くて、話しちゃったらしい」

「自分から伝えているのと、人づてに伝わるのは違いますでしょう?」


 そう言って綾女は優しく優しく背を撫でる。


「同情とかしちゃったりしてます?」


「いいえ、尊敬(そんけい)しています。あなたは自分一人でなんとかしようと頑張っていますもの」


 その時、ざわっと竹や茂みが動き、次々と周囲の岩の上に灰色の獣が降り立った。

 犬のように見えるが、犬ともいえない空気を漂わせている。


「あら竹村の。あなたの気配を感じてしまったようですわ」

「竹村の犬?」


 それにしては随分と数が多い。

 ざっと数えて30匹はいそうだ。全部同じ血統の犬に見えるから、純血種なのだろう。


「竹村ってブリーダーとかしてんの? これって何犬?」

「イヌ科にはちがいませんが……」


 2匹の犬が綾女の前に来てお座りする。

 小柄で、背が少し曲がり、ハスキーと柴犬が混ざった顔をしている。


「この赤っぽい毛の方がヒノエで、白っぽい方がシンです。世間では、ニホンオオカミと言われています」


 成吾の思考が一旦停止する。


(ニホンオオカミ――)


「それって、絶滅種じゃ……」

「絶滅しておりませんわ、ほらこんなに」


 明るく言い返されると、何も言えなくなる。きっと宗教の方で「ニホンオオカミ」であると決められているのだろう。

 信じる者は救われるのだ。


「言葉で全てを説明するのは大変ですので、取りあえず」


 綾女はそういって、背後の岩をがつっと殴った。

 殴ったものは、岩と言うよりは、岩の手前にあったようだ。

 よく見ると綾女の拳は岩肌の少し前で止まっている。


護孔(ごこう)! わたくしを入れてください」


 薄氷(うすひょう)のようなものが砕ける音が聞こえた。

 すると、地面が揺らぎ、見る見るうちに土が盛り上がり、その前の竹が左右に倒れた。

 ものの五秒もしない内に、深くて明るい穴が開いていた。

 土の中なのに、日差しのようなきらめきが見える。


「これは護孔(ごこう)。地底に隠れ里(かくれざと)を作ってくれる筒器(つつき)ですの。普通に家の正面玄関から入っても、分かっていただけないと思って裏へつれてまいりましたのよ」

「ツツキ?」

「ツツのウツワで筒器ですの。王魅(おうみ)や鬼の斧も筒器ですのよ。心界(しんかい)の力を秘めていますわ」


 成吾は呆然(ぼうぜん)としていた。

 穴の中から葉のざわめきや小鳥のさえずりが聞こえてくる。


「中に神様とかいるの?」

「いませんわ。これは簡単に説明すると多機能な(へい)です。あらゆる手段で外部から守ってくれます」


(新興宗教ではなく、ハイテク技術――?)


 紀田家ならあり得るのだ。

 金山市は、学園も、病院も、駅前のホテルも、なんかの研究所も、紀田の支配下にある街だ。

 それを考えれば、周りにいるニホンオオカミだって本物かもしれない。

 研究所で復活させたのかもしれない。


「この護孔(ごこう)は筒卵が岩に寄生したもので、王魅(おうみ)は青金石という宝石に筒卵が寄生したものです」

 言いながら、綾女は内部へ入っていく。


「大破してしまった鬼の斧は、(おの)に筒卵が寄生したものです」

「筒卵って、ナノテクとかの隠語(いんご)?」

「筒卵は筒卵ですわ」

「……そう言われても」


 綾女が穴に入ろうとしない成吾の手を取る。


「紀田一族を理解していただかないと、あなたを守りようがありませんの。ですから、中へ入ってください。お話しいたしますから」

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