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第16話 対法術師弾、準備完了

 アメリアがさらに話を続けようとするのを無視して、かなめは更衣室のある二階へ続く階段を上ろうとした。


 だが、ちょうど降りてきた技術部の小火器管理担当の下士官の姿を見て足を止める。


「おい、アタシのチャカ。上がったか?いつまでも丸腰ってのは気分が悪いんだ。ちゃんと仕上げてるだろうな?」


 かなめの荒っぽい口調に、誠はなぜだか安心感を覚えた。


 戦場に行く前の彼女の『銃がそばにないと落ち着かない』性分が、いつもの彼女らしく思えたからだ。


 下士官は小さく笑って答える。


「ええ、出来てますよ。皆さんの銃も、対法術師用の弾に替えてあります。お会いしたら伝えておいてください」


「分かった」


 かなめは軽く手を振り、気のない返事を返すが、その目にはわずかな安堵が浮かんでいた。


「ああ、そう言えば班長は?」 


 彼がそう言うと遅れてきたカウラがハンガーの入り口を指差した。そこにはなぜかランに頭を下げている島田とサラの姿があった。


「なんだ?アイツに小火器関連の担当のお前が話があると言ったら……決まってるか……島田は銃器をあまり使わないからな。アイツは自分の拳ですべてが解決できると信じている根っからのヤンキーだ。相手が銃を持ってたら逃げるという発想しかねえ。そんな軍人聞いたことがねえぞ。だから東和は『平和ボケ』って甲武から馬鹿にされるんだ」 


 かなめの言葉に下士官はそのまま階段を降りてランのところへと走った。その姿と誠達を見つけてランが一階の奥にある技術部の部屋を指差した。


「銀の弾丸でも支給してくれるのかね?一撃で不死人を殺せるような奴。そうでもしなきゃ今回の任務はかなりヤバいぞ」 


 そんな茶化すようなかなめの言葉だったが誠は冗談には受け取れなかった。


 昨日、誠が手をかけた法術暴走で再生能力が制御できなくなり、化け物と化した法術師。その姿を見れば一般の武器で対応することが出来ないことは容易に想像ができた。


 下士官は二言三言ランから話を聞くと誠達のところに走って来た。


「とりあえず火器管理室に集合だそうです」 


 そう言って下士官は再び技術部の班ごとの部屋が並ぶ廊下へ駆け込んだ。それを見ながらカウラは目で誠についてくるように合図するとそのまま下士官の消えた火器管理室に足を向けた。


 下士官について火器管理室に入った誠に、職人じみた顔の初めて見る下士官達が目に入った。ここは射撃が苦手な誠には無縁な場所。誠にはそう思えていた。独特の刺激臭が鼻を襲う感覚でこれがいわゆる硝煙の匂いなんだと誠は察した。


「ちょっと待っててくださいよ、西園寺さん。西園寺さんの銃はひと手間隊長が加えたとか言ってたんで。何をやったかは見てのお楽しみと言うことになります」 


 そう言って誠には何に使うのか分からない機械の間をすり抜けて火器担当下士官は姿を消した。


 そこでは技術部の女子下士官が弾丸を薬莢に差し込む作業を続けているのが見えた。淡々と女子下士官は機械に薬莢を押し込んではその度に大きな振動と機械音がリズミカルに室内に響いた。


「一々リロードしてるのか?まあそうだろうな。神前のルガーだって弾は工場装弾じゃないって話しだし。毎月毎月ご苦労なこった」 


 かなめはそう言うと誠の顔を見た。厚い眼鏡の小柄な女性下士官が立ち上がるとテーブルの内側に用意してあったそれぞれの使用している銃を並べた。


「えーと、じゃあクバルカ中佐」 


 そう言って超小型拳銃を眼鏡の女性は取り出した。ランが歩み出るとそこには銃と予備マガジンが二本。それに見慣れないハングルの書かれた箱に入れられた弾丸が置かれていた。

挿絵(By みてみん)

「こいつか……。マジで使えるのか?というかあのハンミン製?信じて良いのかよ……あそこはナノテクノロジーと恋愛映画が売りの国だぞ。銃弾の性能が優れてるなんて話は聞いたことがねー」 


 ぎりぎりカウンターに届く背のランが銃を手に取ると、慣れた手つきでスライドを引いて超小型な愛銃PSMのマガジンを叩き込んでスライドを閉鎖した。


「一応、アメリカ陸軍の法術研究の資料から引いて作成したものですから大丈夫だと思いますよ。あそこはコピーを作らせたら宇宙一の国ですから。その点ではアメリカ陸軍のそれに匹敵する威力は保証します。実際、私もそのメーカーの実演動画を見たんですが干渉空間をやや無効化できる効果があるのは確認できたんで。ですので、あの干渉空間の展開する銀色の壁をぶち破る効果があるのではないかと言うのが実験結果から分かっています。アメリカも法術研究にはかなりの予算を割いてますから。まあ最新のデータはくれるような国では無いですが」 


 おどおどと眼鏡の女性下士官が答える。弾丸の弾頭は見慣れたフルメタルジャケットの金色ではなく鈍く光る銀色の弾頭だった。


「マジで銀の弾丸かよ。狩るのは吸血鬼か?それとも狼男か?本当に干渉空間をぶち破るのか?でも干渉空間をぶち破っても相手が不死人だったら意味ねえじゃねえか。でもそれが普及して敵もこれを撃ってくるようになったら神前の特技が無くなるなるな。技術の進歩って奴にも困ったもんだな」 


 かなめが皮肉めいた言葉を吐いた。だが、女性下士官は相手にしないでランにジャケットの下にもつけれるようなショルダーホルスターを渡した。


「じゃあ、次は嵯峨茜警部」 


 事務的な女性下士官の言葉に反応して茜が踏み出す。その目の前に女性下士官は大型のリボルバーS&WすみすあんどうぇっそんM327を差し出す。


「おい、今時リボルバーかよ。そんなにジャムが怖いのか?」 


 そう冷やかすかなめを軽蔑の視線で一瞥すると茜も箱に入った357マグナムの特製の弾を手にする。


「一応これでもリボルバーとしては大容量でシリンダーに8発入るんですけどね……。西園寺大尉じゃないんですからそんなに弾は必要ないですよ。いざという時のスピードローダーは必要ですか?」


 火器担当の下士官の言葉に茜は笑顔を返した。

挿絵(By みてみん)

「それもお願いするわ。かなめお姉さまのように銃に頼ったりするつもりはないですけど弾は多いのに越したことは無いですもの。かなめお姉さま。私はあくまで捜査官です。銃を撃つのはその本分ではありません。無駄弾を消費してその度に始末書を書いているお姉さまとは違います」 


 茜にさらに丸い器具が渡された。茜はすぐに弾薬の蓋を開け、素早く弾を手にした銃のシリンダーを開くとローダーで一気にシリンダーに装弾した。


「じゃあ、クラウゼ少佐」 


 待っていたかのようにアメリアが踏み出した。そしてごつい変わった形の拳銃P7M13をカウンターの眼鏡の女性下士官から受け取った。


「何度見てもP7M13は珍妙な銃だな……マジでそんなに笑いを取りたいか?命を懸けてまで」 


 かなめはからかうような調子でアメリアの一見変わった見た目の銃をそう評した。確かに誠から見てもその銃の形は誠の見慣れた拳銃のイメージとは異なって見えた。


「珍妙?改めてそう言われるとしゃくに障るわね。これは正義の銃!私にぴったりの銃なの!何度言ったら分かるのかしら」 


 予備マガジンを見ると誠と同じ9ミリパラベラム弾が装弾されていた。


「ああ、神前曹長。あなたの銃とこの銃の弾丸は同じ口径だけどこの弾だともしかすると相性が悪いかもしれないですから、神前曹長のは別に用意しましたよ」 


 まるで誠の心を読んでいたかのようにその下士官は言った。


「私のACP45弾は?」 


 カウラの言葉を聞きながら下士官は彼女の銃、1911と予備マガジンを取り出してカウンターに並べた。


「45口径くらいの口径でないとストッピングパワーが期待できないってか?カウラも心配性だな。おう、アタシのは?」 


 急かすようなかなめの言葉にうんざりした顔の下士官が手にいつものかなめの銃、スプリングフィールドXDM40を持って現れた。


「おい、どこが……ってスライドがステンレス?そんなのメーカー在庫にあったのか?それともステンレスから削り出して作ったのか?叔父貴もマメだね……ステンレスの鋼材からスライド一つ削り出すなんて本当に叔父貴は暇なんだな。しかし、ステンレススライドは素材に粘りがあってスライドの動きが鈍くなるんだよな……確かに強度的には銃を撃ちまくるには適してるけど。まあ、アタシ向けだ。良いものに越したことはねえ」 

挿絵(By みてみん)

 そう言って技官から銃を受け取るとかなめは何度か手に握って感触を確かめた。そしてすぐに何度かスライドを動かしその動作を確認した後、マガジンを受け取って再び装填された対法術師弾が確かに装填されているかどうかを確かめるように眺めた。


「少し……いや、かなり感触が変わってるぞ。やっぱりスライドをステンレスにするとスライドの動きに粘りが出るな。これが吉と出るか凶と出るか……」


 かなめはマガジンをとりあえずテーブルに置くと慣れた調子で銃を何度も構え直しながら、その重心のわずかなずれも感知してそうつぶやいた。


「まあスライドを替えたこともありますけど法術対応のシステムを組み込んだんですよ。前から西園寺大尉が頼んでたじゃないですか!」 


 火器担当下士官は忘れられたと言うような自分の言葉にムッとすような調子でそう言った。銃のバランスにどことなく納得がいっていない表情のかなめはその言葉を聞いて頭を掻きながら女性下士官に目を向けた。


「そうだったっけ?その内容は……どうせ叔父貴の事だ。秘密なんだろ?まあアタシが法術師として覚醒すれば嫌でも分かることだ。それまで楽しみにしといてやるよ」 


 かなめの回答に下士官は呆れたように天を向いた。法術師としてすでに名が広まっている母の西園寺康子。そのことを考えればかなめに多少の法術師の素質があっても当然だと誠は思うが、一方でカウラは少しばかりさびしいような顔をしていた。部下の下士官がマガジンと弾を取り出したのを見ると言葉を吐こうとしたカウラの口が閉じる。


「40口径よね。いつも高いと思ってたけど、いくらぐらい9ミリより高いわけ?」 


 自分の銃とホルスターがなじむのを狙って皮製のホルスターから銃を出したり入れたりしていたアメリアが先ほどの眼鏡の女性下士官に詰め寄る。


「このシルバーチップなら同じくらいだと思いますよ。ケースはどちらもリロード品ですし……プライマーの値段もたいしたこと無いですから。最近は遼州星系じゃあ銃関係の規制が厳しくなっていますから。市場ではかなりだぶつき気味なんですよ。ああ……拳銃持ち込み禁止の東和には関係ないですけどね」 


 そう言う相手を疑うような目で見た後、アメリアは何度も手にした銃にマガジンをいれずに構えの型をとるかなめを見つめた。


「すると、コイツで撃てばさっきお前さんが言ったように干渉空間を撃ち抜けるわけだな?それなりの法術効果が得られると考えて良いわけだ」 


 かなめの脅すような言葉に下士官はおっかなびっくりうなずく。それを見てかなめは手にした拳銃にマガジンを叩き込みスライドを引いて装弾した。


「じゃあ、班長」 


 女性下士官はかなめに対するのとはまるで違う明らかに呆れたような調子でそう島田に声をかけた。


「銃ねえ……俺は苦手なんだよな……確かにド下手な神前よりはマシだけどさ。拳銃って映画に出てくるようにビシバシ当たるわけじゃ無いじゃん?実際撃ってみると。反動とかがあって二発目以降はどこ行くか分からねえし……ああ、西園寺さんは別です!西園寺さんに銃で勝てる人間はいません!」 


 グチグチとごねつつとなりのかなめに恐怖の視線を送る上官の島田を見て下士官がにんまりと笑った。その顔を不審そうに島田が見つめた。技官からは島田に見慣れない小さい銃が渡された。


「確かにコンパクトな奴を頼んだけどさあ。こんなに小さいの?もっと銃らしい銃が良いんだけど」 


 そう言って島田はまじまじと自分に渡された銃を見つめた。それはラーナの使っているシグザウエルP230に似ていたがどこと無く古風な雰囲気の拳銃だった。


「ああ、それはモーゼルHScです。一応弾は380ACPだから護身用としてはぎりぎりのスペックですから。どうせ班長は前線部隊じゃないんだからそれで十分ですよ。それに班長は銃なんか渡しても抜かずに相手を殴るんだから必要ないでしょ?高性能な銃なんて」 


 下士官の言葉が終わると再び彼の部下が弾薬とマガジンを取り出した。


「なるほどねえ。確かにこれなら持ち運びは便利そうだわ。威力は期待できそうにないけど。やっぱり隊長の私物か?」 


「そうですよ。あの人の嵯峨屋敷には相当な量の銃のコレクションがあるらしくて、そこから引っ張り出してきているみたいなんです。まああの人は小遣い3万円ですから新しく買うなんてできるわけがありませんが」


 そうたずねる島田に下士官は返事をするとブリッジクルーが使っている銃であるベレッタM92FSを取り出してサラを呼んだ。


「弾だけの交換ね。私は楽ちんでいいわね」 


 サラはそれを受け取るとジャケットを脱いでショルダーホルスターをつけた。


「それでは神前」 


 そう言って神前の前に特徴的なフォルムのパラベラムピストルが置かれる。誠はそれがあくまで気休めでしかないことが分かっていた。


 自分が射撃が下手だということもあるがそれ以前に先日斬った不死人には恐らくこの程度の弾は通用しない。そのことはたぶんこの場にいる誰もが分かっている。それだけにその目の前に置かれた古風なデザインの自分の銃がどこか悲しげに見えた。


「いつも思うんだけどこれってルガーじゃないのか?どっからどう見てもルガーじゃん。ルガー以外の何物でもないじゃん」 


 島田の言葉に呆れたように無視して下士官は誠に予備マガジンと弾のケースを渡した。


「神前曹長。これは神前曹長の専用の弾です。炸薬の量が他の銃より多いので他の銃のと混ぜないでくださいね……まあ神前曹長の銃の弾は他の人のでも撃てますけどお前の銃に関しては私は保障しませんので。そのルガーと共通のトルグアクションはスライドアクションの銃より強力な弾を撃てるからそう言う弾をリロードして神前曹長用に用意したんです。そこんところを考えて撃て。外したらただじゃ置きませんからね」


 技術部の下士官はそう念を押して誠に銃を手渡した。誠はおっかなびっくりそれを手にと取ると不器用にマガジンに弾の装填を始めた。


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