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失うばかりだった主人公がひとつの世界に別れを告げる
戻れないのなら永遠に目覚めたくない
彼女の願いは切実でだからこそ残酷な結果を生んだ
彼女が再び目覚めたとき
その身体は他人のものだった
彼は愛する人を失った。
愛する人との幸せの絶頂の中で。
何よりも大事だった人と引き換えに生き延びる
彼の愛する人はもういない
いるのは愛する人の姿をした別人
憎むべき相手だった
彼女は幸せの絶頂の中で死んだ
後悔も思い残しも何もなかった
旅立ちに幸せな思い出と愛する人の心を両手に抱え
彼の幸せを願って逝った
それがどんなに残酷な願いだったかも知らずに
彼女は命と引き換えに愛する人の無事を願った
彼女は何も知らずに出会った人に憎しみに満ちた目を向けられた
彼は引き換えとなった代償を、それを呼び込んだ状況を憎んだ
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自分の手さえも見えない闇の中、一人の少女がまどろんでいる。
少女にとって、闇は恐れるものではなかった。
闇は少女の身体を包み、心を慰撫する。
ここでは何も考えなくてもいい。
不安も苦しみも差別も悲しみもなく
何にも脅えなくていい。
何にも考えなくていい。
思い悩む必要さえない。
喜びも、希望さえも無かったが少女にとってはどうでもいいことだ。
元に戻れないのなら、何も必要ない。
ただ眠りの中で癒されたい。
このまま
消えてしまいたい。
もう存在しないからだの受けた衝撃に、
あるのか分からない心が叫んだ悲しみに、
疲れきってしまったから。
今はただ、なにもかもを忘れて、何も見ず何も聞かず、自分さえも忘れ・・・
闇の中に沈みこんでしまいたかった。
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どうして・・・・
どうしてこんなことになってしまったのか。
何が悪かったのだろう。
何を間違えていたのだろう。
聖堂の中は、ステンドグラス越しに眩いばかりの光の中に包まれているというのに。
ガラスの中には聖母子が慈愛をこめた微笑を浮かべているのに。
彼の心の中には、絶望という名の暗黒が支配していた。
腕の中で眠る愛しい人。
永遠を誓い合うひと。
幸福の中で微笑んでいるはずの彼女は、今眠りの中にいる。
その顔は今にも起きそうで
少し上がった口角が幸せな夢をみているのではと思わせる
来年着るはずだった純白の衣装に身を包み
実はこちらを謀るために図ったいたずらなのではと
淡い希望を抱いてしまう
「今ならまだ怒らないよ。寂しかったんだろう。僕も会えなくて寂しかった。きつい戦いだったけど、無事に帰ってきたよ。約束どうりに式を挙げよう、これからはずっと一緒にいられる。もう離れなくて良いんだよ。だから起きて、僕に君の青く澄んだ瞳を見せて、愛する声で僕の名を呼んで」
ひっそりとした協会には男の声だけが空しく響く。
彼は少女を抱く腕に力をこめ、握り返すのを待つかのように手と手を重ね
御伽話のようにその身をその唇を重ねた。
しかし、彼の願いが届くことは無かった。
腕の中の彼女の熱は失われ、二度と彼に微笑むことも無かった。
これからもきっと鈍亀更新のような気もしますが、よろしくお願いします。