妥当な理由
ゴブリンをはじめとして果てはドラゴンまで数多の魔物を斬り伏せ、険しい渓谷や雲まで凍りつく極寒の地、そして溶岩の流れる火山地帯まで立ち塞がる数々の障害を踏破して勇者はついに魔王の住む城へと辿り着いた。
崩れかけの橋、あるべきところにあるべきものがないような違和感のある城の様相、そして草の一本も生えていない不毛としか言いようのない庭……全てが不吉な要素に満ち満ちている。
そんな不吉な城を、誰に邪魔されることもなく勇者は一人で進んでいく。
途中でいくつも壊れたままの罠や、鍵があるのに開きっぱなしになっている扉があったが、魔王の元へとたどり着くのに邪魔になるわけではないので捨て置き先に進む。
そしてついに、誰とも、魔物の一匹とも出会うことなく魔王の待つ玉座の間へと辿り着いた。
油断なく剣を構える勇者に対して魔王は口を開く。
「降参です」
「……え?」
両手を上げた魔王の言葉を勇者は思わず聞き返す。戦わずして降参なんてどういうことだ、と問う勇者に魔王はこう答えた。
「先王は信頼できる精鋭を連れてさっさと逃げて隠居しました。その他の部下も全員逃げたから城の維持管理すら出来ません。そもそも私はこの城から出たこともない箱入りです。そんな小娘が数多の冒険を乗り越えた屈強な勇者に勝てるわけはないでしょう?」
理由を聞いて納得した勇者は魔王の娘を連れて城を出る。人間の土地へと戻る途中、勇者の複雑な表情は消えることがなかった。