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ハロー・リトル  作者: るえこ
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2-4

「さて」


 もっとりゅーこちゃんを見ていたい気持ちもあったが、やることがある。俺は眠りを妨げないように寝室の電気を消してから、ノートパソコンの電源を点けた。軽い作業や動作チェックに使う程度のサブパソコンだ。それを持ってリビングちゃぶ台に着く。目的は、りゅーこちゃんの両親の手がかりを掴むことだ。


 まずチェックしたのはニュースサイトだ。何か事件は起きていないか。この周辺に絞り込んで検索をかけると、あっさりとそれらしい記事が見つかった。交通事故の記事だ。


 そこには今日の昼頃、大通りで車同士の衝突事故があったと記載されていた。乗用車の横からトラックが突っ込む形で衝突し、ふたりの死者が出ていた。トラックの運転手は生存しており、過失致死罪の容疑で逮捕だと大々的に書かれていた。だが、ニュースサイトではこれが限界だろう。俺はこの辺りの話題扱うローカル掲示板を開く。


 そこには、昼間の事故をリアルタイムで見ていた者やトラックの運送会社の内部を知るもの等、様々な視点からの書き込みがあった。無言で掲示板を追っていくと、車に関する書き込みがあった。そこには、間違いなくりゅーこちゃんの家の車と同じものの特徴が記載されていた。りゅーこちゃんの家の車はアパートの駐車場に停まっているのをよく見かけていた。そしてその車に乗り込み家族で出かけるところを見かけたことも何度もあった。嫌な予感が確信に変わていく。まるで外堀を埋めるように。


 りゅーこちゃんの両親は昼間、車に乗って外出しそのまま大通りで事故に遭った。そして、死んでしまったのだ。


 両親の死。だから帰ってこなかったのだという確信。俺はこの事実をりゅーこちゃんに伝えるべきなのだろうか? 伝えたら、りゅーこちゃんは泣くだろうか。少なくともしばらくは笑顔を見ることができなくなるだろう。向日葵が咲いたような明るい笑顔を俺に向けてくれることは、きっともうない。


 それに、俺は今日はこうしてりゅーこちゃんを保護しているが、この生活はきっとすぐに終わってしまうだろう。早ければ明日にでも。事故に遭った両親の身元が判明し、りゅーこちゃんの存在が明らかになれば、然るべき公的機関がりゅーこちゃんを迎えに来る。そして、りゅーこちゃんは遠くに、少なくともただのお隣さんの俺には手の届かないところに行ってしまうだろう。


 ぎりりと音がした。俺は自分が歯を食いしばっていたことに気がつく。俺の心は無性にイライラして焦燥感に駆られていた。漠然とりゅーこちゃんと離れたくないと思った。


 俺とりゅーこちゃんが離れる事は必然だ。頭では分かりきっていたし、離さないということが何を意味するのかもわかっていた。だが。りゅーこちゃんと過ごした僅かな時間。俺に向けてくれた向日葵のような笑顔。華奢な手足、タオルで拭いた髪のしなやかな感触。眠ったりゅーこちゃんの軽い身体。無防備な姿。それらを全て、一夜限りの夢の存在だと割り切ることが俺に出来るのか。恐らく、公的機関が動けばもう二度とりゅーこちゃんと会うことは出来ないだろう。俺達はただのお隣さん同士なのだから。


 それで、いいのか。頭の中でもう一人の俺が、ノートパソコンの仄暗い灯り越しに囁いた。

 

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