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りゅーこちゃんは濡れた髪から雫が垂れないように肩からフェイスタオルをかけ、俺のモノであるTシャツをまるでダボッとしたワンピースのように着ている。渡したハーフパンツは、どうやら履いていないようだった。
「ズボンなんですけど、どうしても落っこちちゃって……なので思い切ってこのままにしました」
どうしてこうも無防備でいられるんだろうか。少しは警戒しないのだろうか。思えばあからさまに野暮ったい俺にも挨拶をするような子だ。良い子なんだろう。きっと。それなのに俺は風呂上がりのりゅーこちゃんに対し、自分の知るりゅーこちゃんとのギャップを感じていた。火照った肌はほんのり赤みを帯びて、所々に雫が垂れている。まるで瑞々しい果物のようだ。濡れた長い髪は中途半端にタオルで拭いたからか、肌に張りついたり毛先が明後日の方向を向いたりしていて、それが視線を誘導する。大きく開いた胸元。太腿へ。表情からは少し憂いが感じ取れた。
「……やっぱりサイズ合わなかったかぁ。いいよ。気にしなくて」
視線を逸らす。太腿に向けたままではいけない。
「そう……ですか? じゃあこのままです」
りゅーこちゃんがちゃぶ台を挟んで俺の真向かいに座る。首からタオルをかけているとはいえ、髪から垂れる雫が畳床を濡らしてしまう。りゅーこちゃん自身はそれが気になるようで、しきりにタオルで髪を挟むようにして水分を取っていた。
「……ごめんなさい、お水、垂れちゃって」
そう言って申し訳なさそうに笑って見せる。
「えーと、いつもはどうしてるの?」
俺がそう聞いてみると、普段はドライヤーで乾かしているという回答が帰ってきた。ドライヤー……いつもタオルで拭くだけでドライヤーなぞ使ったことがない。そもそも俺の家にはない代物だろう。
「ドライヤー、家には無いんだ。ごめん」
「いいんですよ。無いものは仕方ないじゃないですか」
確かにりゅーこちゃんの言う通り。だがりゅーこちゃん自身は床を濡らしてしまうことを気にしてしまうようだ。せめて、水が垂れない程度には拭けるといいのだが……。
「髪が長いせいで、自分でタオルドライするのも難しいんですよね」
と、りゅーこちゃんが言う。タオルドライ? 疑問に思って聞いてみると、タオルで髪を挟み込むようにして水分を取ることをいうらしい。自分でするのが難しいのならば、手伝ってやればいいのでは。
「それ、手伝うよ。ここ座って」
自身の前にりゅーこちゃんを座らせ、首にかけられたタオルを拝借し髪束の先に溜る雫を挟む。いまにも垂れそうだったからだ。そして軽くぽん、ぽん、と水分を取ってやる。毛先の雫が落ち着いてから、長い髪を持ち上げる。うなじが見えた。熱気が広がる。髪は既に冷えているというのに、髪というカーテンの中は未だ火照っているようだった。白く細い首は、決して触れてはならないもののような気がした。