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「サイトウさん、お風呂借りてもいいですか?」
そう切り出したのはりゅーこちゃんだ。この暑い中ずっと外にいたんだもんな。汗をかいただろう。
「ああ、もちろん。沸いてるから、入っておいで」
ありがとうございます。りゅーこちゃんは俺に礼を言って風呂場に向かっていった。同じアパートの隣人だけあって間取りが同じなのだろう。迷うことなくたどり着けたようで、すぐに風呂の戸が開いて、閉まる音がした。
そしてふと気がついた。着替えどうしよう。幸いなことに風呂場は掃除したばかりだったので清潔だ。しかし野郎の一人暮らし、女の子が着られるものなんてあるわけがない。いや彼女でもいれば違うかもしれないが、そんなものとは無縁の人生だった。そして、流石に今まで着ていた服をもう一度着せるのもなぁ。あの炎天下だ。汗が染み付いてしまっているだろう。
こうなったら仕方がない。俺は引き出しからTシャツとハーフパンツを取り出した。サイズが合わないなんて百も承知だ。でもないよりはマシだろう。それらを持って脱衣所へ向かう。……シャワーの音。そして湿気。薄いガラス戸の向こう側ではりゅーこちゃんが一糸まとわぬ姿で身体を洗っているのだろう。俺はあまり考えないことにした。思考を虚無にするんだ。相手はひと回り近く歳の離れた女の子だ。
「りゅーこちゃん、着替えおいておくから。バスタオルはこれ使って」
シャワー越しでも届くように声を張ってそれだけを伝えると、俺は脱衣所をそそくさと後にした。
そもそも今までの人生、女性を自分のテリトリーに迎え入れたことがあっただろうか。ない。それ以前に俺は女の子という存在から無縁な人生を送ってきた。周囲で色恋沙汰が話題に上がる様になった頃、俺は教室の済で本を読んでいるか、趣味の合う友人とマンガやアニメの話題で駄弁って過ごしていた。大学でもいわゆる陰キャだった。なんなら女子から声をかけられることなんて、事務的な用事くらいでしか無かった!
……そこで思い出す。こうやって悶々としてはいるが、相手は子どもだ。何を思い悩む必要がある。親戚の子どもを預かったようなものであって、りゅーこちゃんはそういう対象ではない。そもそもそういう、色恋沙汰とかと結びつけていい相手ではない!
リビングのちゃぶ台に戻ってきた。そう、これはお友達とのお泊り会。なにか遊ぶものでも探してみよう。といっても俺の部屋にはゲームくらいしかないか。なるべくカジュアルに遊べて、ルールが簡単なものをいくつか見繕う。
テレビの電源を点ければ、無音だった室内をバラエティ番組の賑やかな音声が上書きしていく。ころころ切り替わる映像をぼけーっとちゃぶ台に肘をついて見ていると、シャワーの音が止み、間もなく
「お湯、ありがとうございました」
そう言ってりゅーこちゃんが戻ってきた。