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食うものならあるという言葉に反応したのか、彼女はゆっくりと立ち上がり涙を手でぬぐいながら俺の後についてきた。さらりとブロンドの長髪が揺れる。たしか彼女はハーフだったか。膝程の丈のノースリーブの白いワンピースからは華奢な腕が伸びている。
そこで思い出す。そういや、前に掃除したのいつだっけ。……黙って彼女より先に部屋の中へ進み、雑多な物やらゴミやらをとりあえず退けた。ちゃぶ台が姿を現す。それから彼女を部屋に招き入れた。
「散らかっていて悪いな。ほら、そこで待ってな」
彼女をちゃぶ台の前に座らせる。その顔を見れば、涙は止まったものの先ほど泣いていたからか顔は若干赤く、俯いている。彼女はまだ話せるほど心の余裕がないようで、黙ったままちゃぶ台に着き膝を曲げて三角座りになると、腕を膝の上にのせてまた顔をうずめてしまった。
俺はすぐさま袋ラーメンを茹で始めた。本当は彼女の様子が気になって仕方なかったが、キッチンに立つと彼女に背を向けることになってしまったので様子を伺うことができない。ただラーメンを茹でるぐつぐつという音だけが聞こえる室内。こんなとき、気の利いた話の1つでも出来ればよかったのだが、生憎と俺はそういったスキルを持ち合わせていなかった。どう話を切り出そう、そもそも事情を聞くべきだろうか。そんなことを考えているうちにラーメンは完成してしまっていた。
どんぶり2つ。完成したラーメンを盛り付けて、海苔とハムを添えてみた。ちょっとした心遣いのつもりだ。両の手にひとつずつどんぶりを持って、彼女の方に振り返る。すると彼女は顔を上げていた。赤かった顔もすっかりいつも通りの顔色で、俺の持つどんぶりを凝視していた。彼女の前にラーメンを置くその間もずっとどんぶりを見ていた。……珍しいのだろうか。俺は彼女の正面に座り自分のラーメンを置いて、溜息を吐いてから声をかけた。
「……たいしたもんじゃないけど、ほら、食べな」
彼女は行儀よく両手を合わせて「いただきます」と呟いてから、ラーメンに手を付け始めた。俺も自分の分を食べようかと箸を手に取ったところで、驚くことに彼女から声をかけてきた。
「これ、美味しいです。いつものラーメンと違うけど、おいしい。ありがとうございます」
彼女は俺の顔を見てからペコリとお辞儀をした。そして彼女が顔を上げたとき、少しだけ、少しだけだが、いつも見かけるときのような明るい表情を取り戻しているような気がした。
「ど、どういたしまして」
俺はぶっきらぼうにそう返すことしかできなかった。彼女の礼儀正しさにも驚いたのもあったが、俺の行いが彼女の元気に繋がったのだと思うと嬉しくて照れくさくなってしまったのだ。 そしてそのまま、お互い無言でラーメンを食べた。しばらくしてスープまで飲み干し綺麗に完食した彼女は、またも行儀よく両手をあわせて「ごちそうさまでした」と言った。俺も食べ終えたところだった。いよいよ彼女に事情を聞かなければならない。どうやって切り出そうかと言葉を選んでいると、彼女のほうから話を始めた。